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4回「人々には力がある」

第34回「人々には力がある」

2022.07.16

People_Have_the_Power_-_Patti_Smith.jpg

text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)
 

選挙は数だが、魂は強さだ

 2022年7月10日の参議院選挙を目前に控えた7月8日午前11時半ごろ、奈良県奈良市にある近鉄・大和西大寺駅前で、自民党議員の佐藤啓氏の応援演説をしていた安倍晋三元総理が銃撃され、同日午後5時3分に死亡が確認された。
 元海上自衛隊員で奈良市在住の山上徹也容疑者の手製の銃による犯行であった。
 事件当初は選挙期間中ということもあり、「安倍元総理の政治信条に対する政治的な犯行か?」と取り沙汰されたが、実際は政治信条とは全く関係のない、容疑者の家庭の事情による怨恨だった。
 
 7月12日時点でわかっていることを簡潔に説明すると、山上容疑者の母親が統一教会という宗教団体に入信し(現在の名称は統一家庭連合)、一説には5,000万円とも言われる莫大な献金による家庭崩壊によって、統一教会とは祖父の岸伸介元総理の時代からズブズブの関係である安倍晋三元総理を殺害する目的で狙ったというものである。
 要するに、現政権自民党の大きな支持母体である宗教団体の統一教会の信者家族が、統一教会に金をむしり取られボロボロになった恨みを、統一教会と非常に関係が深い安倍元総理に向けたという、怨恨殺人である。
 ただし、これも現時点でわかっている情報のみであり、容疑者が警察での取り調べで話した一部を、マスコミが流しているものである。
 現実的に事件の真相は、現時点ではわからないと言っていいだろう。まだ取り調べの段階であるし、警察発表の一部のみで予想しているだけの話である。
 弁護士と容疑者との話を聞くのは難しいと思うので、容疑者の心を開いた話による事件の詳細が明らかになるのは、裁判でのやりとりになるだろう。それまでは、今までの事実関係を調べることはできても、これから先のことは憶測の段階からは出られない。
 個人的には時間が経過し、裁判が進むにつれ、容疑者の心情がもっと落ち着いた頃や刑が確定したあとに出てくる話などに、かなり真相に迫る事実や、深い信ぴょう性の話があるのではないかと思っている。
 
 事件当日の7月8日から、今日7月12日までの経過を見ても、情報の錯綜は否めない。
 「撃ったのは散弾銃」「散弾銃ではなく拳銃」「政治的恨みの犯行」「民主主義への挑戦であり、言論弾圧のテロ行為である」「政治的信条とは全く関係がない」「カルト宗教統一教会への恨み」「統一教会と政治の癒着」...etc.
 現時点の情報では、自分がズブズブの関係だった統一教会被害者に殺されるという、結果的に自業自得と言える最後となってしまった安倍元総理だが、事件が選挙期間中だったということもあり、死亡した安倍元総理の所属する自民党が圧勝する形で選挙は終わった。
 
