異次元の常識 text by ISHIYA(FORWARD / DEATH SIDE)
選挙は世の中を変える方法のひとつだが、選挙だけが方法じゃない
2020年7月5日に、東京都知事選挙の開票が行なわれた。
今回の都知事選挙では、新しい東京へ生まれ変わるために宇都宮けんじ氏と山本太郎氏への期待が高かったのだが、結果は現職の小池百合子の圧勝という形で幕を閉じた。
公約をひとつも果たさず、コロナ禍で世界中の感染者が増え続けているにもかかわらず、オリンピック開催を強行する都知事の再選を支持し、「生命よりも金のほうが大事」という答えを東京都民の意思として日本全国に示し、朝鮮人を殺せと叫んでコリアンタウンを徘徊するレイシスト候補に、18万票の投票があるという、悲惨な選挙結果であった。
毎回、日本国内の選挙では世間と自分との隔たりに愕然とさせられるのだが、今回ほどの隔たりを見ると一般常識の異様さというものを今まで以上に痛感せざるを得ず、俺自身がPUNKSであることが当たり前だと再確認した選挙でもあった。
PUNKSは基本的には無政府主義者なので、俺はPUNKSとしては矛盾しているが選挙には毎回必ず行くようにしている。
個人的には選挙や政治というものに期待はしていないが、将来への希望はあり、希望を実現させるための手段のひとつとして、投票行為は続けていくつもりだ。
しかし今回のような結果を見ると、選挙結果への過剰な期待が裏切られたことにより反動となってしまい、「どうせ選挙なんか行っても変わらない」と思ってしまったり、自分が必死で応援して投票した人間が落選したことで、他者を叩いたり陰謀論に走ったりしてしまう人間がいることも理解できる。
しかし、変えたいと願い真っ正面から闘っている宇都宮けんじ氏や山本太郎氏がいることが希望であり、その希望が叶わなかったからといって、落ち込んだり他の何かを貶めても何も変わりはしない。選挙結果に過度な期待を持ちすぎるな。
戦後75年間、自民党のほぼ一党独裁で作り上げてきた日本の「常識」や「世間」は非常に手強いものであるし、そう簡単に変わるとは思えない。しかし俺は諦めない。選挙も諦めない行為の中のひとつの方法である。
1965年に結成されたニューヨークのバンドに、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドというバンドがある。そのギター&ボーカルでリーダーだったルー・リードがソロになり、2作目に発売したアルバム『トランスフォーマー』に収録されている「ワイルドサイドを歩け」という曲がある。
当時のニューヨークにおいて、あまりにも異端とされた芸術家や性的倒錯者、麻薬中毒者などをモデルとしたワイルドな日常を唄っており、当時の世間の常識との隔たりの究極的な世界であったと思われる。
そんな異端者の代表的とも言えるルー・リードだったが、世間に認められCMソングなどにまで使われているほどだ。
常識なんてそんなものである一面も持っている。少しだけでいいから、常識から外れたワイルドサイドを歩いてみないか? ネットやマスコミ報道にはないものが、自分自身で感じられるはずだ。
そんな人間が多くなれば、自民党が作り上げてきた常識なんてものは変わっていき、投票をしない人、投票をしたくてもできない人、投票というもの自体が理解できない障がいを持つ人などに、今よりはマシな世界が訪れるのではないだろうか。選挙は世の中を変える方法のひとつではあるが、選挙だけが方法じゃない。
ルー・リードの2ndアルバム『トランスフォーマー』(Transformer)はデヴィッド・ボウイとミック・ロンソンの共同プロデュース作で、1972年11月発表。本作からのシングル「ワイルドサイドを歩け」(Walk on the Wild Side)は、リードのシングルとしては初めて米英のシングル・チャート入りを果たした代表曲。
【ISHIYA プロフィール】ジャパニーズ・ハードコアパンク・バンド、DEATH SIDE / FORWARDのボーカリスト。35年以上のバンド活動歴と、10代から社会をドロップアウトした視点での執筆を行なうフリーライター。