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トップレポート坂本龍一の最後の3年半の軌跡を辿ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』、公開に先駆けて内田也哉子が登壇した先行試写会を開催。「一人の人間の自然の姿を見守るような、とても親密な映画」

坂本龍一の最後の3年半の軌跡を辿ったドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』、公開に先駆けて内田也哉子が登壇した先行試写会を開催。「一人の人間の自然の姿を見守るような、とても親密な映画」

2025.11.11

世界的音楽家・坂本龍一。ガンに罹患して亡くなるまでの3年半に渡る闘病生活と創作活動を自身が綴った「日記」を軸に紡いだドキュメンタリー映画、『Ryuichi Sakamoto: Diaries』が11月28日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国の劇場で公開される。
 

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© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners
 
今回、その公開に先駆けて、トーク付きの先行試写会が渋谷・ユーロライブにて行なわれ、文筆家で無言館共同館主の内田也哉子と、本作のプロデューサーである佐渡岳利が登壇した。

「一人の人間の自然の姿を見守るような、とても親密な映画」。30年前に見た、“大人にも子どもにも真摯に向き合う坂本龍一の姿”を思い出す

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本作を鑑賞した感想を内田也哉子は、「偉大な音楽家の生き様というのはもとより、“一人の人間の、生きて、やがて枯れていく自然の姿”を固唾を飲んで見守るような、とても親密な映画でした」と話し、続けて「この機会に出会えて幸せでした」と噛み締めた。
 

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© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners
 
およそ30年前、知人を介してニューヨークで坂本龍一と出会ったという内田。当時の印象を「仏様のように座っていらして。でもバッドボーイのような危うさもあって、すごくかっこいい大人だなという衝撃を受けました」と振り返る。
その後、坂本の自宅へ赴いた際に「明け方、当時6歳くらいのお子さんが起きてきて『すごく怖い夢を見た』と坂本さんに言ったんです。そうすると坂本さんは『どんな夢だったの?』と真剣にお話を聞いていて。幼い子どもに話しかけるのではなく、大人にも子どもにも真摯に向き合う姿を拝見しました。わたしがいつか親になった時、こうやって子どもとフラットに語り合えたらどんなに素敵な家族になれるだろう? と憧れを抱きました」と思い出深いエピソードを語った。
 

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佐渡プロデューサーは坂本との出会いを「NHKの番組で“どてらYMO”というコーナーをやっていて、それを機にご一緒させていただけることが増えました」と話し、「興味を持ったことにストレートな方で、その時にやらなきゃいけないことに一直線という印象。この仕事をする上で意識を変えてくれた大きな存在です」と坂本から受けた影響について言及。
 

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© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners

また、本作の制作経緯について、坂本が亡くなった後に放送された『クローズアップ現代』をきっかけに、その後、本作のベースとなったNHKスペシャル『Last Days 坂本龍一 最期の日々』の制作へと繋がっていった道のりを紹介。映画化については「テレビ番組では“音楽”の要素を描き切ることは難しいだろうということで、映画化するという構想は当初から挙がっていました」と振り返り、映画では「坂本さんが死に直面しながらも“どう音楽を生み出していったのか”ということがよりしっかりと描かれていると思います」と語った。

内田也哉子の母・樹木希林の想いに「生き様から溢れるメッセージは今でも宝物」。死を受け入れ、表現者として届けることを決めた坂本龍一の覚悟

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© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners

内田から佐渡プロデューサーに、「日記というパーソナルなものを手渡された時、どのような想いになられたのですか?」という質問が投げかけられると、「こんなに筆まめだったんだってびっくりしました。書いていることが普段のご本人とブレないというか。食べ物、映画、音楽の話が日記でも出てくるんです。僕らに対しても普段からありのままの姿を見せてくださっていたんだなと思いました」と答え、驚きと発見があったという。
 
内田も映画に登場した坂本の日記の言葉を振り返り、「坂本さんは感覚を鏡のように映し出して、ご自身もそれを見つめて反芻しながら、感覚そのものを面白がっている。生粋の表現者というか、自分自身をも俯瞰して見ながら表現をしていることに嘘がないというか、本当にすごいなと」と自身の置かれた状況に向き合う姿に感銘を受けた様子を窺わせた。
 

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続けて「私の母は幼い頃から知人や親戚が亡くなると真っ先に私を連れていって、亡くなった方の顔を見せていたんです。子どもながらに怖かったのを覚えています。こうして人は死ぬんだよってことを母は伝えようとしていたんです。母自身も病を患って、自分の家で、私たちや孫にも自分が老いて亡くなっていく姿をきちっと見せたいと言葉で言っていました」と母・樹木希林さんとのやりとりや、晩年の様子を語った。
 
「母が亡くなってからようやく気が付きましたが、”死”を見つめるからこそ今持っている”生”が輝き、尊いものだと分かる。一分一秒を無駄にできないんだという話だったのかなと。坂本さんも相当な覚悟をもって、表現者として皆さんに、自分が必死に生きて閉じていく姿を人生のひとつの通過点として受け取ってもらいたかったのではないでしょうか」と、死を受け入れた人たちの覚悟について話す内田。
佐渡プロデューサーも「僕は『Opus』という、NHKのスタジオでピアノのコンサートを収録した時に久しぶりにお会いしました。想像していたよりも元気でいらして、以前と同じようにアグレッシブに演奏していて、以前と同じように収録されていたのでよかったなと、これならもっと長く続いていくのではと思っていたのですが、そのあとガクっと悪くなられて。内田さんが指摘されていたように、今の姿を周囲の人に見せるという意識や覚悟はあったのかもしれません」と、本作にも登場する『Opus』収録時のエピソードを明かした。
 

