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トップコラム石丸元章「半径168センチの大問題」第5回「脳卒中発→高次脳機能障害はもう大変! 脳卒中からの生還③ 」

回「脳卒中発→高次脳機能障害はもう大変! 脳卒中からの生還③ 」

第5回「脳卒中発→高次脳機能障害はもう大変! 脳卒中からの生還③ 」

2018.12.07

 
病院内でパチリ。.jpg
病院内でパチリ。
 
 脳の動脈がブチ切れて出血することを“脳出血”といって、それで入院してるんだけど、というのが今ーー 前回までのお話し。調べてみると、ゾッとするほどおっかない。
 日本人の死因第3位。 
 寝たきりの原因第1位。 
 読者の大半は、「自分には関係ない」と思ってるだろうけど、有名なところではglobeのKEIKOとか。普通は老人がなるんだけど、そうじゃないこともある。逆に言えば、誰がなってもおかしくない。ま、心配ばかりしててもしょうがないんだけどね。
 後遺症としては、手足がうまく動かなくなるとか、感覚の異常とか痺れとか身体に残るものがいろいろあります。
 でもそれは見てわかりやすい側面。興味深いのが、体の表面には出てこない、他人には、あるいは本人にもわからない“高次脳機能障害”てヤツで、じつはそれが、この脳卒中が残す障害のあるいは本質だと思う。診断も難しい。
 高次脳機能障害(リハビリ医療の業界では、略して“高次脳”と呼ぶ)は、自分もまた当事者として言うと、脳の働きの不思議を病気の形にして、ヒトへ突き付けてくるんですよね。
 例えば―― 歩いても普通。映画を見に行って喋っても、歌っても、食べてる姿を見ても、最後に会った時と変わらない。これまでとまったく一緒。なのに… 気づかれない形で、どっか一部だけ、その人の脳の機能が欠損している。
 何度も同じことを聞き返してくる、とか。数字だけが覚えられないとか。字が歪んでる。地下鉄の路線図を見上げたらを頭が固まってしまった。感情の抑えがきかなくなったり。「め」と「ぬ」の区別がつかないとか。時間だけわからないとか。話しが、記憶を繋ぎ合わせた現実には存在しない内容だったり。
 あるいは空間の認識が歪んでしまって、多面体の展開図がわかんなくなって、立方体の展開図を描いたら7面あったよ! とか…わたくしだけど。7面の立方体ってなんだよな、サイコロの目は6までだよ。でも、なぜか7面になっちゃうんですよ。とか…実際に紙を切って組み立てるために「のりしろ」部分を描く――とかもうチンプンカンプンで。いろんなことが人それぞれなんですよ。

 
女優の高樹沙耶さんと宮台慎一先生とネット対談も病院内から。.jpg
女優の高樹沙耶さんと宮台慎一先生とネット対談も病院内から。
 
 自分、この“高次脳”のうんと軽いのを自分で経験してみて、ほんと謎。「どうしてなのかな…」と、半信半疑の驚愕という時もあるけど、本に載っている典型的な症例に当てはまってたりすると、涙目でもう笑っちゃう。やっぱり“高次脳”なんだ、と。
 難しいのは、自分では「即時記憶」という、今この瞬間を記憶する機能が壊れたかーーと思ってたら、いろんな検査結果、記憶には問題がないというの。でも、図形と色と位置を記憶して、目を離した次の瞬間には「あれ、なんだっけ?」と、急に記憶が頭の中で溶けて、瞬間が消失してしまったようにあやふやになってしまう。でもそれは、たぶん覚えてしまったものを忘れてしまうのではなくて、情報量が脳の容量をオーバーしてインプットしきれていないのではないか、と。なんだそれは。
 「わかる、俺も〜」と言ってくれる友人もいるんだけど… ありがとう。でも、それお前が馬鹿なだけだから〜。こっちは“高次脳”だから、気を使って一緒にしなくていいよ。
 一方で、目の前にある文字だとか、色だとか、音だとかストーリーは、同じ条件で以前の通り覚えている。なんだこれは。
 「だから、それが高次脳機能障害なんですよ」と、自分を担当してるOT(作業療法士)は笑うけど、なんで笑うかというと、笑うしかないじゃない。深刻な顔だけしてたってどうにもならないし、対応を考えればいいんだから。それに…何度も言うようだけど、大きな声で言うのはあれだけど、ちょっとドラッグに似てるんですよ。脳の、異様で奇妙な働き方が。
 ヒトの脳のある部分が物理的に壊れることで、ヒトの脳の機能の一部が失われる――つまりこれが高次脳機能障害で(どの部分が壊れると、どの機能の欠損に結び付くかは、かなり解明されている)ある人からどんな脳機能が失われたのかを、生活の中で見抜くのは、すごく難しいわけ。
 高度な脳の働きって、人それぞれでしょう。社会活動に求められる脳のスペックとか容量とか、能力だって、仕事や年齢や役職によって、それぞれ異なっているわけですし。
 
原一男監督とフェッティーズとの撮影も、外出許可をもらった日に敢行。こりゃ病院に見せられない。.jpg
原一男監督とフェッティーズとの撮影も、外出許可をもらった日に敢行。こりゃ病院に見せられない。
 
 そういった個人のきわめてプライベートな部分に関わる脳活動の欠損部分をみきわめて、生きる上で必要なリハビリをほどこして生活を調整する。そのための医学的な対応をするというのが“リハビリ医療”で、この1か月、わたくし専門の病院へ入院して、この原稿も病院で―― 入院中の現在を書いている。そしてもうすぐ退院です。
 脳出血になってから2か月と少し。『RoofTop』 には、計3回の自分の現在進行形を病院の中で書いたけど、脳卒中発→高次脳という流れになった。ほんとのこと言ってもう少し病院にいたい。ここはメシだって悪くないし、活気があるし、みんな若いし、スタッフのガールズはかわいい。仕事もできるし、毎日楽しいんですよ。でも、もうくすぐシャバ。12月末は、いろいろロフトのイベントにでます。よろしくね。
 
『サイゾー』12月号 病院から抜け出して撮影にも行きました。一番左が著者。.jpg
『サイゾー』12月号 病院から抜け出して撮影にも行きました。一番左が著者。
 
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