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第32回「手遅れになる前に」

2022.05.12

TOO LATE(遅すぎる)」 AUSCHWITS.jpg

text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

知床の観光船会社の杜撰さは今の日本という国の縮図だ

 2022年4月23日に北海道知床の観光船で、乗員乗客26名が行方不明となる事故が起きてしまった。
 4月29日の時点で周辺海域で見つかった14人は、全員の死亡が確認され、なかには3歳の女の子と思われる子どもも確認され、居た堪れない気持ちが抑えられない。
 私ごとではあるが、以前自分の息子と旅行に行く計画をしていたときに、この知床での遊覧船に乗せて動物の自然な姿を見せてやることができれば、動物園などにいる動物とは違った本当の動物の生命を感じてくれるのではないかと思い、我が子を乗せてやりたいと思ったことがある。
 多かれ少なかれ同じような気持ちを持つ親は多いと思うので、それだけ子どものいる家庭では人気のある観光地であると思う。そんな人気の観光プランで、悲劇は起きてしまった。
 
 それだけの事故を起こしてしまった観光船会社の実態は、新聞などの報道が真実であれば、かなりひどいものだということが分かってきている。
 他の観光船会社が出航をとりやめ、事故を起こした遊覧船会社に対して出航をやめるように言うほどの悪天候の中、ただ一隻で出航し、事故を起こしてしまう。
 他の船も出航していれば、助かる可能性はあったかもしれない。一隻だけで出航するのは、安全上ありえない話だという。
 これ以前にも事故を起こしていたこの会社は、事故後の船体の修理が完全ではなかった可能性も浮上している。
 そんななか事故を起こした会社の社長は、事故後5日経ってからようやく記者会見を開くという対処で、当初乗客の家族への説明会にも初回のみしか出席していなかったという。
 この会社の杜撰さは調べていただければ分かると思うが、個人的には「金のために安全を軽視した人災」だと感じてしまう。
 もし自分の家族や友人が犠牲になっていたらと思うと、憤りを抑えきれない方はたくさんいるだろう。特にまだ行方不明の家族の方々には、たとえどんなに可能性が低いとしても、どうか無事で見つかることを心から望んでいる。
 
 しかしこの一連の事件を調べていると、あるとき「あれ? これって何かに似ているな」と思うようになった。
 海や船に素人の社長が、それまでいたベテランの船長を解雇し、経営コンサルタントを雇って会社の利益追求のために安全を軽視した操業を行なうブラック企業とも言える運営。まるで今の日本という国の縮図ではないか。
 国民の生活状況や生活環境も分からない、興味がない人間が政権政党の政治家になり、中抜きをすることしか頭にない経営コンサルタントのような人物を経済の中心に起き、逼迫した生活環境の国民を無視するのと同等な扱い。あれだけの事故を起こした原発の再起動に固執し、戦争の放棄や国民主権を謳った憲法を是が非でも改悪したいという願望に突き進み、福祉に使うはずの消費税は大企業のために使われるこの国の政策は、他の政党や観光船会社はきちんとしているところまで似なくても良いだろうというぐらい、知床観光船の素人社長がやっていることと、日本国政府がやっている政策は瓜ふたつではないだろうか。
 こんなに生命を軽視した国づくりをしていれば、その国が生命を軽視した国民で溢れかえっても不思議はないだろう。そんな人間が経営者となれば、その会社がまともかそうでないかは、俺のような頭の悪い人間にでも分かる。
 いまだに死刑支持率が高く、抑止力という言葉で誤魔化す核保有論、ロシアのウクライナ侵攻で湧き上がる戦争のできる国づくりは、まるで生命のことを考えているとは思えない。
 コロナ禍で逼迫した仕事により経済状況が悪化し、借金を抱えてしまえば、あなたがいつ知床観光船の社長のように、生命を軽視して金のことしか考えなくなるか分からない。日本が戦争のできる国になってしまったら、ロシアのように他国に攻め込み殺戮を犯すかもしれないということを想像できないのだろうか。
 あまりにも他の生命に対して蔑ろになり過ぎているのが、人間という生き物なのではないだろうか。
 あまりにも自分以外の苦痛や痛み、恐怖に対して蔑ろになり過ぎているのが、人間という生き物なのではないだろうか。
 今の日本の政府が行なう政策や知床観光船の社長のように、自分と同じ感覚や感情を持ち自分と同じように痛みや悲しみ、喜びや苦痛を感じ、自分と同じように死への恐怖がある他者に対して、金というもののために苦痛や死を与え搾取している人間を、あなたは一体どう感じるのだろう。
 あなたがそんな人間と同じことをしていたら、自分に対して、家族に対して、友人に対して、愛するもの全てに対してどう思うのだろう。
 俺は神を信じてはいないが、もし神がいるなら、もし物事に道理があるなら、もし自然に摂理があるならば、生命というものを蔑ろにする人間という生き物に、苦痛や死の恐怖が降りかかっても何ら不思議はないのではと思ってしまう。
 
 その人間の一番大きな苦痛と恐怖が、殺して奪う「戦争」というものであるのかもしれない。殺して奪う者が、自分だけは殺されて奪われないとでも思うのだろうか。それとも殺されて奪われる覚悟を真剣に持って生きているのだろうか。それならば愛するものが殺されても文句を言わないのだろうか。いろいろなことが頭に渦巻き解決できないほど、甚だ不思議である。
 数学者であり哲学者のピタゴラスは、以下のような言葉を残している。
 「人間が、動物を虐殺し続ける限り、人間同士の殺し合いも、なくなることはないだろう。殺しと苦しみの種をまく者が、喜びと愛で報われることはない」
 
 人間の世の中が起こす悲しみや苦痛、押し付けられる憤りや死への恐怖を、可能な限りなくすための方法をひとりひとりが行動していかない限り、惨状はなくならないと俺は思う。人間の世界を今よりマシにしたいと思うのであれば、そのためにできることが人間にはあるはずだ。
 もう地球も人類も悲鳴を上げているのではないだろうか? その悲鳴が聞こえている人もいるはずだ。まず変えるものは何か真剣に考えて欲しい。どうか手遅れになる前に。
 
 最後に、今回の知床観光船事故により亡くなられた方々のご冥福を、心よりお祈りいたします。
 そしていまだ行方不明の方々が発見されることを、心から願っています。
 
 
AUSCHWITZ『TOO LATE』(遅すぎる)
 
忘れ去られた場所に
おきざりにされ
ひたすら傷の痛みに耐え
乾いてゆく夢の跡
 
人の視線をのがれ
それでも再び曝けだし
吐きながら笑い
王者と奴隷になる
 
Lost My Mind
Lost My Soul
Too late Too late
 
両刃の剣を呑み
濁った目を凝らし
生きた体に宿る
死せる心をさがす
 
険しき道をたどり
そこに至る者もあり
屍の山の果て
すべてふり出しにもどる
 
Lost My Mind
Lost My Soul
Too late Too late
 
 
◉AUSCHWITZ(アウシュヴィッツ)は、関西インディーズの創始者であり立役者、そして町田康と結成した伝説のバンド“INU”のギタリスト、林直人が率いたバンド。「TOO LATE」は1985年に7インチとしてリリースされ、1991年リリースの『SONGS』に収録。林の死後、2015年に発表された『THE VERY BEST OF AUSCHWITZ』にも収録されている。

 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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