現在、締切が近づいているというのに小説が書けなくて大変に辛い日々が続いている。本当なら今の時点で80枚ほど書けてないといけないところ、恐ろしいことに10枚くらいしか書けてなくて、しかも全部ボツにして1から書き直そうか・・・と悩んでいるというどうにもならない状態だ。先月くらいまで、毎月一定の枚数を書き、小説の連載をしていた自分が「神」に思えてくる。
「書けない」。これはもっとも大きな苦しみだ。そして多くのミュージシャンも「曲が作れない」などといった苦悩に日々直面していることだろう。そんな時、みんなどうしているのだろうか? ちなみに私自身はルポルタージュなども書いているので、「小説を書くことから一旦離れ、他の取材などに専念する」という気分転換の方法がある。
そんな「創作」に行き詰まった時、映画や読書などから刺激を受ける人もいるだろう。私自身は、別に行き詰まってない時でも一日一冊本を読み、一本映画を観ることをずっと自分に義務づけている。達成できない日もたまにあるが、基本的にはもう何年も「一日一冊・一日一本」を続けている。
そんな時、映画や読書ではなく、「音楽」から刺激を受けようとすると激しく落ち込む。私の勝手な基準なのだが、あらゆる表現の中で、音楽が一番「偉い」と思っているからだ。もう、文章とか、勝ち目がない気がするのだ。よって、私はすべての人種の中で「ミュージシャン」が一番偉いと思っている。バンギャならではの偏った考えという気がしないでもない。
と、ここまで書いて思い出したのだが、私は物書きになる前、そんな「ミュージシャン」になりたくてバンドを結成した。しかし、ひとつめのバンドは一回ライブをやっただけでメンバーに逃げられ、その次にやったのは右翼団体内で結成された右翼バンドで、演奏時間より演説時間が長いバンド。「君が代斉唱」からライブが始まるバンドはライブハウスからも嫌がられ、客も5人ほど。唯一のいい思い出は、そのバンドでイラク・バグダッドの国際音楽祭に招待され、砂漠のど真ん中で1000人ほどの前でライブをしたことだ。「反米」バンドだったので、反米ソングにイラク人たちは大喜び(通訳つきだった)。その模様はイラク国営テレビで全国放送され、なぜか大統領宮殿に招待されて今は亡きウダイ・フセイン氏と会見するというワケのわからない展開になったのだった。本人的にはバンドをやろうと思ってるだけなのに、どうも変な方向に行ってしまうようである。
さて、そんなふうに書けなくてうだうだしていたら、死ぬほど嬉しいニュースが飛び込んできた。私の大好きなバンド「仙台貨物」の千葉さんがソロ活動を開始するというニュースだ。締切も何もかもブッチ切って、駆けつけたいと思っている。
(写真)北海道に帰省。弟とドライブに行く。
雨宮処凛(あまみや かりん)プロフィール
1975年北海道生まれ。小説家、随筆家、ルポライター、社会運動家。十代の頃よりヴィジュアル系バンドのおっかけ、「ミニスカ右翼」と称しての右翼活動、パンク・バンド『維新赤誠塾』、『大日本テロル』ヴォーカル、映画『新しい神様』出演など様々な活動の後、自身のいじめ体験、リストカット体験などを赤裸々に綴った『生き地獄天国』(太田出版)で文筆家デビュー。現在は生活も職も心も不安定さに晒される人々(プレカリアート)の問題に取り組み、取材、執筆、運動中。反貧困ネットワーク副代表、『週刊金曜日』編集委員、日本厚生労働省ナショナルミニマム研究会委員、他。師匠は作家の故・見沢知廉。自身の体験を元にビジュアル系のおっかけ少女の青春を描いた小説『バンギャル ア ゴーゴー』が講談社文庫より発売中。