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トップコラムおじさんの眼第164回「歩き続けるしかない晩秋」

64回「歩き続けるしかない晩秋」

第164回「歩き続けるしかない晩秋」

2011.12.02

なぜこんなに歩くんだ

 もう秋も終わりに近い。この時期が一番の紅葉シーズン。私は今、相当迷っている。これだけの歳(67歳)をかっぱらって自分の人生の「終章」的な場面になり、突然事件は起こるべくして起こった。地震、津波、原発事故と「第二の敗戦」とまでいわれる局面に直面した日本の現状。この腐りきった日本を救う手だては全く見えていない。
 世論調査では、国民の80%近くが「原発はいらない」と言っているのに、九州では玄海原発が再稼働した。さらには、原発を外国に売ろうとしている日本政府。春先には反原発デモに燃えた私も、この間の動向に意気消沈した。しかし、民衆は怒りの決起をほとんどなし得ていない。日本のありように絶望的な気分になり、生きている意味を考えこむ日々だった。
「これはやばい。なんとか生きている意味とテーマを探さなければ」と深刻に思いながら、私はただ「紅葉」を求めて歩き続ける。こんな作業にしか、私には発露する術ないと感じる。週末、二子玉川から和泉多摩川までススキの多摩川沿いを歩く。川風に吹かれながら、私はただ遠くを見つめ続ける。約2時間。
 次の日曜には京王百草園に。前日から「紅葉祭り」が始まっているというので訪れたが、まだまだ色づいていない。青々としているモミジや銀杏を眺め想像するしかない。チョット失敗。さりとて、高尾山は大混雑らしい。行く気にならず。1時間20分。1万歩。
 翌日、新宿を19時に出る。冷たい雨が降り始めた夜の新宿歌舞伎町。暗いな。風俗の呼び込みお兄さんの声も湿りがち。京王線・高井戸の美しの湯に着いたのは21時。湯につかり、軽く風呂あがりのビールを飲んで、また高井戸から家まで6000歩、歩く。
 なぜこんなに歩くんだ。意味もなく腹立っている。2万4000歩ただ歩き、そして今日が意味もなく終わるのを感じる。老人に襲ってくるだろうボケが怖い。一日、1.5リットルの水を飲み、2時間のガムを噛んで口の運動、そして1万歩のウォーキングを実践しろ、と医者は言う。何が面白くてこんなに歩くのか? いつも自問自答を繰り返しながら、私はやはり「歩くことしかない」という気がするのだ。

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今にも雨が降り出しそうな重い雲の中、風に吹かれて多摩川沿い(二子玉川駅〜和泉多摩川駅まで約8キロ)を歩く日曜日

1969年と2011年の由紀さおり

 由紀さおり&ピンク・マルティーニによるコラボ・アルバム『1969』が、世界20カ国以上で10月12日にCD発売&デジタル配信。各国で大きな反響を呼んでいる。
 63歳になる歌手の由紀さおりがアメリカのジャズオーケストラと共演し、往年の日本のヒット曲を歌った新作アルバムが、アメリカのネット配信のジャズ部門で1位にランクされ、話題を集めているのだ。収録曲のほとんどを日本語で歌った作品が国外で注目されるのは異例で、「1963年の坂本九『SUKIYAKI』以来の快挙」との声も上がっている。
 そしてなんと、11月30日に阿佐谷ロフトAで由紀さおりのトークイベントが開かれる。もちろん、このイベントが決定したのは由紀さおりが外国でブレイクする前の話だ。9月の末、私は日本音楽界の重鎮で、数多くのアーティストをプロデュースしてきた佐藤剛氏に、「ここまでボロボロになった日本の音楽業界を、再点検というか総括するトークイベントを、音楽業界を担ってきた人を招いて開催して欲しい。そうでないと日本のロック業界の再生はないと思う」と、ロフト出演とイベントプロデュースを要請した。
 「全ては1969に始まった」──。佐藤剛氏はなぜか1969年にこだわる。そして第一回目のゲストとして、由紀さおりの名前が出てきたのだ。佐藤剛氏の先見性は鋭い。1969年は「夜明けのスキャット」がリリースされ、ミリオンセラーを獲得した年だ。
 「ピンク・マルティーニの『1969』は、アーティストの夢とスタッフの志、純粋な心の繋がりから生まれた最良の成果です。己の生命を歌に託して、世界という未知のステージに、日本語の歌謡曲で挑戦した由紀さんの決意、地位、年齢を考えてみてください。99.9%の人が怖気付くはずです」と、佐藤氏は発信し続けている。

