ラジオパーソナリティの中村貴子(以下、貴ちゃん)が主催するイベント『貴ちゃんナイト vol.17 ~When I'm Sixty-Five~』が、1月10日(土)に東京・新代田FEVERにて行なわれた。サブタイトルにある通り、今回は貴ちゃんが今年で65歳を迎えることを記念しての開催なのだが、恒例の前説で本人がそのことに触れた時に上がった驚きの声や、イベントの成り立ちの説明(初回はリスナー有志によるDJイベントのため、ライブイベントとしては16回目であることなど)に対する新鮮なリアクションを見る限り、今回は常連で参加しているリスナー以外の観客もかなりの割合いたと推察される。それもあってか、チケットは早々に完売。弾き語り形式のライブでは珍しいくらい、場内はパンパンに埋まった。
16回目を数える本イベントは、これまで貴ちゃん自身が観たいアーティスト&観たい組み合わせというコンセプトに基づいたオファーにこだわって開催されてきた。その歴史の中で今回は初めて、全アーティストが過去に出演経験のある再登場組。ということはつまり、貴ちゃんおよびそのリスナーにとって特に馴染みが深いうえ、アーティストもイベントの特色をよく把握した上で臨んでくるということであり、顔ぶれを見た時点からとにかく安心感が半端ではなかった。そういう組み合わせとなった背景には、今回のブッキングのキーマンとしてまずホリエアツシ(ストレイテナー)にオファーをしたことにある。そうしてホリエから共演してみたいアーティストとして名前の挙がったのが、中田裕二と高野寛。結果、ほぼ同世代としてバンドシーンを走りながらも、これまで共演経験はあまり多くないホリエと中田に、ふたりが少年期からその楽曲に触れていたという数世代上の高野という、『貴ちゃんナイト』以外ではなかなか実現しないであろう3マン開催に至ったのである。
一番手は中田。見間違えたのかジョークだったのかは定かではないが、何故かフロアから飛んだ「ホリエさーん!」の呼び声に中田が思わず吹き出し、「こんなにやりづらい始まり……(笑)」なんてボヤきながらも冒頭から場の空気が一気に和む。ただ、ひとたび演奏が始まれば空気は一変。威勢よくコードを鳴らすのではなく爪弾くようにラテン系のノリを加えたギタープレイとともに「GARIGARI」を歌い出すと、艶やかでありながらパンチの効いた歌声が場内を満たす。モダンな要素とブルージーな渋みが一体となったグルーヴは唯一無二だ。アコギに持ち替え、「明けましておめでとうございます、ストレイテナーのホリエアツシです」と気の利いた挨拶を挟んで「ビターネス」へ。弾むカッティングからは、場の空気と鳴る音を楽しみながらのプレイであることがよく伝わってきて、自然とこちらのテンションも上がっていく。
年末に『忠臣蔵』のドラマにハマっていたというエピソードから披露したのは、小学生の頃に観た『忠臣蔵』でEDテーマとして流れていた思い出があるという安全地帯「あの頃へ」のカバー。甘くゆったりとしたバラードのノスタルジックな調べを、ブレスやウィスパーを交えながら色っぽく歌い上げると、続いては中田がかつて所属し、近年は期間限定での活動再開も果たしたバンド・椿屋四重奏のセルフカバー「恋わずらい」をドロップ。ボディをタップすることでパーカッシヴなサウンドを生み出したり、ウォーキングベース的なプレイをしながら歌ったりと、プレイヤーとしての卓越した技量も存分に堪能させてくれた。近年の楽曲が並んだ前半とは対照的に、ラストは「STONEFLOWER」「誘惑」と歴戦のキラーチューンを連投。涼しい顔して入れてくるキメやフィルの精度やロングトーンのフェイクなど見どころ満載のパフォーマンスで、華も実もあるライブを締め括った。
二番手はホリエ。登場するなり「本物の、ホリエアツシです」としっかり伏線を回収して笑いをかっさらう。絵に描いたような寝正月を過ごしていたので、こんなにたくさんの人の前で人見知り状態である──なんて前置きながら、「シーグラス」の一声目から柔らかくも凛然とした歌声で射抜いてくるのだから堪らない。もっとカッコつけようかとも思っていたものの、リハで他2組を観たところ「無理無理!」となってしまい、いちばん有名な曲をいきなりやることにしたのだという、別に言わなくてもいい裏事情まで話してくれるホリエの緩めなテンションもまた、このイベントによく似合っている。本人曰く、中田と高野と並ぶことで自分が「雰囲気と勢いで弾き語りやってることがバレる」とのことだったが、醸し出す親しみやすさや選曲の妙、臨機応変な展開力などホリエの弾き語りでしか味わえない栄養は数知れず。貴ちゃんが今回最初に声をかけたのも、そこへの揺るぎない信頼ゆえであることは想像に難くない。
