人間椅子が5月26日、東京・Zepp DiverCityにて、還暦記念ツアー『猟奇新生』の最終日を迎えた。
5月6日の札幌を皮切りに全8公演開催の本ツアーは、ソールドアウト連発の大盛況。和嶋慎治(G&Vo)、鈴木研一(B&Vo)、ナカジマノブ(Dr&Vo)の3名がそろって60歳になる2026年ならではの祝祭だ。
なお、和嶋は昨年12月、鈴木は今年3月、ナカジマは今年9月に還暦となる。
期待に胸を膨らませた観客がフロアと2階席を埋め尽くすと、定刻の午後7時ぴったりに場内が暗転した。ミステリアスなSE「此岸御詠歌」が流れ、あたりは独特の緊張感に包まれる。割れんばかりの拍手と歓声のなか、和嶋、鈴木、ナカジマの3名がそれぞれの配置につき、ショウの準備は万端だ。
彼らが今宵の幕開けに選んだのは「まほろば」。現時点での最新アルバムの表題曲がオーディエンスに幸福な一体感をもたらしている。そのタイトルの意味する通り、ここは紛れもなく「素晴らしい場所」だ。3人の演奏と歌唱は本日も息ぴったり。
続く「死神の饗宴」の重低音が体に襲いかかるたびに、人間椅子のライブを観に来たのだという実感が湧いてくる。
和嶋いわく、「猟奇新生」というツアー・タイトルには、「初心にかえりつつ、猟奇の道へ新たに一歩踏み出そう」という意味が込められているのだという。ギラギラ燃えるような「太陽がいっぱい」、ヘヴィネスが疾走する「もっと光を!」など、序盤から見どころ豊富である。
和嶋がギターの三味線奏法を解説付きで実演した直後、日本の伝統文化である落語を色濃く反映した「品川心中」を披露するなど、サービス精神も旺盛。彼らがデビュー前のライブで頻繁に演奏していたという「マンドラゴラの花」の妖しさと重さも抜群の快楽だった。活動初期の情景を思い出し、懐かしさに浸る鈴木の表情が印象的だ。
和嶋、鈴木、ナカジマの3名の和やかなトークと絶品の演奏を楽しんでいるうちに、時間はどんどん経過していく。還暦記念だからといって、奇をてらうようなことはせず、あくまで普段通りの人間椅子だ。そこがなんとも頼もしく、ファンとしては、「この人たちを信じてきてよかった!」という気持ちになってくる。
本編中盤、「踊る一寸法師」から「相剋の家」へと至る猟奇的な流れなど、今夜のハイライトのひとつと言ってよいだろう。
ナカジマがドラムを叩きながらメイン・ボーカルをとるお馴染みのコーナーでは、「蜘蛛の糸」が披露された。このパワフルな楽曲を皮切りに、ショウは一気に終盤へと突入する。
ど派手な「宇宙電撃隊」で景気の良い「ファンファンファファン」のシンガロングが場内に発生し、本編ラストはお約束の「針の山」が炸裂した。感情が絶頂に達する一方で、ライブがいつまでも終わってほしくないと願う瞬間でもある。
その数分後、熱烈な声援に応えて、赤いちゃんちゃんこ姿にお色直しした3人が再登場。三者三様の着こなしにフロアが沸いている。オーディエンスと共に還暦を祝うために、和嶋がここぞとばかり手にしたのは、Gibsonの真っ赤なES-335だ。
赤づくしの祝賀ムードのなか、「りんごの泪」が久々に披露されると、観客は狂喜乱舞である。この宴の最後を飾ったのは、人間椅子の代表曲の地位を固めた「無情のスキャット」だ。「シャバダバディア」の大合唱が響くさまは壮観。この曲が万感の余韻を生む頃、時計は午後9時20分を指していた。
暗くヘヴィな楽曲が多く並ぶにもかかわらず、華々しく、元気が出るライブだった。必殺曲やレア曲を巧みに配置したセットリストも非常にファン想いで、「新旧織り交ぜた」という常套句では足りないぐらいの満足度だ。
観客はもちろんショウをおおいに楽しんでいるが、演奏しているご本人たちが一番楽しいのではないだろうか。好きなことを貫いている人たちは、いつまでも若々しく輝くのだ。今年、そろって還暦を迎えることになる人間椅子の3人は、キャリアのこの段階にきて、ますます青春を謳歌していると確信した。
アンコールで告知があったように、今年の秋には、この痛快な還暦記念ツアーの第2弾が開催されるそうだ。今回披露されなかった曲を含む、彼らならではの「ベスト・オヴ・ベスト」の選曲で臨むそうだが、あれこれ想像を巡らせるのも楽しい。人間椅子のライブを観た後の帰り道では、自然と笑顔になっている自分がいる。彼らの音楽と共に歩む人生は素晴らしい。また元気で再会したいと強く願う。
Text:志村つくね|Photo:西槇太一














