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6回「あらゆる支配からの解放」

第56回「あらゆる支配からの解放」

2024.06.04

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Text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

助け合いのかけらもない社会に異を唱えるのが「アナーキズム」であると、俺は思っている

 先日、2024年5月10日に、『渋谷のラジオ』の中の『渋谷のほんだな』に出演させてもらったときのことだ。
 俺の新作著書『静岡ハードコア』『新装版 関西ハードコア』が出版されたためなのだが、パーソナリティーの原カントくんさんは、これまで出版した『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』『右手を失くしたカリスマ MASAMI 伝」『Laugh til you die 笑って死ねたら最高さ!』の内容などにも触れてくれ、当時の東京ハードコアシーンや、関西、静岡のハードコアシーンについていろいろ聞いてくれたので、日本のハードコアについて電波に乗せることができた。
 
 『渋谷のほんだな』のアーカイブはこちら
 
 このラジオ出演の中で、個人的思いなのだが「性善説でなければアナーキズムは成り立たない」と話している。俺個人としてはそう思うというだけなのだが、パンクスである時点で「アナーキズム」に関して自分なりの考えを持つのは普通だろうと思う。
 「アナーキズム」は無政府主義と言われることが多いが、一切の政治的なもの、たとえば政府や宗教などの権力による支配を否定し、個人個人が自由である社会を理想とするといったところであると思う。
 そんな社会を理想とする考えを「アナーキズム」もしくは「アナキズム」と言うのだが、政府や宗教などの権力による統治システムがない自由だとすれば、なんでもやり放題と捉える人間もかなりいると思う。
 漫画『北斗の拳』や映画『MAD MAX』のような世界になる可能性が高いと考える人は多いだろう。確かに現在の世界の国々の状況を鑑みれば、そうなってしまうのは火を見るよりも明らかだと感じるのも仕方のないことだと思う。
 
 しかし太古の昔より進化を遂げてきた生き物たちは、ごく一部の例外を除き、社会生活の上でお互いに助け合い進化してきている。
 渡り鳥や蟻などを見てもわかるように、弱い個体たちは多くの仲間と団体を形成し、自然環境に適応できるように闘ってきた。
 渡り鳥や蟻などと違い、ライオンやトラ、ゴリラやオランウータンなどは、ごく少数のコミュニティを形成するが、そうした例外を除き、なんら身を守る強固な武器を持たず、個体として弱い生き物たちは、お互いに助け合い生きる術を見つけ進化して生き残ってきた。
 弱きものの知恵と言っていいだろう。その知恵によって進化を遂げてきた動物が、現在も存続している種である例がたくさんある。
 
 現代社会では弱肉強食というような、競争社会で強いものが生き残るのが当たり前として捉えられ、弱者には自己責任を押し付ける。
 金のないものを見捨て、社会的弱者を見捨て、個人の欲望を得る・守るための社会が形成されている。政治家の世界も一般社会も大差がない。今現れている政治の問題は、世の中の縮図であると言っても過言ではないだろう。
 この助け合いのかけらもない世界が、権力や宗教、それに付随する教育によって人々には常識として認識され、正しいものとしてまかり通っている。
 そんな社会に異を唱えるのが「アナーキズム」であると、俺は思っている。
 
 競争原理は、決して生き物の進化を促進させるものではないと、ピョードル・クロポトキン 著、大杉栄 訳の『相互扶助論』でも書かれているが、助け合わずに争って、個々の利益だけを求め続ければ、その種は滅んでしまう可能性が高い。そりゃそうだ。争い合って殺し合うよりも、助け合うほうが生きていける確率は高くなるのは当然だ。
 元来生き物は、生き延びるために「安全」を求めて行動するのが本能であると思う。わざわざ危険に身を晒して争うばかりの種が、果たして生き残るだろうか。そして今現在の人間は、争い合ってばかりで、個々の利益を追求する社会常識に支配され、地球環境すら破壊している。果たしてそれで人間はこの先「種」として生き残れるのだろうか? 進化の過程において、現代まで争いを好む種が生き残ってきたのだろうか。それとも人間だけが特別なのか? そんな驕りが支配を生み、破壊を生み出すのではないだろうか。
 人間だって原始時代から中世以前までは、権力による支配などなく、コミュニティで助け合い、話し合い、問題を解決してきたという。他の動物たちと同じように。
 
