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編集無頼帖

ブッチャーズのドキュメンタリー映画『kocorono』は僕らに問いかける

2010.12.25

先日、ブラッドサースティ・ブッチャーズのドキュメンタリー映画『kocorono』を試写で見て、エンドロールが流れる頃に静かな昂揚感が全身に漲るのを強く感じた。単に僕がブッチャーズのいちファンだからという理由ばかりではなく、なぜバンドをやり続けるのか、なぜそこまでして表現に立ち向かうのかという普遍的な命題がこの映画に通底しているからなのだと思う。幾度となく蹴倒されても砂をkocorono_movie.jpg掴んで立ち上がり、喰えないバンドをそれでも敢えて続けていく意義とは何なのか、満身創痍で音と格闘しても一向に儲からない音楽ビジネスとは何なのか、20年以上同じバンドとして育んできた絆とは何なのかを、ブッチャーズという一介のバンドを通じて見る者に突き詰める。と同時に、「唯一無二」とか「類い希なる」という形容では到底済まされないブッチャーズの特性を浮き彫りにしている。音楽ライターの中込智子、ReguReguの小磯卓也、ビヨンズの谷口健、グイキッツのセイキ、ディスチャーミング・マンの蛯名啓太、ex.ビート・クルセイダースのヒダカトオルといった関係者による証言がその特性を補完していて、貴重なアーカイブ映像を織り交ぜつつ23年間に及ぶブッチャーズの足取りをテンポ良く見せることにも成功している。とりわけ、東京から舞い戻ってきた吉村秀樹がブッチャーズとして行なった初ライブや小松正宏加入直後のベッシーホールでのライブ、オリンピアで行なわれた“YO YO A GO GO Fes”の模様などは個人的にとても鮮烈に映った。田渕ひさ子がゲストとしてツアーに参加したシェルターの映像(正式加入前)も懐かしい。また、カメラは留萌に里帰りする射守矢雄に同行し、ブッチャーズが生まれた土壌に触れているのも興味深かった。そこで語られる射守矢のバンドに対する思いには彼の純朴な人柄がにじみ出ており、ブッチャーズを語る上でのキーマンはやはり彼であることを改めて感じた。120分弱の尺にこれだけふんだんな要素を過不足なく盛り込んだ川口潤監督の手腕は実に見事で、手放しで拍手を送りたい。
カメラは余りにも赤裸々にバンド内の不協和音をえぐり出す。映画はいきなりメンバー間の容赦ない言い争いから幕を開ける。冒頭は音声だけだが、吉村と小松が真っ向から意見を対立させるシーンも後から出てくるし、吉村がフレーズを考えてこない3人に対してブチ切れるシーンもある。公開前なので詳細を書くのは避けるが、労力とまるで見合わない報酬額に激しく憤る姿もあれば、所属事務所の社長からの説明に憮然とする姿もある。だが、目を覆いたくなるばかりの残酷な現実を散々突き付けられてもなお、彼らはブラッドサースティ・ブッチャーズであろうとするのだ。このままではとてもじゃないけど喰えない。熱烈な称賛はあっても金はない。でも、やるんだよ、と言わんばかりに。「何度でも喰らってやる/よけ方を知らないから」という『12月』の歌詞のままに果敢に立ち向かっていく。ブッチャーズほど国内外のバンドや耳の肥えたリスナーからリスペクトを受けているバンドはいないはずだが、吉村には自分たちの音楽がまだまだ世に浸透していないという忸怩たる思いが常にある。その思いが吉村の頻出単語である“クソッタレ!”に繋がり、それが馬車馬のようにバンドを稼動させる発奮材料となっている。どれだけ真正面から暴風雨を浴びてもあくまでバンドの一員として宿命を背負い、徒手空拳のまま突き進む。そうやって4人がブッチャーズに懸けるひたむきな姿がこの上なく美しいのだ。そして、その姿を見ているうちに「お前はどうなんだ? そこまで打ち込める何かがあるのか?」と発破を掛けられているような気持ちになってくる。七転八倒しながらしゃにむに生きることを全うしようとする姿に思わず奮い立たされるし、退路を断ち、腹を決めた人間にしか体現できない無垢な輝きが轟音として結実する様はまさにブッチャーズの真骨頂。とにかくとてつもないエネルギーを貰える映画であることは確かだと思う。
「伝説になっちゃいけないんだ、だから死んじゃダメなんだ、それはつまり生きていかなくちゃいけないってことなんだ」と吉村が映画の終盤で語っていた通り、これからもブッチャーズはおぼつかない足取りのまま疾走をやめないだろうし、ジタバタもがきながら歪でいて美しいアンサンブルを奏で続けることだろう。この映画は同時代に彼らの疾走に併走できる歓びを改めて感じさせてくれる一作だが、ブッチャーズに強い関心のない人でも感じ入る部分はあると思う。世のバンドマンは問答無用に必見だし、音楽に限らず何らかの表現に携わる人には是非見て頂きたい。やむにやまれず表現と対峙せざるを得ない覚悟、それを維持する強靱な意志を必ず感じ取れるはずだから。

*映画『kocorono』は2011年2月5日(土)よりシアターN渋谷ほか全国順次ロードショー(缶バッヂ付き特別鑑賞券=1,500円、絶賛発売中)。予告編はコチラ

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PROFILEプロフィール

椎名宗之(しいな むねゆき):音楽系出版社勤務を経て2002年1月に有限会社ルーフトップへ入社、『Rooftop』編集部に配属。現在は同誌編集局長/LOFT BOOKS編集。本業以外にトークライブの司会や売文稼業もこなす、前田吟似の水瓶座・AB型。

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