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92回「大阪から離れて......」

第192回「大阪から離れて......」

2014.07.01

疲れはてていた私

 大阪にトークライブハウス「Loft PlusOne West」を出店するために、東京と大阪の新幹線往復を繰り返し、ホテル暮らしとマンスリーマンション生活を約半年続けて来た。自分にとってはほとんど馴染みのない大阪での生活と新規の店舗制作。そしてオープンしてからの営業活動。途中いろいろ混乱はあって、戸惑う事しきりな日常が続いた。出店予算も、当初予定の倍近くかかってしまった。
 その間、「大阪はムチャクチャ面白い」「こりゃ〜カルチャーショックだ!」と言い続けてきた。「いっそ大阪にマンションでも購入して住んでしまおうか」と思ったくらい、私は興奮していた。
 そもそも、大阪出店を言い出したのは自分だ。私は、約10年振りにトークライブの企画立案に本格的に参加した。やりたい企画はいくつもあった。
 しかし、残念ながら私が担当した政治や環境、社会問題などの企画の多くは、思ったほどお客さんを集められなかった。東京でやる時の半分も集客できないのだ。
 自らブッキングしたイベントの当日、店の前に立ち、お客さんをただ待つ。予想よりお客さんが入っていると、出演者もスタッフもみんな笑顔になるのだが……。もちろん、まだ店はオープンしたばかり。大阪でロフトは無名なこともあるだろうが、これにはちょっとびっくりした。
 イベントの集客面でもそうだが、大阪に一時的にでも住むことによって、私は「大阪は東京とは違う」と言い張る、大阪人気質に初めて直接触れた。一種独特な大阪を取り巻く反中央集権的バリアを、私自身は超えることができたのか、今もわからないままだ。
 オープンから2カ月あまりが経ち、私は疲れはてていた。スタッフも慣れ、店の運営もようやく安定し始めていた。6月中旬、私は借りていたマンスリーマンションの契約を延長せず、一人東京に帰る決意をした。
 もう若くはない。「もはや私の時代ではない」と思うことしきりだった。大阪のロフトスタッフは、若者やアルバイト諸君を含め意気軒昂だ。頼もしい。そんな中、私一人孤立していたのかもしれない。
 
 
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緑深き高野山。まさに天に浮かぶ仏教都市といったたたずまいだった
 

関西の原風景を旅する

 大阪での単身赴任生活の間は、時間ができると関西各地を精力的に巡った。大阪のほとんどの町は自転車で制覇した。堺の仁徳天皇陵にも行った。兵庫県・姫路まで行き、「白鷺城」こと姫路城も見た。古都・奈良も訪ねた。
 さらには、難波から近鉄線に乗り、新緑の高野山にも足を伸ばしてみた。山の中に忽然と現れる仏教都市・高野山。寺の宿坊に泊まると、深夜、激しく突き上げるようなオーラの波が、私の身体の中で振動し続けた。世界遺産の寺院。深々とした森林に散る歴史ある無数の墓。1000年以上前のスーパースター、弘法大師・空海が開いた、まさに真言密教の聖地だ。現地では、空海は今も高野山・奥之院で生き、修行を続けていると信じられている。
 翌日は、早朝6時から勤行。雨にけむる高野山、奥之院の深淵なる深み。古き良き日本の原風景を旅すると、実に心が休まるものだ。
 また別のある日、大阪の喧騒を離れて海が見たくなり、小豆島に向かう。この島は初めての訪問だ。
 瀬戸内の海は素晴らしい。サンセットを見ながら、ホテルのレストランで一人食事。新鮮な海の幸がいい。海を見ていると走馬灯のごとく、青春時代の日々が脳裏に甦っては消えていく。
 小豆島では土庄に一泊して、翌日、フェリーで高松へ。どうしても鳴門海峡から淡路島を縦断し、明石海峡を渡って大阪に戻りたい、と思う。夜、土砂降りの中、鳴門線の終着駅・鳴門駅に着く。相変わらず終着駅は何もなく寂しい。ビジネスホテルの最上階から、雨の駅舎を一人眺めていた。
 翌朝発の高速バスは、鳴門海峡を渡り一路淡路島を縦走。明石海峡大橋を渡るともう神戸だ。高速バスの旅はなんだか情緒がない。ただ目的地に向かって走ればいい、という感じだ。
 

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10年振りで宿坊の精進料理を食す。これが夕食。

シンプルでしょ。酒はもちろん出ない
 

城崎温泉から天橋立へ

 山陰方面にも足を伸ばしてみた。文豪・志賀直哉の「城の崎にて」で有名な、城崎温泉に投宿。現地へ向かう車中、この短編を思い出しながらやって来た。古い温泉街には七つの外湯がある。朝湯も入れるのはありがたかった。1軒は休みだったので、6軒を制覇する。それぞれが工夫をこらしていて楽しい。とある外湯の壁に「湯船に浸る事は俗世界の汚れを落とす為でもある」と書かれていた。
 近年、温泉街の夜はどこも閑散としていることが多いのに、ここはみんな、外湯に出かけるのでにぎやかだ。夜、歴史ある古い旅館で一人痛飲。
 翌日は、城崎から北近畿タンゴ鉄道に乗り、日本三景の天橋立へ。車窓を流れる田園風景がいい。天橋立は期待に違わぬ絶景だった。観光船に乗り、さらには山の上から全景を堪能した。太古の昔、イザナギノミコトがイザナミノミコトのいる天に通うために作られた梯(はし=梯子)がこの天橋立だった、との神話が残っている。
 
 大阪から東京に戻って来て、もう二週間近くになる。なんだかんだ、こうやって大阪を思い出している自分がいる。一方で、私は今、東京郊外の我が家で近所の緑を楽しんでいる。やはり故郷はいい。それが田舎だろうと都会だろうと。何も考えない、ぼ〜っとした時間が過ぎてゆく。冷えた風が心地よい。
 
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城崎は歴史を感じさせる温泉町だ。川沿いの旅籠に泊まった
 
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