異次元の常識 text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)
ネットとは誹謗中傷や悪口、ヘイトで繋がって承認欲求を満たすものじゃない
2021年8月30日午後4時ごろに、京都府宇治市にあるウトロ地区において、放火事件が起きていたのだが、その犯人が12月6日に逮捕された。
当初は失火の可能性もあると見られていたが、名古屋市の在日本大韓民国民団の愛知本部に火をつけたとして、器物破損の罪で11月に起訴されているという22歳の男性が逮捕された。
京都のウトロ地区というのは、第二次大戦中に飛行場建設に携わった朝鮮人労働者の飯場が元になって形成された地区で、現在も約100人ほどが暮らしている。
朝鮮半島にルーツを持つ人たちの居住区であるのだが、民有地であるために権利問題が起きている場所であったが、韓国政府の出資や寄付などで一部の土地を買い取り、市営住宅が建てられることが決まっており、現在、第2棟の完成を待っている状態だという。
そんな中で起きた放火事件であるのだが、犯人の男性の逮捕による供述に「朝鮮人が嫌い」との内容の発言があったようで、この事件はヘイトクライムであることがわかった。
ヘイトクライムとは、人種、民族、宗教、性的指向などにかかわる、特定の属性を持つ個人や集団に対する発言や憎悪が素で引き起こされる、嫌がらせ、脅迫、暴行等の行為を指すのだが、近年SNSなどでもデマ発言の数々で増えた犯罪である。
近年といっても、もう10年ぐらいにはなるのだろうか? 根拠のないデマをネットなどで扇動し、ヘイトスピーチを繰り返しながらコリアンタウンをデモで練り歩き、ネット上で誹謗中傷を繰り返す集団が増えてきていた。
こうした人間たちが、第二次安倍政権時代にはさらに加速していき、このような事件に至ったと言っても過言ではないだろう。
根底には根拠の乏しいデマによる差別や、自らの優位を主張するような幼稚なものが多いのだが、放っておいた結果として(ヘイトスピーチ解消法が平成28年6月3日に施行)在日本外国人への恐怖を植え付け、生活を脅かすものにまでなっている。
そうした中での、このウトロ地区のヘイトクライムは、現代のネット社会が抱える深い闇であり、今後ヘイトクライムを起こさないためにも、ネットを活用する人間たちみんなが考えなくてはならない問題であると感じる。
このウトロ地区放火事件によるYahoo!記事へのコメント欄でも、多くの誹謗中傷が見られるように、朝鮮半島の方々へのヘイト発言や誹謗中傷は、はっきり言って異常である。
デマ情報がネットで拡散され、それを信じた人間が軽い気持ちでSNSやコメント欄に投稿することで、それを目にした何も知らない人間が、デマ情報だけをまとめたようなサイトや動画を見て、どんどん洗脳されていくのが主流だと思われる。
そうした人間たちの心の闇が表れるネットの弊害は、人間の生命を奪うことさえある重大な犯罪に繋がるものだと、どれだけの人間が認識しているのだろうか。
テレビのやらせ恋愛番組に出演していたプロレスラーの木村花さんが、自ら生命を断ってしまった事件も、こうしたネット上の誹謗中傷からであり、テレビのやらせを鵜呑みにした結果、この痛ましい事件が起きてしまった。テレビによる責任は大きいが、それを鵜呑みにしてしまう人間や、軽はずみな誹謗中傷によって、どれだけ人が傷つくかを理解できないネット民たちの行動は、深い闇に満ちていると感じざるを得ない事件である。
誹謗中傷やヘイトをネットに書き込む人間たちは、軽いストレス発散ぐらいの気持ちで書き込む人間も多くいるだろう。
その軽い気持ちの「たかが個人的なストレス発散」が、人間の生命を奪う事態になっている重大性を理解してほしい。
その書き込みをしなければ、あなたは死んでしまうのだろうか? もし死ぬほど苦しいのであれば、ネットで他者に苦しみを与える以外の解決方法があるのではないか? と考えてほしい。
それほど現在のネットの発言は、一般人にとっても重大な問題になっていると思える。
友人がいる人ならわかると思うが、友人同士の楽しい場で、誹謗中傷や悪口だけを言う人間がいたら、あなたはどう思うだろうか?
