「ピースボート地球一周の船旅」のポスターを、街角や飲食店で見かけたことがある人は多いだろう。私は今、その第78回クルーズの乗客だ。
実は、このピースボートに乗るのは2回目になる。3年前、私は南米ベネズエラの奥地にある神の棲む山、テーブルマウンテンと、そこから流れ落ちる世界最大の落差807mの滝・エンジェルフォールがあるギアナ高地に行きたくて、このクルーズに参加した。
かつて100カ国制覇をかかげ世界放浪の旅を続け、元祖パッカーを自認する私も、随分年をとった。一人で何から何までしなければならない、「自由旅行」を決行する勇気はなくなっていた。
前回のクルーズでは、スエズ運河を抜け大西洋に出、パナマ運河を経て、太平洋のイースター島やオーストラリアを回り、日本に帰って来た。船は故障のため大幅に遅れ、120日間もかかったが、それは素晴らしい航海だった。
船のバーラウンジでインドネシア人バーテンと遊ぶ
あこがれの地へ向けて出航
12月14日、午後1時。私は船上の人となった。船は横浜港を出港し一路台湾に向かう。今回の航海の寄港地を合計すると、生涯で120カ国近くを制覇することになる。そのほとんどはバックパッカー時代の旅だが、その頃、目的地に行くための料金が高すぎたり、紛争や内戦など政治的事情で、足を踏み入れられなかった国や地域がいくつもあった。その一つが南極だった。その近く、マゼラン海峡や喜望峰を航海することも夢だった。
今回のピースボートの航路は、アジア〜喜望峰〜アフリカ〜南米とめぐり、南太平洋を回って帰路につく。南極にも立ち寄るし、未踏の地だったマダガスカルやパタゴニアにもオプションツアーで行ける。夢の様な航海だ。
今まで行きたくても行けなかった秘境の各地。胸は高鳴る。これは万難を排して参加するしかないと思った。自分はもう半分退職したような身で、時間はある。相当にお金はかかるが、なんとかなるだろう。
これは私にとって、なぜか人生最後の旅のような気がした。これが済んだら、私にとっての人生のテーマである「旅」は終わりにしてもいい、と思った。
船上の孤独をかみしめながら
横浜を出航して、今夜で4日目の夜を迎える。遠くに尖閣諸島が見えるはずだが見えない。船は乗客で満員。高齢者が多い。確かに、オプショナルツアーも合わせると200万以上にもなることもある費用が出せ、三カ月以上も時間があるのは高齢者が大半だろう。
船は進むが、相変わらずどんよりと空は曇っていて、期待していた星空はまだ見えない。明日は台湾だが、もうアジアは行き過ぎて観光にはほとんど興味はない。しかし船旅の面白いところは、寄港地が港だというところ。港はエアポートの風景とは違う、人々の生活を見せてくれる。
個室の私は独りぼっちだ。こうなると私は孤独に徹してしまう、長年の悪い癖が出てしまう。私は一人、キャビンに出てマットを敷きヨガをする。海は黒くよどんでいるようだ。しかしそれも魅力的だ。風は強い。船は30ノットで台湾に向かう。
毎晩、船内のバーでインドネシア人とフィリピン人のバーテン相手に、もうほとんど忘れてしまった英語やスペイン語を思い出しながら喋り、酒を飲んでいる。困った。夜は一人酒を飲むしかすることはない。酔っぱらって寝床に入る。アスタマニアーナ。
ピースボートの最上階から。日本を出て5日目、台湾の基隆(キールン)という港に着いた。空は曇天が多く、まだ一度も期待した星空を見られていない