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COLUMN

1回「お前の国」

第31回「お前の国」

2022.04.05

GOGOL BORDELLO.jpg

text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)

自分が感じる苦痛と同じものを、自分と同じ感覚や脳を持つ生き物に与える行為は戦争と同じだ

 2022年3月29日現在、まだロシアによるウクライナへの侵略戦争は終結していない。戦争が始まってから、すでに1カ月以上が経過した3月15日の時点で、ウクライナから国外へ逃げる国民は300万人を超えたという。

 犠牲者の数などは、両国の発表によって違いもあり、国家のプロパガンダによる部分も大きいと思われるために、正確な数字はわからないのが正直なところだろう。しかし、戦争によって一般民間人に犠牲者が出ていることは確実であり、個人的には数字で被害を語ることに違和感を感じてしまう。
 そんな戦争に心を痛める人間が多い中、元総理の安倍晋三が2月27日に出演した番組内で「核シェアリング=核共有」について是非を議論すべきという、世界唯一の被爆国である日本の総理大臣を務めた人間とは思えない、驚異的な発言をした。
 今現在でも黒い雨裁判など被爆者の方々の闘いは続いている最中に、他国が行なっている戦争をダシに核保有論を展開するなど、自国の被害者を蔑ろにした、人としての精神構造を疑う問題発言である。お腹が痛くて辞めたのなら、とっとと隠居して、自らの発言した多くの虚偽によって訴追をされる恐怖に怯えながら、この世の片隅で縮こまっているべきではないだろうか。
 現総理の岸田首相の、非核三原則を守るといった至極当たり前の発言が素晴らしいと感じられてしまうほど、愚かで醜い腐りきった発言である。そんなことすらわからなない異常さは、全く被害者の気持ちがわからない、ヒトという動物種ではないのではないか? とさえ思えてしまうような、唾棄すべき発言と精神である。
 
 しかしこの安倍と大差のない思考になってしまうことには、気をつけなくてはならない。
 今回の戦争によって、ネット上では「ロシアが悪い」「ウクライナも信用できない」「アメリカが裏で糸を引いている」などのほかにも、専門家でもない一般人がしたり顔で語っているのをよく見かける。それに輪をかけて改憲論まで持ち出すなど、対岸の火事よろしく言いたい放題の狂気がこの国には蔓延っている。
 確かに戦争の原因を調べ、知ろうとするのは悪いことではない。しかしそこには、戦争被害者そのものが置き去りにされているように感じてしまう。
 国家などというものが起こす戦争には、悪しか存在しない。どちらの国が悪いかがわかったところで、被害者たちの助けになるのだろうか? 裏で糸を引いているものが存在したとして、それを明らかにすることが今現在飯も食えず家もない被害者たちにとって、何か有益なことがあるのだろうか?
 頭の中での戦争シミュレーションゲームに現(うつつ)を抜かしているよりも、被害者のために何かできることを模索したほうが、よほど有意義だと思うのはおかしいだろうか?
 デモや集会に行って声を上げる多くの人たちが、日本全国に存在する。その連帯が世論となれば、政府だって動かざるを得なくなるかもしれない。筆者が知る限りでは、今回の戦争における反戦集会やデモでは、ロシアの侵攻に対して「やめろ!」と言っている、心優しき人たちが声を上げているものばかりだ。
 今回の戦争が注目されることで、常に戦闘状態であるパレスチナやシリアの他にも、アフガニスタンやアフリカで起きている内戦を知る人間も多くいるだろう。
 そんな悲惨な現実を知ったときに、どちらが悪いなどと現実的には何の支援にもならない声を上げることは、被害者を置き去りにしているという部分で、安倍の核シェア発言と大差ないと俺は感じる。
 そんなことよりも、ひとひとりにできることがあるのではないだろうか。デモや集会で声を上げたり、SNSなどで発信するのも大切であると思う。多くの人間と繋がることで、何かを変えるきっかけにはなれるかもしれない。しかし、いち個人で戦争を止めることは非常に難しいだろう。
 いち個人や、戦争放棄を謳った日本という国のできることは、どちらか片方に肩入れして対立を煽るのではなく、戦争被害者の支援が最も有効な手段ではないだろうか。
 今回の戦争に関して、もしもこの戦争が終わったときに、ウクライナが勝利したとする。それを喜ぶ人間がどれほどいるかと思うと、非常に恐ろしく暗澹たる思いになる。戦争の結果によるどちらかの勝利や負けに感情移入するのは、戦争そのものを認めてしまっている行為であると思うし、あまりにも事の重大さを見失った生命を軽んじた行為に思えてしまう。どうか、勝ち負けではなく、この戦争によって傷つき倒れ、死んでしまった人や、被害に遭って自分の家や土地、国を追い出された人たちに思いを馳せて欲しい。
 個人的に自分が感じる苦痛と同じものを、自分と同じ感覚や脳を持つ生き物に与える行為は、戦争と同じだと思っている。
 そんな他者の痛みを忘れ、無視して、どちらか一方に肩入れして勝った負けた、どちらが悪いなどと一喜一憂し、違いを見つけて殺し合う戦争を対岸の火事のように捉えるのは、個人的に安倍のような心のない人間と同じだと感じてしまう。
 
