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8回「コロナ禍で気づいた自分を許す気持ち。スーパーでお惣菜を買えるようになった」

第38回「コロナ禍で気づいた自分を許す気持ち。スーパーでお惣菜を買えるようになった」

2020.07.03

朗読詩人 成宮アイコの「されど、望もう」

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やっと孤独になれた安心感と鬱

 自分を甘やかすこと、得意ですか? こんにちは、朗読詩人の成宮アイコです。

 前回のコラム【「コロナになってもいいや」というインタビュー映像を見て、「この気持ちを知っている」と思った日の苦しさ】を書いてから、すっかり気が滅入っていました。日々増える感染者数、絶対的に安心な方法がないこと、他人同士が疑いあってしまうこと、リモートワークができる業種でいることで感じてしまう罪悪感。ニュースもあまり見ず、にぎやかしでつけっぱなしだったテレビの変わりにNetflixでドラえもんを流し、SNSもゲームとコスメだけのリストを作り、できるだけ社会状況を目にしないように注意しながら生きていました。

 それは真逆に、強制的に家にひきこもるようになった世界がはじまったころ、わたしは言いようのない安心感を得ていました。できる限り人と会わない生活はまず心が傷ついたりすることがないし、出かけずただ家にいてなにもしていなくても許されている気がしたからです。わたしは今まで、家でぼーっとしていると世界から置いていかれるような、それどころか、みんなは全力で前に進んでいるのに自分だけが後退しているような気持ちになっていました。

 しかし、いま、わたしたちはできるだけ人にたくさん会わないことをしていて、それを推奨までされている。インスタを開けば、旅行情報や外出イベントを知らせる広告は家で過ごすためのおこもり情報になり、人と会って笑顔で乾杯する写真のかわりに自炊写真やバナナケーキの写真が並び、コンプレックス解消メイクのかわりにお肌のお手入れアイテムやよい睡眠についての投稿が多く目に入るようになりました。それぞれがひとりでいて、家にいることをしているのです。

 わたしはただ、生きている「だけ」のことをしていていいんだ。ただただ家にいて、麦茶の入ったグラスを横においてぼーっと壁をながめていると、ふいにそう思いました。こんな気持ちになったのは初めてかもしれません。

 もちろん、仕事で外出するときやスーパーに立ち寄るときに感じる感染の不安や、宅配便をうけとるときの罪悪感や、コンビニでビニールシート越しにもらう「ありがとうございました」の言葉とトレーに置かれるお釣りを指でつかむときに、「今までの暮らしとは違うのだ」と厳しい現実を感じことも初めてですが…。

 それでも自粛が推奨される生活を送るなかで、立ち止まる方法に意図せず出会ったような、「ああ、やっと孤独になれた」という安心を感じました。

「自分だけはダメ」と、自分で自分を追い詰める癖

 ただ、その安心感は長く続きませんでした。

 傷つかず気疲れをせず外出もしない。安心に包まれたその状態は、なんだか鬱に似ていると気がしてしまったからです。
 そのとき、わたしはどちらにも進めないと思いました。

 なにもしないことを強制的にする時間の使い方と、人と無理につながらなくても良い安心感を知ってしまったからには、いつも焦ってぼんやりできず忙しく動き回らなくてはいけないと強迫観念的に思う自分には戻れない。けれど、安心感のなかでぼんやり生き続けていると気持ちが完全に無になってしまう。
 もういっそ、「この日々は○日後に終わります、それまで閉じこもっていてください。そのあとは前の自分に戻ってください」と明確に知りたい。けれど現実は先が見えない。今日も明日も、もしかしたら半年後も、その先も。
 なんだか途方にくれます。

 ところでわたしは、だいたい毎日自炊をしています。

 それは料理が特別に好きだからという理由ではなくて、「わたしごときがご飯を買うなんて」「なんの役にも立たないくせに料理までしないつもりか」「好きなものを食べて栄養がかたよってしまっていいのか」と強迫観念におそわれるからです。人といるときはそんなことを思わないのに、自分のために食事を摂ろうとすると途端に嫌な感情ばかり浮かんでしまいます。
 そんな調子なので、スーパーに行けば安いお惣菜がいくらでも売っているのに「あれは友達と集まるときに買ったり、人と宅飲みするときに買う用のもの。みんなは自分のために楽しく買ってもいいけど、わたしはダメ」と思い込んでいました。

 「今日はお昼にはマックを食べてしまったし、数日間は1日3食ちゃんと自炊をしなくてはいけない。卵でたんぱく質をとらないと、トマトジュースでさぼらないでトマトを買わないと、3食ちゃんと食べるために今日は夜が遅くなってしまったけれど明日の朝は無理にでも早起きしないと…」頭の中は食べ物のことでいっぱいになります。そのために睡眠時間を削ろうとするなんて完全にとらわれすぎだと冷静な今はそう思えるのですが、ちょっとメンタルの調子が崩れるとそんな余裕がなくなってしまいます。

 とにかく自分は人よりもだめなのだから、生活くらいちゃんとしなくてはいけない。
 そうやって日々、自分で自分を追い詰めていきました。

あちこちで見かける「コロナ疲れに」のキャッチコピーを見て、

 その状態で半分ノイローゼ気味に日用品を買いに出かけたら、スーパーの入り口付近にお惣菜がたくさん売られていました。「なんか、お肉食べたいな」そう思ってなんとなくハンバーグのパックを手にとりました。普段のわたしだったら、生肉コーナーに直行して、家にまだパン粉あったかな、なんて思っていたはずです。一瞬びっくりして、「自分なんかが」という頭の声を聞かないようにしながらレジへ向かいました。

 ハンバーグの入ったスーパーの袋を手にして家まで歩きます。通り過ぎた駅では「距離をとって新しい生活様式を〜」「時間差通勤を〜」と事務的な音声が流れ続けています。目に入るほぼ全員がマスク姿。休業のお知らせが貼られたシャッター。いつもより早く閉まるチェーン店。整体院の前には「コロナ疲れにおすすめ」と書き足されたポスター。おなじフレーズをスーパーのお魚コーナーでも見たし、通販サイトでも見かけました。

 誰もがどこに進めばいいのかわからないのです。
 疲れているのは全員。わたしだけじゃない。
 そしてそれ以前に、ほんとうに当たり前のことだけど「わたしも疲れていいんだよ」と自分で自分に思いました。

 これまでは、レシピの参考に眺めにくる場所だったお惣菜コーナー。それ以来、考えるの疲れたなと思ったときには気軽に立ち寄るようになっていました。むしろ疲れていない日も味をしめて買いに出かけるようになったくらいです。
 ちょっとサボり癖がついたかもしれませんが、生きるにはこのくらいがちょうどいいことにしようと思います。

 
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「伝説にならないで ─ハロー言葉、あなたがひとりで打ち込んだ文字はわたしたちの目に見えている」

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ページ数:96ページ
価格:1,500円(+税)
版型:四六判並製

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