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58回 止まらぬ原発とホリエモン不当判決

第158回 止まらぬ原発とホリエモン不当判決

2011.06.07

 何とも憂鬱な2カ月あまりだった。余震は毎日のように続き、空はほとんどいつだって低く重くたれていて、さらに私の意識をよどませる。東京郊外の住宅地では、桜の開花に合わせるように美しい花々が咲き乱れる。しかし今年は違っていた。ややうつむき加減の私は、春の風物詩の桜やツツジやキンモクセイ等、種々の花々すらほとんど目をやることもなく、時間はどんどん過ぎていった。フクシマ原発事故の解決策が全く見えない状況下で、放射能はどんどん拡散し、東京すらもハンパな状況でなくなってきた。夏になれば台風も心配だ。毎日TwitterやUstream中継を見ながら、私は相変わらず嘆き悲しんでいる。

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元環境NGOにいたプラスワン店員の上野祥法。今は石巻で800人を率いるボランティアのオペレーションをしている。約2万人が餓えと寒さの中で孤立状態にあった中、2カ月で被災地一のボランティア組織を構築した。偉い!……で、あんたはいつ帰ってこれるのかね(笑)

原発安全神話に洗脳された日本国民

 もう震災や津波、原発の事は考えたくない、街を歩く女子高生の様に笑顔で無邪気に過ごしたいと思っても、情報はどんどん私を追いかけて来る。どこか旅にでも出て、今、自分の前に突きつけられている状況を無視しようとしても、なかなか出来ない。
 ソフトバンクの孫正義さんの、「今まで、いやこの事故が起こるまで私は原発の問題に全く無関心でした。あって当然と思っていましたがその無関心がこの日本を危機的状況まで追い込んでしまった。深く反省している」との記者会見を聞いていて涙が出た。しかしこの孫さんの企業人としての素晴らしさは、単なる「坊主懺悔」とは違ってその反省を見事プラスに変え、「原発依存からの脱却」「代替エネルギーへのシフト」と、矢継ぎ早に今やるべき事のテーマを次々と提出し、現実に動き出そうとしていることだ。
 日本経団連会長・米倉は「原発が千年に一度の津波に耐えているのはすばらしいこと。原子力行政はもっと胸を張るべきだ」とうそぶいている。都知事・石原は震災直後、被災者に「天罰だ」という暴言を浴びせていた。首相の菅直人は、これほどの被害と出口さえ見つからない放射能漏れの危機に際しても、「復興ニューディールとも言うべき需要が生まれる」と公言している。
 大手マスコミの世論調査でも、原発容認派はまだ半数近くいるという。ここに、40年もの間、原発安全神話に洗脳されてきた日本国民の悲劇を私は見る。60数年前、原爆を広島、長崎に落とされ、人類に約束した「非核三原則」すら守れなかった政府を、日本人は選択し支持してきたわけだ。いまだ放射能被害に苦しむ原爆二世三世がいるというのに、日本人はあの無謀な戦争を起こした時のように、また「無知=無関心」という同じ間違いを起こしたように思う。

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梅造(ロフトトーク部門)とミトさん(ロフト店舗工事主任)と、第三次・LOFT PROJECT災害復興支援チームで石巻に私も行ってきた。支援金のほか、爪切り100個、バーベル50本、釘抜き50本など支援物資をたくさん積み込んだ

原発の危険を指摘する声は昔からあった

 ロフトでも、ネイキッドやプラスワンで、何度も原発関連のトークイベントは主催してきたが、お客さんはほとんど入らず赤字ばかりだった。もう20数年前、新宿LOFTで、ある若いロック少年が、「悠さん、ちょっとおかしいですよね。忌野清志郎さんの原発を歌ったレコードが発売禁止になるなんて。放送禁止用語とかたくさんありすぎて、みんなこれはやばいとか、これは通らないよとかばかり言ってる。日本には表現の自由ってないんですか?」と言ってきたことがあった。私はそれまで、事あるごとに「原発は怖い。特に浜岡原発は世界で一番危険な活断層の真上にあり、浜岡がやられて風向きが北東だったら、東京は1時間で放射能に汚染される」と、みんなに言い続けていたのだが、誰もまともに聞いてくれなかった。
 このレコード会社と大手電気会社の言論弾圧はそれなりに話題は呼んだが、大手マスコミも言論界もほとんど沈黙した。この事件は脱原発の大きな抵抗運動のきっかけにはならなかった。「地震が起きたら原発は大事故になる」「核と人間社会は共存できない」「人間による核の制御・コントロールは不可能だ」「そんなに安全ならば東京に原発を」と、広瀬隆さんをはじめとするジャーナリスト達が何度も指摘し、反核闘争、反原発闘争は各地で闘われてきたはずだった。だが、政府と大資本家、御用学者や裁判所は「原発は地震に耐えられる」「絶対安全」と大ウソをついて原発を推進し、核武装も狙い、菅政権では「新成長戦略」のもとで大々的な原発輸出まで推進してきた。連合中央の労組幹部は、これに全面協力してきた歴史があるのだ。
<感傷に溺れ、おびえ、これから起こる惨禍を恐れて身をすくませている前に、なすべきことがあるだろう。考えよ。自分の頭で考えよ。そもそも、自分とは何なのか? そもそも生とは何なのか? 存在するとはどういうことなのか? 簡単には答えは出ない。しかし自然は畏れるべきものだ、人間はその前には無力なものだ、我々は驕っていた。>(哲学者・池田晶子)

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5月7日に行われた素人の乱主催の反原発デモは、警察の徹底的な弾圧にあった。隊列は小さく幾つにも分断され、4人も不当逮捕された

不条理としか思えぬホリエモン収監

 プラスワンで約2年半続いた、「六本木で働いていた元社長」こと堀江貴文氏がホスト役のイベント「ホリエモントーク」は、ホリエモンが収監されるため、5月23日が最後の回になった。彼はおそらく来月には、2年6カ月の収監の旅に出る。
「なんで日本に住んでいるのだろう?」と彼は盛んにぼやく。「どうせ、今の日本で俺の気持ちを言っても解らないよな」というあきらめと絶望感があって、トークの最後は思いっきり負のオーラが出ていた気がした。
 吉田豪さん司会で、鈴木邦男、上杉隆、北野誠、田原総一朗と、豪華メンツが並んだ。いいトークだった。
<堀江氏の逮捕自体が、多くの指摘があるように国策捜査のもたらしたものであり〜中略〜このようなアンフェアな処分が、法治国家で平然と行われていることにまず私は怒りと絶望を感じざるを得ない〜中略〜多多くの心ある若者たちの「夢」をつぶしたことを、日本社会は真剣に考えるべきだ。>(宇野常寛 WEB RONZA 2011年5月6日「堀江貴文氏を強く支持する」より)

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ホリエモンのプラスワン最後のステージ。右から北野誠、ホリエモン、鈴木邦男、上杉隆、後ろは吉田豪。絶妙な豪さんの仕切りとジョーク連発の上杉隆が最高だったな

 一年で一番いい季節のはずなのに、私の心は晴れない。もう6月にならんとしているのに、冷たい雨がフロントガラスに吹き付ける。30年も前に原発反対を唱えて、原発設置料金が電気料金に加算されるのを拒否して東電から電気を止められ、ローソクで生活していた家の前に傘もささずに立った。今は無人だ。「私は彼らに何が出来たのか?」と自分に問うと、いたたまれない気持ちになった。

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