 以下に、ウクライナ難民の支援先として詳しく書かれたものを貼っておく。
 ▼ウクライナ危機、日本からもできる寄付先まとめ:https://www.alterna.co.jp/46678/
 
 代表的なものなので、東日本大震災のときのように、大きな会社や団体では細かい支援が行き渡らないことも多いと思われるので、これ以外に個人的に調べたほうがベターだとは思う。
 SNSなどを注意して見ていれば、個人的に支援の場に繋がっている人もいると思うが、くれぐれも詐欺募金に騙されないようにして欲しい。
 デモや集会、支援金などで、いち個人としてできることをやってみるのは、反戦行動として素晴らしいと感じる。
 他にも音楽や文章、演劇、トークや絵画などの芸術関連で発信する手段を持つ人は、そうした自分のスキルで訴えていくことも重要だと思う。
 戦争が始まれば真っ先に犠牲になる俺たちのような一般民間人に、できることをやってみないか? 施政者が異常だからといって、国家の立場に立ったような観点の間違いを、頼むから起こさないでくれ。
 
 ウクライナ出身のユージン・ハッツという人物が、チェルノブイリの原発事故によって7年間難民キャンプで過ごしたあと、祖国を離れアメリカに渡った。そしてニューヨークで様々な国の人間たちと交わり作ったGOGOL BORDELLOというバンドの1曲「お前の国」の歌詞で今回は終わりにする。
 国家なんてものは、どこの国でも大差がない。ウクライナのひとりの青年が、祖国を離れ感じた思いは現在の情勢に通じるものがある。さてあなたはどう感じ、何をするのだろうか。
 
 
GOGOL BORDELLO『YOU COUNTRY(お前の国)』
 
お前の国はお前を育てた
お前の国はお前を養った
他の国と同じように お前をダメにするだろう
最前線にお前を送り、税金を奪う
他の国と同じように お前を監禁するだろう!
 
だけど不運なことに裁判は行われない
きっと面白い見物になるだろう
奴等が神に説教されたら 奴等は何と言うのだろう
実際そこにいる そして引き立て役が嫌いだった者は
地獄へ落ちるんだ!
 
この国々は何なんだ
どうやって現れたんだ?
誰がケーキを刻む?
誰がこのギヤを持ってきたんだ?
人々の意思を持って 何かしないといけなかったのか?
俺にはわからない、わからない
 
愛する人よ、俺にはわからないんだ…
 
俺たちの目に流れ込む、全てのゴミでさえ
俺たちが生きていくことの妨げにはならない
最も不思議な人生
 
現在午前6時
俺はニューオリンズにいる
シスターがお前の壁を塗っている
きっと俺に話しかけてきて
後に俺達は地元のトライバルコネクションの
残りへの挨拶を取り戻す


◉ゴーゴル・ボールデロ(GOGOL BORDELLO)は、1999年にニューヨークで結成された多国籍ロック・バンド。その音楽はジプシー・パンクと称され、フォーク・ロックおよびアイリッシュ・パンクをベースに、東欧民謡などメンバー全員が持ち寄った様々なルーツの要素を融合し生み出されるパーティー要素の高いジプシー・ミュージックを奏でる。「YOU COUNTRY(お前の国)」は2007年に発表された『SUPER TARANTA!』に収録。

 
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
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