ピースボート船上で「原発賛成」だって!?
昨年12月の衆議院選挙。事前の各種マスコミの世論調査では「自民地滑り的圧勝」との調査結果が出て絶望的になった私は不在投票にも行かず、ピースボートに乗り南極やガラパゴス、マチュピチュへと向かう、世界一周104日間の旅に逃走した。その様子は、前回まで数号にわたって書き記した通りだ。
旅の途中は政治的な事は一切封印して、酒と観光に徹していたが、タヒチから横浜に向かう船内で、船のチーフディレクター・平山氏から「平野さん、最後にぜひ〝船内しゃべり場〟に出てくれ」と引っ張り出された。出席者は若者が5人、私、軍事評論家の前田哲男氏だった。
冒頭、若い茶髪の男が、「原発賛成、憲法改正を」と極右理論を得意げに喋り出した。「福島第二原発は、1000年に一回の事故だから仕方が無い」と言う。参加者の若い女性もうなずいていた。私は思わず、「お前、アホか〜! 福島の人の前でそれが言えるか!」って怒鳴ってしまった。まさか、世界軍縮を求め平和を追求する「ピースボート」の船上でそんな意見が出てくるとは思いもしなかった。
こんなのプラスワンでは平気だが、みんなから「平野さん、大人げないよ」と言われ、ちょっと凹んだ。若者とは、銭湯でも酒場でも、政治的・社会的な話題では必ず口論になってしまう。こういう時、時間をかけてちゃんと話すのが苦手なきらいがある。物分かりのいい、優しい大人になれない私は、幼いのだろうか? こういう話はなるべく避けた方がいいのかな? でも、なんだかそれは寂しいよね。
変わってしまった日本、変われない日本
3月末に日本に帰って来て、「平野さん、すぐ参加を!」と言われたのが、在特会の「朝鮮人殺せ!」と叫ぶレイシスト(人種差別主義者)のデモに抗議する行動だった。その光景を見ていて私は、「日本は全く変わってしまった」と思わざるを得なかった。
確かに、日本には思想・言論の自由はある。プラスワンでは過去、オウム擁護の評論家や右翼の大物が出演したこともあった。中国人監督が撮ったドキュメンタリー『靖国YASUKUNI』が物議を醸していた時、錚々たる右翼の面々を集め、特別試写会もやった。
しかし、どんなに極端な思想であっても、そこには一定の論理があった。在特会のデモを見ていると、賛成・反対以前に、あまりの幼稚さにあきれてしまう。
変わっているのは彼らだけではないのかもしれない。「お金をバカバカ刷って公共事業もたくさんやる」政権の支持率が60%以上。「アベノミクス」に湧き、そこらの主婦の間でも「株でいくら儲かった」という話が横行していた。
領土問題を中心に「中国や韓国、北朝鮮になめられている日本」をフィーチャーするマスコミ。憲法改正、再軍備、徴兵制、原発推進。安倍政権は支持率をタテにどこまで行くのだろう。福島は、広島、長崎の様に人々から忘れ去られ捨てゆく運命なのだろうか?
変わらざるべき点が最悪の形に変わり、変わるべき点は旧態依然。それが日本という国なのかと思うと、絶望的にならざるを得ない。もう私は歳だし、できたらこの辺で、政治や社会問題を全てスルーして、のんびり老後を送りたいのだが……。
在特会のデモで見かけたスローガン。これはひどい
東京に『市民』発電所を!
5月28日、プラスワンのイベントを観に行った。「東京に『市民』発電所を!〜エネルギー消費地から生産地へ/地域力が社会を変える!〜」。こんな地味な企画、お客さん来ないよな〜、と思っていたら超満員。うれしかった。
出演者は、自然エネルギーに熱心な、保坂展人世田谷区長と阿部裕行多摩市長。そして孫正義さんが設立した自然エネルギー財団の大林ミカさん。司会は写真家・桃井和馬氏ほか。さらに、各自然エネルギー分野のエキスパートの方々が参加してくれた。
イベント終盤に発言を求められ、「昨年の選挙結果の酷さから、もう日本には絶望しかないのではないか?」「今の若者は原発に賛成?」と、改めて問題提起。それから大討論会になった。
充実した素晴らしい時間だった。阿部多摩市長が、「多摩は維新でなくて、自由民権運動発祥の地だ!」と息巻いていたのも面白かった。
左から、高森郁哉、桃井和馬、保坂展人、阿部裕行、高橋真樹、古屋将太、大林ミカ
梅雨の間隙をぬって、千歳船橋駅近くの森繁通りを散歩していると、小さな小道を発見した。村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』にも出てくるとか。名前があったようだが忘れた。アスファルトやコンクリートでなく、土であることが一番気に入った。
昔、世田谷のこのあたりは見事な田園風景で、何本もの小川が流れていた。田園は住宅地になり、そして川は下水道として埋め立てられた。その上を公園にしたり、緑道にした。世田谷にはそんな道がたくさんある。四季折々の花が咲く。正面だけを見ていれば緑のトンネルだ。私は、先を急ぐ旅人のように、さっとその中を通り抜けた。
東京の郊外で見つけた緑の小道