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京王百草園。「紅葉祭り」なのに、まだまだ色づいていない。しかし散策に訪れるにはとても良いところだ

なるか? 学生運動再構築

 11月20日、Naked Loftで都内の無党派学生有志が集まって「東日本学生運動復興構想会議 〜崩壊寸前の日本、暴動か死か〜」という奇妙なイベントが開かれた。ゲストに呼ばれたのは、元都知事泡沫候補の外山恒一氏と鈴木邦男氏だった。関係者の話によると、多くの知識人にゲスト出演を断られたそうだ。情けなや。40数年前の学生運動を経験した私は、そのイベントに一聴衆として参加した。
 かつて吹き荒れた政治の季節とは違って、今の大学生には全く社会的影響力もなく、ただただ学校経営者の敷いたレールに乗って、それはまるで飼い慣らされた羊のように就職のために無気力に大学に通っているに過ぎない。彼ら学生達は、原発や放射能にはまるっきり関心がないのでは? というのが、今の私の偽らざる印象。はたしてこれが「最高学府」に学ぶ若者なのだろうか? と思うに事欠かない。
 そんな状況に苛立っている学生が集まったのか、場内は超満員。興味のある人はニコニコ動画、ロフトチャンネルのアーカイブを観て欲しい。さて、大学当局の弾圧をはねのけて、学内で鍋集会ができるか? 学生運動復活なるか?

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Naked Loftで開かれた「東日本学生運動復興構想会議」。「学内で鍋を囲んで集まろう」という。

ブータンとは本当に素晴らしい国なのだろうか?

 今、アジアの小国・ブータンの国王夫妻が来日中だ。その二人の品の良さはワイドショーでもニュース番組でも連日のように報道された。そのせいか、うちのかみさんまでが「ブータンに行く」と張り切っている。
 ブータンは、「国内総生産(GNP=Gross National Product)」よりも「国民総幸福(GNH=Gross Natinal Happiness)」を掲げる国だ。急速な開発は拒否し、自然や伝統文化を守りながらゆっくり発展していくことを選んだ小国では、国民の97%が幸せを感じているという。「国民の大多数が生活に幸福を感じている国って? 本当かな?」と、私は思う。ブータンだって、国を追われた難民はたくさんいる。チベットだってラマ教以外は弾圧されているし……。間違いなくブータンだって光と影は存在する。
 旅人の間では有名だが、ブータンは個人旅行が許されず、入国者にはオフシーズンでも1泊最低185ドルの旅行料金を強制的に支払わされる。これには宿泊、食事、運転手つきの車、ガイド費用までが含まれている。つまり、「管理された旅行」しかできないのだ。いわゆる鎖国をしているといってもいいのかも知れない。
 30年も前、パッカーやっていた時、ブータン国境まで行って入国を試みたが、1日100ドル(当時)の前払い、という条件をつきつけられ諦めた。当時100ドルあれば、インドで1カ月は暮らせた。世界を回るパッカーにとってブータンは煩わしい。ハードルが高いことで、「最後の秘境」のイメージがふくらむのかもしれないが、変な幻想は持たない方がいい。

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今から6年前、60歳の還暦記念に四国88カ所・歩きお遍路通し打ち(48日間かかった。総行程約1200キロ)を敢行。これによりただ歩く事の魅力にはまったのかもしれない

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