 ここから先は、非常に注意深く気をつけないといけないことがある。様々な怪情報が出てきて、陰謀論がはびこってしまうことだ。
 事件が起きた当初も、様々な陰謀論が飛び交った。
 「血糊のポンプがある」「事件の前に記事が出ていた」「容疑者の名前が事件後すぐに報道されたのはおかしい」「後ろから撃ったのに首に当たっているのはおかしい。やったのは他の人間だ」等々、ケネディ暗殺やジョン・レノン暗殺などで飛び交う話と同等のものが非常に多く見られた。まだ容疑者が何も話していないにもかかわらずだ。
 そもそも、陰謀論でよく聞かれる壮大な内容がインターネットに掲載されて、俺たちレベルにわかってしまう話で世界が牛耳られているというのが素朴に不思議であり、甚だ疑問である。
 しかし何でもかんでも「陰謀論だ!」と言って片付けるのもおかしいとは思っている。
 安倍や自民党と統一教会の深い関係は陰謀論でもなんでもない単なる事実であるのだが、その事実を陰謀論に貶めようとする風潮も出てきている。
 安倍や自民党が、カルト宗教とズブズブである事実が公になるとまずいことがたくさんありすぎて、誤魔化すために根拠の乏しい話の多い陰謀論にしようとしているのだろう。陰謀論の流すデマは非常にタチが悪いため、安倍や自民党と統一教会の関係もデマとして葬り去るために必死になっているように感じるが、単なる事実で証拠があるものを陰謀論として片付けるのは無理があるだろう。
 今回の事件に関しても警察と検察の聞き取り内容や、出てくることはほとんどないと思われる弁護士との話の他にも、容疑者と心を通じ合えるジャーナリストのような人が必ず出てくると思うので、そうした一次情報の正確な話が出てくるまで、事件の真相に近づくことは難しいと思う。
 今現在は、新たなる陰謀論ドラマや映画のシナリオを制作中の人間が雲霞のごとく存在する、とでも思っておいて良いだろう。
 わからないことはまだわからないものとして、無理に答えを出そうとせず、我慢して証拠や一次情報が出るまで待つことはできないものか? そんなに焦ることはない。あなたの陰謀論が正解だったとしても、安倍が生き返り桜を見る会問題での118回の虚偽答弁が訴追され刑に服すこともなければ、安倍の虚偽の尻拭いのために死んでしまった近畿財務局の赤木さんが生き返ることもない。国会の過労死問題で人が死んでいる議題を取り上げている最中であるにもかかわらず、ニヤついて笑っていた安倍が謝ることもないし、モリカケ問題で懲役刑になることも永遠にないのだ。
 一次情報や事実の乏しい陰謀論にハマりこむよりも、事実を認識し丁寧に証拠を積み重ねて、生命を軽視する今の政治を終わりにするべきなのではないだろうか。死んだからといって生前の悪事が許されるわけではないが、安倍のような人間でも死ぬべきではなかったと思う。人の死で問題を解決してはならない。
 
 選挙では自民党が圧勝した。これから3年間は国政選挙がない。ではどうすれば権力の暴走を止めることができるのか?
 選挙という手段では変わらなかった世の中だが、そんな世の中を変えるのも、選挙の一票と同じひとりひとりの力だ。
 人間ひとりの力というものは、選挙の一票以上の重さや強さを発揮する場合が多くある。生命とはそれだけ強いものであり、そんな素晴らしい生命を軽視する世の中を変えられる力を俺たちは持っている。選挙は数だが、魂は強さだ。絶対に諦めるな。
 
 
パティ・スミス『PEOPLE HAVE THE POWER』
 
夢を見ていた
夢の中では全てが明るく公正だった
その後眠りは覚まされた
けれどその夢はまだ私の側にある
 
輝きの谷では
純粋な空気の存在がまだ認められているから
私の知覚は新たに開かれ
目覚め、そして泣き叫んだ
 
人々には力がある
愚か者の仕事を贖うだけの力が
優しい人々からは限りない慈悲を得る力が
その力こそが
人々の支配を可能にする
人々には力がある
 
執念深さは疑惑に変わり
聞き耳を立てるため身を低くかがめる
自分達の耳を持っているからこそ
兵士達は前進を止めた
羊飼いと兵士は星空の下で横たわり
腕を横たえて 夢を語り合う
 
輝きの谷では
純粋な空気の存在がまだ認められているから
私の知覚は新たに開かれ
目覚め、そして泣き叫んだ
人々には力がある
 
砂漠があった場所に 私には泉が見える
クリームのような水しぶきが上がる
そこで私達は散歩をしたの
笑わない人や批評する人や
豹や子羊たちと
共に横たわりましょう
 
私は望んでいた
私の望みは、私が見つけたものを呼び戻すこと
私は夢を見ていた
私の夢は、神のみぞ知る、眠りへ誘われるような、純粋な視界
 
私の夢をあなたに託して
 
人々には力がある
人々には力がある
夢を見る力 物事を判断する力
地球を愚かなものたちから闘いとる力
それゆえに人々は支配される
 
聴いて 
私達の夢見るすべては、団結することで実現できると私は信じているの
私達は世界を変えることが出来る
私達は地球を革命出来る
私達には力がある
人々には力がある


◉パティ・スミスは“クイーン・オブ・パンク”(パンクの女王)とも称されたシンガーソングライターであり詩人。1975年、29歳で発表した『HORSES』でデビュー。「PEOPLE HAVE THE POWER」は、1988年に夫フレッド・スミス(元MC5)と共作した9年ぶりの5thアルバム『DREAM OF LIFE』に収録。

【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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