その人物は確かにストレスを発散できるのかもしれないが、楽しい場で誹謗中傷だけを繰り返し発言する人間がいれば、相手にされなくなるのは当たり前だろう。
誹謗中傷や他者の悪口などで共感を得て、承認欲求を満たし共有する集団。それが本当の仲間と言えるのだろうか?
友人たちの間では言えないことを、ネットには書き込めるという部分もあるだろう。しかしその発言は全世界に発信され、全く知らない、会ったこともなく顔や声も知らない人間も見ている。心に病を患っている人などであれば、あなたの軽いただのストレス発散の発言を、自分のことと捉えてしまう人間もいるだろう。
もしネットの誹謗中傷やヘイト発言の繫がりでしか友人がいないのであれば、なぜそこだけで自分が承認されるのかを考えてみてほしい。
他者と本当に共有したい気持ちは、他者を陥れ、憎しみに満ちた辛さや怒りなのか? それとも、くだらないことで笑ったり、どうでもいいようなことでバカ騒ぎして嫌なことを忘れてしまうような楽しい時間を過ごすことなのだろうか? どちらがあなたにとって有意義で、あなたのストレス発散になるだろう?
インターネットはお手軽にストレスを発散でき、お手軽に承認欲求を満たしてくれる。会ったこともない、話したこともない人間が共感してくれるのかもしれない。そんな承認よりも、実際に一緒に過ごしてきた時間がある仲間の一言のほうが、どれだけ承認欲求が満たされるかを知ってほしい。実際の友人であれば、反対意見や怒ってくれる人間もいるだろう。そうやって人間関係ができていく世界には、必ず自分の居場所が存在する。
そんなこと言っても友達なんかいないという人へ。俺だって友達と呼べる人間なんか全くいなかった。でも今じゃ、信頼できる仲間が周りにたくさんいる。
どうしてきたかって? ただじたばたしながら「ちくしょう!」って言いながら、自分のルールに従ってきただけだ。
そんなことはできないと言うかもしれない。でも必死にじたばたしてると、必ず理解してくれる人間がいて、そんな人間は寄り添ってくれたり、本当に困ったときに助けてくれたりする。自分がされて嬉しかったことや助けられたことは、相手に返すか他の人間に返していくだろう? そんな関係がある人間たちを、俺は友達と呼んでいるだけだと思う。
今ならそういう繋がりが、ネット上でできたりするのかもしれない。ネットのいいところはそういう部分であって、決して誹謗中傷や悪口、ヘイトで繋がって承認欲求を満たすものじゃないと思うのだが、俺が間違っているのだろうか。
もし俺が言っていることが楽しく感じられるなら、あなたにも絶対できる。俺みたいな人間でもできるようなことが、あなたにできないはずがない。誰にでもできるから安心してくれ。
良いことでも悪いことでもいい。繋がり合いの大切さを、今一度考えてみてほしい。良い繋がりで世界が回れば、今より良くなると思わないか?
俺は今年も、じたばたしながら「ちくしょう!」って叫びながら、信じ合う仲間と、繫がり合って生きていきたい。
「THE INNER SIDE(内側)」EVANCE
壊されて終わるか
見えもしない敵に
負けない自分を作りてぇー
首しめてるのはこの手か畜生
間違いを認め
泣いてる誰かがいて
昨日に戻れなくて
じたばたしてんだ畜生
STAND UP MY SELF
TRAIN YOUR MIND
(立ち上がれ 自分の心を鍛えるんだ)
EVANCEは、函館出身のIZUMI(ds)とKOKI(g)、千葉出身のOKUYAMA(ba)、出雲出身のOSAKA(vo)から成るパンクバンド。「The Inner Side」は1997年発表の7インチ『If Tomorrow...』に収録。2000年周辺の東京ハードコアシーンを盛り上げていたが、2000年に入ってすぐに解散した。
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。