どうしてこうも、自分に対してはズボラになってしまうのだろう。
ミシェルと付き合ってからよく料理を作る。半同棲をしているいま現在、2人のために買ったボクらだけのベッドで一緒に床につく。ボクはわりと規則正しい生活を送っている。
夜どれだけ遅くに寝ても、7時には必ず起きる。彼女は寝ぼすけでボクと一緒に起きても必ず二度寝をする。急遽借りた狭いワンルームに、自分1人起きていると彼女の睡眠を邪魔してしまうかもと思い、外に出る。
そうだ、彼女が起きるまでに朝ご飯を作ろう。
そんな思いつきから、彼女が泊まっている間は毎日ボクが料理を作るようになった。朝のスーパーに買い出しに行く。最近、彼女は体型が気になると言っていたので、糖質を抑えたメニューを考えよう。
あんな洋風の見た目で和食派の彼女。なにはともあれお味噌汁は必要だろう。お豆腐、お味噌、ワカメ……あとの具は何にしよう。そうだ、前にマイタケが好きだと言っていた。今日はキノコのお味噌汁にしよう。
しかし、問題は主食だ。朝だからといっても、やはりダイエット中の糖質は控えたい。とはいえ、自分も糖質制限を続けている身だからこそ実感するが、過剰にいきなり糖質をやめるダイエットは続けにくい。
「マンナンご飯でも買うか……」
これは白飯にコンニャクを白米に見立てた形成物が何パーセントか含まれており、ただご飯を100g食べるより、糖質が制限されているという商品だ。いまは便利なものが多い。
そして、彼女に作る朝ご飯の定番は「目玉焼き」。半熟の目玉焼きをご飯に乗せて、九州醤油をかけて食べるのが彼女お気に入りの食べ方だ。
「この食べ方、大好きだけど、お行儀が悪いから外ではできないんだよね」
そんなことを言いながら、焦げ目の付いた白身と半熟の黄身が混ざったご飯を美味しそうに食べる彼女は愛おしい。
スーパーの特売コーナーでお刺身が安くなっているのを見かけた。動物性タンパク質はダイエットにもとってもいい。朝からお肉だと少し重たい感じがするが、お刺身ならいいだろう。せっかく好きな人に出すのだ。パックの品とはいえ、ちゃんとお皿に盛り付けてあげたい。そんな思いで青葉も一緒に買う。
あらかた食材を買いそろえてレジに向かう。この時間、さほど混んではいないが、客足が途絶えるということはない。老婦人、若者、初老の男性。みな、多かれ少なかれ何かを買い求めてスーパーにやって来ている。
ふと、誰かのために買い物に来た人が、この中に何人いるのだろうかと思った。
ボクはズボラだ。でも、彼女のことになるとズボラでなくなる。彼女の笑顔のために、手間をかけても美味しい料理を作ってあげたい。彼女のためにできることがあることが嬉しい。
だから、自分のために料理ができる人は本当の料理好きだ。ボクにはとてもじゃないが、そんなことはできない。
やっと自分の番が回ってくる。レジ袋をもらい、カウンターで買ったものを袋に詰める。そろそろ指先に水気も少なくなってきた。昔よりすぐにビニール袋をひらけなくなった自分に苦笑する。
数分で到着する家路を歩く。いまからどこかへ出勤するであろうサラリーマンやOLの間をすり抜けながら、まだダブルベッドの片方ですやすやと寝ているあの子の顔が浮かんだ。自然と笑みがこぼれる午前8時。