この連載の4回目で触れた「ゴールデンボンバー」の人気が凄まじい。言わずと知れたエアーバンドだ。
この1年くらい、ヴィジュアル系のライヴに行くと必ずと言っていいほどバンギャちゃんたちが「ゴールデンボンバー」について語り、盛り上がっている光景に出くわしていたのだが、最近は『ビッグイシュー』のCDレビューにまで登場し、「飛ぶ鳥を落とす勢い」「破竹の快進撃」「瞬く間にブレイク」とその活躍ぶりが絶賛されている。人気に火がつく前の今年のはじめにライヴを観に行った身としては、「フフン、私なんか1年前くらいに観てるもんね」と誰に対してかわからないけどいい気になっているのである。
しかし! 「いい気」になるだけでは済まないところがバンギャの悲しい習性だ。「好きなバンドが売れて嬉しい」と思う半面、何かこう、複雑な思いが込み上げてくるのだ。そしてその思いは、多くのバンギャちゃんにも共通するものだろう。
バンギャ歴20年の私は、そんな思いを数多く味わってきた。自分の大好きなバンドが世の中に認められ、関係ないのに天にものぼる気持ちの一方で、「私の大好きな○○(バンド名)の世界があいつら(非バンギャの人々)にわかってたまるか!」というような屈折した思いが沸き上がってくる。その上、売れた途端に激変を遂げるヴィジュアル系バンドも少なくない。薄くなっていく化粧、ポップになる曲調、黒くなくなる衣装、少なくなるフリルなどの衣装の布の量、吐かなくなる血のり、少なくなる歌詞の難しい漢字。
そんな「使用前」「使用後」のような激変を目の当たりにするたびに、「魂を売り渡したのでは?」「っていうか、今までの○○様はメジャーデビューするためだけにわざわざあんな格好を? もしかして私って騙された馬鹿?」というように、いちいち戸惑い、深読みしてはなんとなく気持ちが離れていく・・・ということを繰り返していた。その上、自分が一方的にファンなだけでもともと近い存在でもなんでもないのに「こんなに売れてはあの人が遠くなってしまう・・・」などとちょっとした「失恋気分」まで味わっていたのだから人間の妄想力とは底なしだ。
ちなみにゴールデンボンバーの曲には、この辺のわかりやすいバンギャ心を突いた歌詞の曲がある。タイトルは「ザ・V系っぽい曲」。歌詞にある「昔の曲はドブに捨てたの? ならば私はそのドブを浚おう」という一節を聞いた時、自分の本心を言い当てられたような気持ちになった。「売れたバンド」の影には、「昔の曲」が捨てられたドブをさらいたいバンギャちゃんたちがたくさんいる。そうして私は20年くらい、ドブをさらい続けている気がするのだ。
(写真)福島みずほさんとイベントにて。
雨宮処凛(あまみや かりん)プロフィール
1975年北海道生まれ。小説家、随筆家、ルポライター、社会運動家。十代の頃よりヴィジュアル系バンドのおっかけ、「ミニスカ右翼」と称しての右翼活動、パンク・バンド『維新赤誠塾』、『大日本テロル』ヴォーカル、映画『新しい神様』出演など様々な活動の後、自身のいじめ体験、リストカット体験などを赤裸々に綴った『生き地獄天国』(太田出版)で文筆家デビュー。現在は生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。反貧困ネットワーク副代表、『週刊金曜日』編集委員、日本厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員、他。師匠は作家の故・見沢知廉。自身の体験を元にビジュアル系のおっかけ少女の青春を描いた小説『バンギャル ア ゴーゴー』が講談社文庫より発売中。