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© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners

樹木希林を失ったあとに内田がはじめた対話・エッセイ集である『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』。坂本には2021年の1月に電話で対談を申し込んだといい、これが最後の会話になったと話す。イベントではその一部を紹介、さらに「人生の山を駆け上って、だんだん降りていく。できないこと、諦めていかなきゃいけないことがだんだん増えていく。その変化を坂本さんご自身が面白がっている姿も、私たちに色々なものを与えてもらえると思いました」と想いを述べた。
 
続けて「人は亡くなっていく時に、自分の良心を周りにお返ししていくんだなと。特に坂本さんはそういう最後を迎えられていたと思います。母も生前『人は生きてきたように亡くなるんだよ』と言っていて、当時は『?』が浮かんでいましたが今は腑に落ちています。周りのみんなにありがとうを伝えて、ご自身の想いを、東北も、ウクライナも、置き去りにしない。『若い頃から色々な人を気にかけてきたんですか?』と聞いたら、坂本さんは『見てみぬふりができないだけなんだよ』と照れ笑いされていたんです。正直すぎる、稀有な方だったなと思います」と心に残っているやりとりを挙げた。
 

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© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners

最後には、佐渡プロデューサーから「坂本龍一さんという稀有な存在が最後の3年半をどう生きたのかが凝縮されています。坂本さんのような芸術家でなくても、最後の時まで、どのように何を生み出して何をみんなに残せるのか、糧になるような作品だと思います。一人でも多くの方にこの作品が届いてほしいですし、死は誰にでも平等に訪れるものですから、それを考えるきっかけになっていただければ」と語り、内田は「坂本さんはこの世に身体としてはいらっしゃらない。それは悲しいことなんですが、坂本さんが残してくれた音楽や想いは、確実に残されています。私たちがそれをどう生かしていくか、老若男女みなさんが何かを受け取れると思いました。命の祝福の旅物語だと思いますので、何度でも観てください」とそれぞれが締めくくり、イベントは幕を閉じた。

世界的音楽家・坂本龍一。彼は、命の終わりとどう向き合い、何を残そうとしたのか

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© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners

2023年3月に、この世を去った稀代の音楽家・坂本龍一。その最後の日々は、自身の日記に克明に綴られていた──。
ガンに罹患して亡くなるまでの3年半にわたる闘病生活とその中で行われた創作活動。目にしたもの、耳にした音を多様な形式で記録し続けた本人の「日記」を軸に、遺族の全面協力のもと提供された貴重なプライベート映像やポートレートをひとつに束ね、その軌跡を辿ったドキュメンタリー映画が完成した。

未完成の音楽、プライベート映像、本音が綴られた言葉──。「日記」で辿る、最後の3年半

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© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners
 
晩年の日記に綴られた、日々の何気ないつぶやきから、「死刑宣告だ」「どんな運命も受け入れる準備がある」という苦悩や葛藤、「残す音楽、残さない音楽」といった音楽を深く思考する数々の言葉。また、雨の音、雲の流れ、月の満ち欠け──映像には、晩年の坂本が見つめ、魅せられた美しい自然の音や風景が収められ、時間を超えて観る者の心を揺らす。
日記の朗読を務めるのは、生前親交のあったダンサーで俳優としても活躍する田中泯。さらには共にYMOで活動し盟友だった高橋幸宏との知られざる交流や、最後の作品となった未発表曲の制作過程など、ニューヨークの自宅、治療のための東京の仮住まい、病室、そして最後のライブとなったスタジオで過ごした日々が、日記をもとに紡がれる。

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© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners
 
本作は、24年にNHKで放送され大きな反響を呼んだ『Last Days 坂本龍一 最期の日々』をベースに、未完成の音楽や映像など映画オリジナルとなる新たな要素を加えて制作。映画館ならではの音響と空間でこそ鑑賞すべき映画作品として誕生した。
音楽家でありながら、アート・映像・文学など多様なメディアを横断し、多彩な表現活動を続けてきた坂本龍一。その軌跡を辿った展覧会『坂本龍一 | 音を視る 時を聴く』は24年に東京都現代美術館で開催され、同館の企画展として歴代最高となる34万人を超える動員を記録し、社会的現象となった。今なお国も世代も超えて我々の心を掴み続ける坂本龍一は、命の終わりとどう向き合い、何を残そうとしたのか──。人生をかけて追い求めてきた「理想の音」を最後まで生み出そうと情熱を貫いた坂本の姿が、スクリーンに刻まれる。
 

商品情報

映画『Ryuichi Sakamoto: Diaries』

坂本龍一

朗読:田中泯
監督:大森健生
製作:有吉伸人 飯田雅裕 鶴丸智康 The Estate of Ryuichi Sakamoto
プロデューサー:佐渡岳利 飯田雅裕
制作プロダクション:NHKエンタープライズ
配給:ハピネットファントム・スタジオ コムデシネマ・ジャポン
2025/日本/ カラー/16:9 /5.1ch/96分/G
© “Ryuichi Sakamoto: Diaries” Film Partners

11月28日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

【Synopsis】命が尽きるその瞬間まで音楽への情熱を貫き、創作し続けた坂本龍一。本人が綴った「日記」を軸に、遺族全面協力のもと提供された貴重なプライベート映像やポートレート、未発表の音楽を交え、稀代の音楽家の最後の3年半の軌跡を辿る。今なお国も世代も超えて我々の心を掴み続ける坂本龍一は、命の終わりとどう向き合い、何を残そうとしたのか──。誰しもの胸に迫るドキュメンタリー映画が完成した。

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