私には、「ゆう」という名前があります。名前といってももちろん本名ではなく、レズ鑑賞クラブティアラのキャストとしての名前です。「源氏名」といわれることがありますが。レズっ娘グループでは「キャスト名」といっています。
基本的にはキャスト全員、キャスト名でもって働いています。
といっても名前を偽っているとか、そういうネガティブな話ではなく、この名前も私たち自身を表しています。
キャスト名って、味わい深いなぁと思います。
そこに、いろんな想いが込められているからです。
私は、入店当初、別の名前で在籍させてもらおうと思っていました。「絶対この名前で働くんだ」と決めていたんです。その名前に込めた想いがありました。
しかし、似たような名前のキャストがすでに在籍していたため、違う名前を考えなければならなくなりました。お客様にとってもややこしいし、自分にとってもあまりお得なことはありません。
では、どうして「ゆう」になったのか?
当時を想い出すと、たしか……レズっ娘グループの代表・御坊さんが「似た響きで“ゆう”はどう?」と提案してくれたんです。
そして私、「ゆう」が誕生しました。
いまでは、この名前がお気に入りです。
この名前、スナックに多いんですよ(笑)。お客様とデート中にそんなスナックを見つけたら、写メに撮ったりして遊んでいるくらいです。
名前は、自分で自分を認識するものであり、他人から自分を認識されるものです。だから、呼ばれてうれしいものであってほしいと思います。
私たちキャストにとっては、普段と違う自分を演出するための“きっかけ”にもなります。プライベートでは本名で生きていて、キャストのお仕事になるとその名で呼ばれる。その変化によって、私たちはこれからお仕事だと認識し、プライベートとの切り替えをしっかりさせることができるのです。
このお仕事に必要な表現方法のひとつだと思います。
ところでお客様は、実は本名で逢いにきてくださる方が多いんです。
何度か理由を聞いたことがあるのですが、やはり自分の名前を呼んでもらいたいという気持ちがあるようですね。
きっと馴れていない名前で呼ばれても振り向けないし、お客様自身は本当の自分、ありのままの姿をキャストたちに見てほしいと思っているからだろうと感じます。
名前ってそれほど、その人にとって重要なものなんですよね。
ただ、キャストは本名では働けません。
どれだけ本名で呼んでほしくてもそれは叶いません。
本名を明かさないのは性風俗業界のならわしのようなものですが、私たちのプライバシーを守るものでもあります。名前って、いちばんの個人情報ですよね。
ですがキャストそれぞれがきっと、自分の大好きな名前、思い入れや愛着のある名前を考えたはずです。本名の自分に少しでも気持ちが近づきたい、そんな思いで名前を決めたはずです。
私は、普段の自分と「ゆう」が、なんら変わらないと思っています。
一心同体だと感じるときが、よくあるからです。
しかしそれも、お客様がゆうに逢いにきてくれるからこそ成り立っている名前だということを、忘れないようにしないといけない。よく、自分にそう言い聞かせています。
お客様は“努力のチケット”をもって、逢いにきてくださいます。お金や時間がかかるので、それは大切なチケットです。私も気持ちを切り替えてお逢いする、それが「ゆう」と呼ばれる意味なんだと思えます。
私は、自分が「これは違うんじゃないかな」と思うことはやりたくありません。納得できることだけを、やりつづけたい。そう思っています。
キャスト名で呼ばれる時間は、ほんのちょっと魔法のかかった状態なのかもしれません。それによって、みずからのレベルをあげていく、借りの姿になれるのです。
……つづきは、また次の夜にここで逢ってお話しましょう。
ゆう:永田カビ著『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス)のモデルになった現役キャストで、2008年から在籍するベテラン中のベテラン。レズっ娘グループ全店の新人講習スタッフを兼任する。 https://tiara.ms/cast/cast.php?no=00025