 何も難しい話をしているわけではなく、あらゆる支配から解放されることを理想とし、そのためには助け合うのが一番理にかなっているというのがアナーキズムというものだ。
 たとえば、地震などの災害のときに寄付をしたりボランティアをするのに、何も見返りは求めない。ただ各個人の心の中にある「助けたい」という気持ちの表れだ。
 倒れている人がいれば声をかけたり救急車を呼んだりするのも、何も見返りなど求めない、人としての本能的な扶助の精神だろう。こうした状態が「アナーキズム」そのものだ。
 「愛」というよりは「動物の本能」であり、本能的に動物にはこうした扶助の精神は備わっていて、それは他の動物でも人間でも変わらない。動物、特に肉食獣などには争う場合も多く見られるが、争いよりも助け合いのほうが多いのが動物界であるという。動物が飢餓状態の空腹であっても、必要以外の無駄な争いや殺戮をしないのは皆知っているはずだ。
 
 「相互扶助論」より抜粋
 
 「社会的精神は相互闘争と等しく自然の一法則である。勿論この二つの事実の比較価値を、よしおおよそにもせよ、数字的に決定するのは、極めて困難なことであろう。しかしわれわれが間接証拠に微して(ちょうする。照らし合わせると言った意味)、『絶えず互いに闘争するものと、互いに扶助するものと、のいずれが、最適者なりや』という問を自然に向かって発するならば、我々はただちに相互扶助の習慣を持っている動物が正しく最適者であることを知るのである。」
 
 果たして現在の人間はどうだろう。
 
 「相互扶助論」より抜粋
 
 「民族は民族と戦い、種族は種族と闘い、個人は個人と争っている。そしてこの相拮抗する諸勢力の混沌たる闘争の間に、人類は諸階級に分立し、暴王に隷属し、そして常に互いに相戦わんとしている諸国家に分かたれた。悲観的史家等は、かくのごとき人類の本能と略奪本能とは、ただ強大な権力によって平和を矯正し、かくして少数の選ばれたる人々をして将来の人類のためにより善き生活を用意するの機会を得せしめることの外には、何等の制限を加えることができないと。」
 
 俺が実際に会ったアナーキストを自負する方には、映画監督の故・若松孝二監督と、亜無亜危異の仲野茂さんがいるのだが、若松監督は「俺はアナーキストだから選挙には行かないんだよ」と言っていた。
 仲野茂さんは「俺はアナーキストだから投票には行かない。投票率0%を目指す」と言っていたが、この言葉には度肝を抜かれた。正直、「なるほど! そっちを目指すのか!」と思ってしまったのだが、確かに信任されない政府であれば、政府として成り立たない。これには頷かざるを得なかったのが、俺個人の偽らざる気持ちだ。
 いろいろ勉強したり話を聞いたりして、アナーキズムについての考えを知ってくると、自分なりのアナーキズムも進化する。
 今の日本の投票率や国民性を考えたら、投票率70〜80%を目指すのと0%を目指すのでは、どちらが現実的に近いのだろうか?
 自民党や公明党、維新や国民民主などに投票せず、共産党や社会党、れいわなどに投票して、もし過半数を超えたり、政権奪取などの暁には、ただ支配者がすげ変わるだけで、支配されている事実そのものには、なんの変わりもないのではないか?
 別に選挙に行くなと言っているわけではない。個人的に投票行為自体に「支配からの解放を目指しているのに、支配者の首をすげ替えるための選挙で投票するのはどうなの?」という疑問が湧き始めているだけだ。あっちの支配からこっちの支配に変わるだけで、支配されることに違いはない。
 「まだマシ」な人間を選んで投票するのが選挙での俺のスタンスだが、果たしてそれで本当に変わるのか? と。しかしまぁ、まだ投票を拒否するほどのアナーキストにはなりきれていない半端者ではあるのだが。
 
