「THE BIG ISSUE」にて2006年から2015年まで連載されていた「世界の当事者になる」から厳選した98篇のエッセイをまとめた1冊。母親殺害の犯人が事件前に寝たきりの祖母を訪ね「ばあちゃん、いよいよダメだ」と流した涙(彼の家は電気・ガス・水道が止まっていた)。生活保護を受ける高齢男性が呟いた「弱い者は死ねっていうのか」。貧困のため行方をくらませる直前の母親が、保育園に預けた子どもの荷物に「迎えに行けません」と書いたメモを忍ばせて「バイバイ」と振り続けた手。児童養護施設に保護された女の子が「施設に来て一番嬉しかったことは?」と聞かれて答えた「生まれて初めて靴下をはいたこと」。著者が一貫して発信し続けるのは「社会と戦え」ではなく、それ以前に必要な言葉だ。「あなたがそんな目に遭っていいはずがない」。この本は、最も敷居が低く、そして愛のある社会への入り口である。(Rooftop:成宮アイコ)