『仙台貨物』が好きだ。知らない人のために説明すると、公式サイトには以下のようにある。
「宮城県が産んだ謎の運送集団」「メタルからカントリー、しっとりしたバラードから演歌まで、オールジャンルを暖かい宮城弁であなたのハートへお届けいたします!」「キワモノも、ここまでくれば本物です!」「ナイトメアのメンバーとは兄弟だとか、違うとか・・・似てるとか、似てないとか・・・」。
そんな仙台貨物は大分前から存在自体は知っていたものの、頭に白い手ぬぐいを巻いた上に鼻の穴や真っ青なヒゲをぬりたくった捨て身のオッサンメイク、というボーカルの姿に、何か「私にはレベルが高すぎる」ような気がして近づけないでいた。しかし、ひょんなことからライブDVDを観て、完全にハマったのが約1年前。すぐにCDやDVDをまとめ買いし、真っ赤なツナギに身を包んだ上に訛りまくったメンバー6人が作り出す、あまりにもバカバカしくてくだらなくて笑えて、だけどなんだか「神聖」にすら思えるその世界にすっかり魅了されていたのだが、ハマってすぐに、既に仙台貨物が「倒産」していることを知ったのだった。
この時の落胆ははかり知れない。どうして、どうしてあとほんの少し早くハマることができなかったのか。私はひたすら自分を責める日々を送った。しかし、10月1日、仙台貨物のボーカル「イガグリ千葉」氏が「仙台貨物復活までの道のりvol・1 豪華3点責め」という名のライブを開催したのだ。
猛暑の時期にこの情報を知ってからはすぐにチケットをゲット、もう毎日楽しみに楽しみに楽しみにしていた。私も頭に手ぬぐいを巻き、オッサンメイクをして赤いツナギを着ようかと思ったものの、さすがにそれは自主規制(しかし、うら若き乙女たちはホントにそんなコスプレをしているのだから素晴らしい)。
そうして当日。渋谷O−EASTでのライブの時間は、まるで夢のようだった。イガグリ千葉さんによるソロリサイタル、そして倒産ライブである武道館映像、また、倒産後の日々を追ったドキュメントの初公開。あまりにもくだらない演出の数々におそらく私はこの1年間でもっとも笑い、そして気がつけば感動のあまり泣いていた。
基本的に後ろ向きな人間なので、すぐに「もう死にたい・・・」とか思ってしまう。そんな自分のために、私は「自分だけに効く自殺防止グッズ」を数年前からいろいろ集めているのだが、「仙台貨物」は私の最強の自殺ストッパーとなった。
おそらく、これから先どんなことがあっても仙台貨物のライブに行けば、すべてはハナクソ程度に思えてくると思うのだ。
雨宮処凛(あまみや かりん)プロフィール
1975年北海道生まれ。小説家、随筆家、ルポライター、社会運動家。十代の頃よりヴィジュアル系バンドのおっかけ、「ミニスカ右翼」と称しての右翼活動、パンク・バンド『維新赤誠塾』、『大日本テロル』ヴォーカル、映画『新しい神様』出演など様々な活動の後、自身のいじめ体験、リストカット体験などを赤裸々に綴った『生き地獄天国』(太田出版)で文筆家デビュー。現在は生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。反貧困ネットワーク副代表、『週刊金曜日』編集委員、日本厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員、他。師匠は作家の故・見沢知廉。自身の体験を元にビジュアル系のおっかけ少女の青春を描いた小説『バンギャル ア ゴーゴー』が講談社文庫より発売中。