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トップコラムおじさんの眼第165回「二人の天才映画監督の新作」

65回「二人の天才映画監督の新作」

第165回「二人の天才映画監督の新作」

2012.01.06

単行本化間近!? 『ロフト35年史戦記』脱稿

IMG_5467.jpg 以前、長いこと『ROOFTOP』誌上で連載し続けていた「ロフト35年史戦記」を、単行本化する計画が進んでいる。もちろん、連載をそのまままとめるだけでは能がない。先日、やっと大幅な加筆修正作業が終了した。なんと18万字もの大作になってしまった。まだ出版社も決まっていないのでどうなってゆくのか分からないが、写真も資料もほとんどない中、かすかな記憶をたどりながら、よく途中で飽きずに書いたものだ。1971年の烏山ロフトオープンから、海外放浪の旅へと旅立つ直前の1984年まで。私が現場の第一線で各店を指揮していた時代の話だ。
 1970年前後は、若者を駆り立てた激動の「政治の季節」だった。各大学では大学解体が叫ばれロックアウトが頻発し、街頭では日米安保反対闘争が起きた。しかし、権力の圧倒的な物量と大弾圧に革命を目指す勢力はほとんど撃沈していった。
 1971年。まだ世間にはきな臭さが残り、赤軍派がよど号ハイジャックなどを起こしたりしていた時代。当時、私は27歳、結婚して子供もいた。なまじ革命運動に関わってしまったが為に就職にあふれ、失業保険で食いつなぐ状態が続いていた。そしてやむを得ず「自立=起業」したのだ。これが「ロフトグループ」の始まりなのである。
 今思えば、京王線の千歳烏山駅周辺にたった7坪の「ジャズ喫茶ロフト」をオープンさせたのが、私にとっての最初の決起、人生の再出発だった。なんとか親や友達をだまくらかして開店資金140万円を集めた。それから、全く順風満々とはほど遠かったけれど、西荻窪を手始めに新宿まで、都内に5軒ものライブハウスチェーンを作り、日本のロックの最前線に居続けた物語を、私感で書き上げた。
 最初の店、烏山ロフトオープンから40年が経つ。73年にオープンした3つめの店、荻窪ロフトは日本で初めてのロックの本格的「ライブハウス」といわれた。確かにその時代、東京には一軒もライブハウスがなかったのだ(当時、生演奏のジャズ喫茶は沢山あったが)。この時代、生まれたばかりの日本のロックのライブを現場で見続けた数は、おそらく私が一番多いのではないか、と自負している。
 伝統とか老舗とかに依拠するのは興味はないが、坂本龍一、山下達郎、サザンオールスターズやBOφWYなど、国民的スターがロフトから育って行った。当たり前の話だが、彼らはロフトにやって来た時は、全くの無名だった。それがなんと、オリンピックの前奏をやった音楽家を二人も輩出している。「これって凄くない?」と、我ながら驚いている。
 私が第一線の現場で体験した、ミュージシャン達のヤバい逸話(笑)はもちろん、これからライブハウスをやりたい人の為になるだろう、「ライブハウス」の空間理論や店舗物件探しの苦労なんかもが書いている。まだいつ発行できるか分からないが、ぜひ、単行本化される日を心待ちにして欲しい。


IMG_5480.jpg晩秋から冬へ。我が家のベランダからは、銀杏の巨木が黄金色の葉を競うように散らせてゆく。素晴らしい環境に住んでいて気分がいい

テアトル新宿で観た日本の大作

 11月25日。日中に園子温監督『恋の罪』、夜には、若松孝二監督『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』と日本映画をテアトル新宿で観る。すぐそばの花園神社では「三の酉」の前夜祭が行われており沢山の夜店が出ていて、威勢いい声が飛び交っていた。

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花園神社の「三の酉」前夜祭の賑わい。威勢のいい声と縁起物の手拍子の響きが心地いい


 巨匠になってしまった最近の園子温は私に冷たい。が、私はめげない(笑)。無視されても私は彼の映画を、批判的に観続けるしかない(と愚痴を言ってみる)。
 いやはや、園の映画は疲れる。『恋の罪』に出てくるのは、3人の売春行為をする女性。その心は……という感じで、園監督のメッセージが「カフカの城」というキーワードを残しながら……血ドバドバ、性行為シーン、迫力ある映像と音声が館内を凌駕する。やはり奴は天才だ、と直感的に思った。
 園監督がこの映画で言いたいのは、「性の欲求は男も女も一皮めくれば同じにドロドロだ」ということなのか? 園はゴダールを目指すのか?
 夕刻6時過ぎ、3時間の大作『恋の罪』からやっと解放された。飯を食って、花園神社の酉の市の賑わいを見て、いざ、『三島由紀夫』観戦に。
 若松監督の『三島由紀夫』も圧巻だった。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』『キャタピラー』でもそうだったが、最近の若松監督作品は、ものすごく切れる刃というか、とにかく鋭い。何とか、この時代を超えた数々の難解な事件をわかりやすく、誰にでも観れる映画にしようと試みた、ともいえる。凄い。40数年前、市ヶ谷の自衛隊本部で、三島由紀夫と森田必勝は「憂国」を叫び幕僚長の前で自ら切腹した。結局、三島の映画を撮れたのは奇才・若松監督でしかなかった。観終わってそう感じた。
 この日は完成披露の特別上映会で、来年3月に一般公開予定という。上映後には若松監督、森達也、鈴木邦男さん等のトークショー。実に疲れた一日だった。
 余談だが先日、若松プロの「忘年会」で私は監督に質問してみた。「園子温も森達也も今回の大震災、フクシマを撮ると言っていますが、監督は撮らないのですか?」「う〜ん、撮ろうと思ってはいるが……」「ではどんな切り口になるんでしょうか?」「被災地にいる普通の生活を撮りたい」とのことだったが、さてどうなることに(知っている人も多いかもしれないが、若松監督は宮城県の出身なのだ)。

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『三島由紀夫』上映後のトーク。左から森達也、鈴木邦男、若松孝二、篠原勝之、佐野史郎の諸氏が並んだ


 年の暮れに私が数十年続けている儀式。この1年の「総括」だ。「この1年、自分は何が出来て何が出来なかったのだろうか? 出来なかったのなぜなんだろう……」と、あれこれ考える。それなしではなにか新しい年が迎えられない、という気分になるのである。
 だから、私は大晦日の深夜、紅白の途中で家から出て、年をまたぎながら「銭湯」にいる。この時間、銭湯は見事に空いていてほとんど一人状態。湯けむりの中で今年の一つ一つを想い出し、それなりに「結論」をつけてゆくのだ。もう私も相当歳をとった。一日一日を感謝を込めながら、大切に生きねばと思う。

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新宿LOFTのバーホールでの若松プロ忘年会にて。左から平野 悠、鈴木邦男、若松孝二

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