 「動物の解放なくして、人間の解放などない」と思っている人間としては「あらゆる支配からの解放」というアナーキズムが理想的な世界である。選挙じゃ支配はなくならないよなぁ。さてどうしたものか。
 やっぱり性善説じゃなきゃ「アナーキズム」は絵に描いた餅なのだろうか。
 私もあなたも同じ人間だし、猫も犬も豚も牛も鳥も、人間と同じ動物なのに、同じもの同士でなぜ支配したがるんだろう。
 いくら「解放せよ」と叫んでみたって、自分の欲望のために自らより弱い生き物を支配して殺していたら、解放もクソもないじゃないか。政治家や権力者が俺たちを支配する構造も、何ひとつ変わらない。それが今の世の中の現実だ。
 あ〜あ。嫌な世の中だねぇ。どうやったら変わるのかね。

BAD BRAINS『I And I Survive』

なぜすべての人が(なぜ?)
なぜ撃ち続け、奪い続けなければならないのか(なぜ?)
なぜすべての人が(なぜ?)
殺し、戦い続けなければならないのか
 
いいえ(No, I)
私は決してしようとしない(I will never try)
聞いてくれ、いや、私ではない
私と私(I and I)は決して努力しない
なぜ金持ちは金をため込まなければならない?
金をため込み続けなければならないのか?
そして、なぜこの貧しい男は(なぜ?)
俺の生活、面白くないよ
 
いや 俺は(No, I)
俺と俺は決してやらない(I and I will never try)
聞いてくれ、いや、僕じゃない
私は決して(I and I will never)
そんな生き方はしない
 
いいえ,私は(No, I)
私は決してしようとしない(I and I will never try)
いいえ、私ではない
私は決してしない(I and I will never)
 
そして、ジャーは彼らに何を示したのか?(私と私[I and I]は生き残る)
彼らはこの国を止めようとした。(私と私[I and I]は生き残る)
創造を唱え倒すために(私と私[I and I]は生き残る)
イスラエルの国(わたしは生き残る[I and I])
 
そのように生きようとする
なぜ私たちはそれぞれの道を望むのか?(なぜだろう?)
なぜ私と私はそれぞれの道を望まなければならないのか?
 
いや、私ではない(No, I)
私は決してしようとしない(I and I will never try)
聞いてくれ、違うんだ。
私と私(I and I)は決して努力しない
 
お金がなくても生きていける
食べるものがなくても 私と私(I and I)は生き残る 
 
どうして?
どうして?
どうして?
どうして?
私と私(I and I)は
私と私(I and I)は生き残る
私と私(I and I)と言って
セイ・アイ・アンド・アイ
私と私(I and I)は生き残る
 
※ “I and I”は、相手のことをYOU(あなた)ではなく、“I”(自分)という表現で自分と他人は同等の存在という考え方。それによって他人にも優しく接することができるといった意味。翻訳中「私」や「俺」という表現は上記の意味での“I”になると思われます。
 
DeepL.comで翻訳しました。間違いがあればご指摘いただけるとありがたいです。
 
『I And I Survive』
Why must all people(Why?)
Keep on shooting and robbing(Why?)
Why must must all people(Why?)
Keep on killing and fighting
 
No, I
I and I will never try
Listen, no, not I
I and I will never try
 
And why must the rich man(Why?)
Keep on hoarding all the money?(Why?)
And why must this poor man?(Why?)
My living, it ain't very funny
 
No, I
I and I will never try
Listen, no, not I
I and I will never
Try to live that way
 
No, not I
I and I will never try
No, not I
I and I will never
 
And what did Jah show them?(I and I survive)
Them tried to stop this nation, but(I and I survive)
To chant down creation(I and I survive)
An Israeli nation(I and I)
 
Try to live that way
So why must I and I want each way?(Why? Oh, why?)
And why must I and I want each way?
 
No, not I
I and I will never try
Listen, no, not I
I and I will never try
 
Without any money, I and I survive
Without any food to eat, I and I survive 
 
Why?
Why?
Why?
Oh
Say I and I
Say I and I
I and I survive
Say I and I
Say I and I
I and I survive
 

◉Bad Brains(バッド・ブレインズ)は1978年にメリーランド州プリンス・ジョージ・カウンティで結成。初期はアメリカン・ハードコアのオリジネイターとして、後にはレゲエ、ヘヴィメタルの要素も取り入れた、ミクスチャー・ロックの先駆けとして名を馳せた。また、メンバー全員が黒人のパンク・バンドとして、初めて大きな音楽的影響力を持ったバンドでもある。「I And I Survive」は1982年に発表された12インチ盤のタイトルトラック。
 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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