太平洋のサンセット
<全長54,343キロを制覇した>
なんとも106日間に渡る船旅も、あと数日を残して終わろうとしている。春の桜咲き誇る横浜から出港、真夏の横浜に入港する。三ヶ月半の航海は長い。楽しいこともあれば、もうこんな船を降りて日本に帰りたいと思ったこともしばしばあっただろう1,000人余りの乗客の表情は明るい。みんなが仲間になった。船上では別れの挨拶・住所や写真の交換・お別れ会が頻繁に開かれている。なんと沢山の海を渡ったのだろうか。23カ国、24寄港地を訪れた。海と海峡とカナルと岬、湾、フィヨルドはいつだっていろんな表情をして私たちを迎え入れた。横浜から沖縄を横目でにらみながら、南シナ海、幾多の日本兵が死んだマラッカ海峡、広大なインド洋、アフリカ近くのアデン湾、スエズ運河、バブ・エル・マンデブ海峡、真っ赤な紅海、紺碧のエーゲ海、イタリア、スペインポルトガルを望んでイオニア海、モロッコとスペインの狭いジブラルタル海峡、ビスケー湾、スカゲラク海峡、カテガット海峡、バルト海、フィンランド湾、北海、ソグネフョルド・ネロイフィヨルド、フェアウェル岬、ラブラドル海、セントローレンス湾、大西洋、カリブ海、パナマ運河、太平洋ハワイを経由しての総長距離29,343海里(54,343km)を航行した。
<安直な観光地巡りは・・・>
考えてみれば壮大な船旅だった。船は24時間動き、スクリューは疲れを知らず大海原に回転し、私たち乗客には3食・ハウスキーパー・ベット付きで世界各地へ連れて行ってくれた。寄港地は港だから国々の表玄関である国際空港よりも断然面白く、庶民的である。寄港地に着けば、若干のお金はかかるが各種ツアーがあり、バスに乗れば日本語ガイド付きで行きたい観光地に連れて行ってくれる。いたれりつくせりのプログラムが待っていた。勿論、ツアーの中には現地の人々と触れ合えるホームスティや様々な交流会のツアーもあるが、やはり自分が探し当てた物ではない。これらはまさに安直で、基本的に「旅」とは言わず観光なのだろう。老人たちには実に良き計らいだが、やはり若者には、こんなに楽な外国旅行はして欲しくないなと思ってしまう。外国を知るということは、好奇心を持って「この国はどんな国だろう」と自身の手でボーダーを超えた所から始まる。慣れない語学を使い、たくさんの親切に出会ったり失敗をし、恥をかき、病気や現地の人々の輪の中にこそあるのだということだ。そこで体験したことが多くの成果を勝ち取るのだ。
<船上生活は楽しさ一杯>
船内では一日約80~100もの本部企画・カルチャースクール企画・自主企画が朝の6時から夜の11時まで行われていいる。映画はキャビンで一日3本、大スクリーンで1本。さらにはもっと個人的で船上新聞にも載らないような、一つのテーブルに数人が集まって折り紙や彫刻やオカリナなんかを作っているグループもある。
診療室、美容室、バー、ゴルフ練習所、サウナ、マッサージ売店…と基本的に何でもある。だから朝から晩まで頑張る連中がいる。朝一番、日が昇る前から船上散歩が始まり、6時にはラジオ体操、ノルディックウォーキング、太極拳やヨガが始まる。それから社交ダンスやフラダンス、卓球やウクレレ同好会、居合いなどなど目白押しだ。これがほとんどすべて無料で教えてもらえ、誰でも参加できる。
その半分以上は、乗客がリーダーとなって教えてくれる。これが豪華客船飛鳥とか日本丸とは違う所だ。みんな楽しそうにやっている。乗客も自分の得意なものを誰かに教える楽しさを味わう。ここで知り合って、毎晩のように趣味を同じくした友人同士の飲み会やパーティも開かれる。乗客が主体なのだ。だから乗客の半分近くはリピーターだ。
<私が担当したイベント>
ピースボートはただの観光船ではない。れっきとしたNGOが運営している。だから船内で行われるイベントでは、政治問題、環境、平和と戦争といった課題を多く提出する。世界の平和団体とも多く連携している。ピースボートは東北大震災や熊本の震災で、NGOとして目覚ましい活躍をしている。だから一乗客の私も、船上にて多くのイベントの担当をさせられた。多分、ロックやフォークや社会問題や政治問題を語れて、イベントができるだけの材料(私の場合はパソコンに入っていた)を持っている人が少ないことによる。
ピースボートスタッフは「朝までテレビ」のような討論番組をしたがった。すなわちそれまでコアな番組は、壇上の先生が講義する物ばかりだったからだ。きっと、もっと熱気が欲しかったのだと思う。そして民主主義の、賛成と反対に別れて「議論」する場を作りたくて私が指名されたのだろう。でも若者は数える程しか来てくれなかった。
イベント出演は10回にも及んだ。そして私は船内の有名人になった。ちょっとモテるようになった(笑)。何かこのボートに協力できて、私も嬉しく思っていたな。
ヘイトスピーチ問題で討論
メッセージロック、フォークを聞く
1-日本のロック、フォークの70年代(CD演奏と解説)
2-はっぴいえんどからサンボマスターまで
3-メッセージロックとフォークを聞こう
4-パネルデスカッション「憲法・9条」:パネラー
5-洋上選挙と参議選「どうなる、どうする日本」:司会
6-ヘイトスピーチを考える:司会
7-討論、原発は必要か否か:司会
8-ドキュメント映画『首相官邸の前で』:解説
9-ドキュメント映画『新宿西口地下広場』:解説
10-人物紹介 平野悠:ゲスト
<船を降りてからどうする>
長い航海がもうすぐ終わろうとしている。早春に乗って、真夏に降りる。この船に私が乗るのは三回目だ。色とりどりの変化を見せる海、音楽、酒、外国の船着き場の風景、そして気のいい女が側にいる。こんな毎日の生活は日本の地では出来ない。それぞれが「同じ船に乗っている」ということでどこか近親感が増大する。確かにこの船はリピーター率が高い。それがどんどん老年齢化している。若者が乗らなくなって来ているのがスタッフの悩みなんだそうだ。きっと70歳を過ぎた私は又、近い将来乗り込むに違いない。
船を降りて、以前の日常生活に戻るのは何とか避けたいと思っている。そうでなければ、この船に乗った意味がないと思っている。まだ答えは出ない。とりあえず朝起きる時間と夜寝る時間は断固、替えてみたい。早寝早起きだ。おっとわたしゃ、どこにでもいる老人になってしまうかな。いやだな。
狭いパナマ運河を行くピースボート