異次元の常識 text by ISHIYA（FORWARD / DEATH SIDE）
障がい者も俺たちもあなたたちも、同じ人間なんだ
2020年9月28日に、世田谷区の「世田谷区障害者（児）福祉団体等バス派遣事業」という助成金制度の打ち切りに反対するサウンドデモに、俺のやっているバンドFORWARDで出演し、演奏してきた。
世田谷区の障がいを持った方々の旅行で、観光バスを利用するときに出ていた助成金を、休止の方向で検討しているという。
コロナ感染者拡大により世田谷区の財政状況が圧迫され、2020年の今年の旅行を控えるのは理解できる。しかし翌年も視野に入れ、将来的に打ち切りの方向というのはどうにも理解できない。
確かにコロナ対策は重要であるし、財政は圧迫され苦しいのだろう。しかしデモ当日、驚くべき情報を知ることとなった。
それまでも、世田谷区は老朽化を理由とした区庁舎の建て替えを進めていたが、その区庁舎の建て替え予算がかなり莫大で、500億円という話も聞いた。
コロナで区の財政が圧迫されているのに、まだ使える区庁舎の建て替えに莫大な予算をかけ、年に一度の楽しみである障がい者の人たちのバス旅行助成金を打ち切る。
見直すのは福祉なのか？ 百万歩譲って区庁舎を建て替えるとしても、コロナで税収が大幅に減る見込みの中、一般人には到底理解できないような巨額な区庁舎建て直しの予算見直しをまずやるべきではないのか？ と思う俺はおかしいのだろうか。
おまけに新しい区庁舎の完成予想では、バリアフリーにもなっておらず、「新しく建て直すのに、バリアフリーではない区庁舎」という事実が全く理解できないのも、俺がおかしいのだろうか。
障がい者の旅行に使う観光バスの助成金ということだが、友達同士で旅行に行くことを考えてみてほしい。バスを使わなくても新幹線や電車もあるだろう。しかし、障がい者の方々の多くは車椅子を使う。車椅子の人たちが、大勢集まって電車に乗ることが簡単だと思えるか？
車椅子だろうが障がいを抱えていようが、みんなでワイワイやりながら旅行するのは、俺たちやあなたたちと同じように楽しいんだ。
ただでさえ障がい者の人たちは、俺たちやあなたたちと同じように社会経験をしようとするだけでもいろいろな制約を受け、行動が制限されることもかなり多い中、友達同士で旅行に行くことも許されないのか？
愛知県豊田市で行なわれる『橋の下世界音楽祭』というフェスというか祭りを主催している、TURTLE ISLANDというバンドがいる。
『橋の下世界音楽祭』はすべてが手作りの祭りで、今の日本でこれほど平等な社会を経験できるところはないだろう。そのTURTLE ISLANDの代表的な曲に「ククラレ」という曲がある。
想像してみてくれ。今健康だったとしても、いつ病気や事故で自分が障がいを抱えてしまうか分からない。障がい者も俺たちもあなたたちも、同じ人間なんだ。一方的に括（くく）ろうとしないでくれ。
「ククラレ」TURTLE ISLAND
傲慢な力では ひずみが出るのも無理はない
タイミングはそれぞれで 足並みを揃える事はない
あなたの心は あなたのものだから
私の心は私のものだから
どうしてそんなに押し付けるの？
どうしてそんなに決めつけるの？
そのレースは本当に好きで走ってるの？
その勝負はいったい どれだけ重要なのか？
自分で考えて自分で進んでいく
あなたの心は あなたのものだから
私の心は私のものだから
いつでも傲慢な奴らが なんでも強引にくくろうとする
都合にあわせてくくろうとする
勝手な解釈でくくろうとする
それは宗教や政治、友達同士でも
国家レベルから個人レベルまで同じ事さ
傲慢な力には従えない
1945年8月6日と9日 広島 長崎に原爆が落とされた
あたりは一面焼け野原 ひずんだしわよせはいつでも弱者に…
それは教科書なんかにのってる物語なんかじゃない
でも目の前に起こる現実でもない
俺たちが只歌うのは
傲慢さのひずみなんて喰いたくねぇって事さ
そして2007年 21世紀
今だに世界はくくりあいが続く
世界のあちこちで大量の血が流れ
神々までも争いにかり出され
さぁ戦う者はどこ？
さぁ戦う相手は誰？
さぁ戦う相手は何？
さぁ守るべき者は？
くくられない
くくりきれない
日本のお囃子やチンドンなど、日本やアジア、モンゴロイドのグルーヴと、パンクやロック、レゲエサウンドから民謡、各国の土着音楽まで勝手雑多に飲み込んだ極東八百万サウンドを奏でるTURTLE ISLANDは、1999年に愛知県豊田市で結成。「ククラレ」は2007年発表の3rdアルバム『SELF NAVIGATION』に収録。
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。