弾き語りでは初めて披露するという「リヒトミューレ」は、歯切れよくストップ&ゴーする演奏によって原曲に比べ清冽な印象が増し、同じく一昨年リリースのアルバム『The Ordinary Road』からピアノ弾き語りで披露した名バラード「雨の明日」では、抜けるようなハイトーンとニュアンス豊かな演奏で場内を感動的に空気で満たす。唐突な玉置浩二の真似(中田の「あの頃へ」カバーを受けたもの)や中田と新宿LOFTで共演した思い出話などを挟んだあとは、粒立ちの良いアコギの音色によってストレイテナー屈指の爆走チューンを爽やかなポップス然とした風合いに生まれ変わらせた「TRAIN」。ラストはこれまた爽快感たっぷりの「No Cut」で締め。ミュートしながらのアルペジオで淡々と推移する前半から次第に視界が開けていき、ドラマティックなCメロからラストサビへの展開は秀逸の一言であった。
トリを務める高野は、PCを操作してシーケンスを鳴らすと同時に「みなさんこんばんは!」と颯爽と呼びかける。中田曰く「永遠のプリンス」という形容が納得しかないスマートさから繰り出したのは「Wanna be」。ポエトリーリーディングにも近い歌とそこに乗った言葉を絶妙に絡ませ、自作の映像を背後に投射しながらの演奏で浸透させていく。時に大胆に同期音を全面に出してみたり、軽やかなカッティングによる生のグルーヴで迫ったりと、一般に弾き語りと聞いてイメージするものとは一線を画した変幻自在なプレイングだ。2曲目にはタイの漫画家・ウィスット・ポンニミットが手書きで描いたという怪獣や女の子の登場するアニメーションとともに「青い鳥飛んだ」を披露。キラキラとしたシンセポップ調のサウンドに乗るエッジーな風刺と示唆に富んだリリックは、Twitterがある日Xになった出来事から生まれたのだそうで、そのフィロソフィックな視座とアートとしての完成度は圧巻だった。「STAY, STAY, STAY」のオリエンタルとモダンが交錯する音色しかり、大ベテランの域に達しながら鈍ることのない鋭敏なセンスにはあらためて驚かされる。
2024年にリリースしたデビュー35周年記念アルバム『Modern Vintage Future』からの楽曲を多めに含んだ前半戦を終え、ムードたっぷりに低音ベルベットボイスを響かせつつも途中でビートが激しくジャングル超に変貌する「KAORI」を契機に、ライブ後半では往年の名曲たちも披露された。イントロの段階で「ワッ」と歓喜の声が上がったのは代表曲の一つ「虹の都へ」。力強く瑞々しい、そしてメロディアスな音はとてもじゃないが1990年リリースとは思えない。色褪せない名曲の風格に、フロアは喝采で満たされた。続く「夢の中で会えるでしょう」がじんわりと場内の隅々まで響き渡る様子は、さながらハッピーエンドの映画のエンドロールのよう。後半ではクラップとコーラスを観客たちに委ね、そこへ歌を重ねることでより一層チアフルな空気を作り出した。
アンコールは恒例となっているコラボ演奏の時間だ。何をやるかホリエ&中田に聞いたところ、ふたりとも高野の曲を挙げたそうで、中田からのリクエスト「Winter's Tale ~冬物語~」で冒頭から飛び出した贅沢な3声ハーモニーが、90'sの華やかさと甘酸っぱい思い出を呼び起こす。ホリエがリクエストしたのはプライベートのカラオケでも歌っているという「ベステン ダンク」で、ドイツ語で“ありがとう”を意味する同曲は『貴ちゃんナイト vol.17 ~When I'm Sixty-Five~』のフィナーレにピッタリであった。
ホリエや中田が憧れの高野と共演できたことを喜び、その高野もかつて憧れのトッド・ラングレンと出会い「ベステン ダンク」が生まれたように、音楽は絵巻物のように繋がり続いていく──。MCで高野が語った内容はきっと、この『貴ちゃんナイト』にも当てはまる。今年も先陣切って楽しみまくっていた貴ちゃんの音楽愛がそこにある限り、世代やジャンル不問のアーティスト同士の邂逅が育む素敵な音楽体験もまた、これからも生まれ続けるはずだ。(取材・文:風間大洋|写真:俵 和彦)
ライブイベント『貴ちゃんナイト vol.17 〜When I'm Sixty-Five〜』
【日程】2026年 1月10日(土)
【会場】新代田FEVER
【出演】高野寛 / ホリエアツシ(ストレイテナー)/ 中田裕二
【MC】中村貴子
<中田裕二>
エレキで登場!
M1. GARIGARI(エレキ)
M2. ビターネス(アコギ)
M3. ADABANA
M4. あの頃へ(安全地帯カバー・鍵盤)
M5. 恋わずらい(椿屋四重奏 セルフカバー・鍵盤)
M6. STONEFLOWER(エレキ)
M7. 誘惑(エレキ)
<ホリエアツシ(ストレイテナー)>
アコギで登場!
M1. シーグラス
M2. リヒトミューレ
M3. 雨の明日(鍵盤)
M4. 灯り(鍵盤)
M5. TRAIN
M6. No Cut
<高野寛>
M1. Wanna be
M2. 青い鳥飛んだ(青っぽい歌詞付きイラストの映像)
M3. STAY, STAY, STAY
M4. Isolation
M5. 魔法のメロディ
M6. KAORI
M7. 相変わらずさ
M8. 虹の都へ(映像なし:白幕のみ)
M9. 夢の中で会えるでしょう(映像なし:白幕のみ)
EN1.「Winter's Tale 〜冬物語〜」(オリジナル:高野寛&田島貴男)
<高野寛・ホリエアツシ・中田裕二>
EN2.「ベステン ダンク」(オリジナル:高野寛)
<高野寛・ホリエアツシ・中田裕二>














