Rooftop ルーフトップ

REPORT

トップレポート昭和百年の節目にデビュー十七周年記念公演を日比谷野音で敢行したアーバンギャルドの先鋭性かつ娯楽性に富んだコンセプチュアルな瞬間芸術

昭和百年の節目にデビュー十七周年記念公演を日比谷野音で敢行したアーバンギャルドの先鋭性かつ娯楽性に富んだコンセプチュアルな瞬間芸術

2025.03.07

 いくら解体と建替の迫る日比谷公園大音楽堂での貴重なライブとはいえ、春はまだ程遠い極寒の屋外である。演者も観客もアーバンギャルドを人生とする者でなければ、このマゾヒズムを帯びた遊戯は決して成立しなかっただろう。いや、だからこそ『アーバンギャルドの昭和百年 “野音戦争”』と題されたデビュー17周年記念公演はバンドを愛でる者同士のリスペクトと多幸感に満ちた、後世まで語り継がれるべき一夜となったに違いない。
 

250222_UG_野音_全景 (5).jpg

 サポートを含めたバンドの超絶パフォーマンスや微に入り細を穿つ全体の構成とセットリストの妙は言うまでもなく、ステージ後方に設置されたスクリーンの映像演出や国旗掲揚、藤井亮次扮する前衛都市夫(巨大キューピー)の随時登場など、観る側を終始飽きさせない徹底したエンターテイメント精神に感服せざるを得ない、まさにアーバンギャルドにしか成し得ない至高の瞬間芸術を存分に堪能できる至福の時間だった。
 

250222_UG_野音_全景 (4).JPG

 “野音戦争”と銘打った公演だからなのか、開演前に伊福部昭の作曲による『ゴジラ』の不穏な旋律が場内に大音量で響き渡る。まだ日も暮れず明るいなか、サポートメンバーである西村健(ギター)、ぱーけん(ベース)、篤人(ドラム)が開演から5分押しで登場。けたたましく鳴り狂うサイレンと共に、軍服姿の松永天馬(ボーカル)と おおくぼけい(キーボード)が悠然と姿を現す。少し遅れて水玉模様のリボンとスカート姿の浜崎容子(ボーカル)が華やかにステージに立ち、「僕が世」をアカペラで独唱。背後のモニターの向こうから白地に赤い血の丸の国旗が掲揚される。モニターに映る、流れる雲海と昇る朝日。矢継ぎ早に躍り出る文字は「昭和百年」「日本」「東京」「日比谷野音」「あなたの国へようこそ」「アーバンギャルド」の極太明朝体。バンドは1曲目から熱の籠った鉄壁のアンサンブルを聴かせ、全国から駆けつけたアーバンギャルとアーバンギャルソンが果敢に赤い旗を振り応える。
 

s_250222_UG_野音_浜崎容子 (1).jpg25022_UG_野音_松永天馬 (3).JPG

250222_UG_野音_おおくぼけい (4).jpg

 そのまま継ぎ目なく「少女元年」へと移り、「ちょっとまってよ まだ先だよって/言ってる先に時代は終わる」という歌詞が映し出される。松永がOi! Oi!と客席を煽り、歓声が轟く。「1192つくろう/あたしの国を」という歌詞の通り、この日限り、この場限りの理想国家の建立をアーバンギャルドが高らかに宣言した瞬間だ。浜崎は早くも着ていた深紅のコートを脱ぎ、美しく魅せるデコルテが眩い。
 

25022_UG_野音_松永天馬 (2).JPG

 降納した血の丸はスクリーンの中で地球と化し、宇宙から日本、東京、日比谷を目指して急降下する。それはやがて浜崎の瞳と重なり、再び血の丸となる。そして「君が代」を彷彿とさせる音楽と共に『17周年記念公演・アーバンギャルドの昭和百年 “野音戦争”』という公演タイトルが堂々と投影される。このオープニング映像までが序盤のハイライトであり、舞台上の生演奏と表裏一体のVJ映像もまた絶対不可欠の演出効果であることを実感した。身慄いしたのは寒さのせいではなく、幕開けの卓越した構成美と完璧さによるものだ。
 

250222_UG_野音_おおくぼけい (2).JPG

 おおくぼがキーボードに片足を乗せながら熱演した「ワンピース心中」ではメンバー3人の分割アップ映像が背後に映し出されて表情の硬さを若干感じたが、代表曲である「水玉病」、松永が「現在、気温は摂氏5°C」と話してから始まった「自撮入門」のお馴染みのスマホ撮影や都市夫の乱入で会場全体が程よく温まり、メンバーが徐々にリラックスしていくのが窺えた。
 地下鉄の映像が駆使された「メトロイメライ」、目下最新曲の「昭和百年少女」では近年の楽曲もまたポップソングとして普遍性の高さを維持していることをまざまざと見せつけ、とりわけ雅な花鳥風月の世界をマッピング的映像で見せた「昭和百年少女」は本編前半の中で大きな見せ場と言えるものだった。
 

s_250222_UG_野音_浜崎容子 (4).jpg

 ここで松永が退場し、途中まで浜崎の独唱とおおくぼの鍵盤のみで奏でられる名バラード「愛、アムネシア」を披露。凍てつく冬空の下で澄み渡る音色と艶やかな歌声はまさに絶品で、吹き荒む風をものともせずに唄い上げる浜崎の姿は音楽の女神そのもの。ボーカリストとしての実力と存在感で完膚なきまでに魅了した浜崎と入れ替わるように松永が再入場し、おおくぼの即興演奏と共にライトで本を照らしながら詩を朗読する。
 「日比谷野音は戦場だ/百年前から、戦場だ/命を鳴らす、戦争だ/歌で撃ち合う、戦争だ」
 「幽霊たちを照らし、今宵、百年戦争を、終わらせましょう」
 ここで語られる幽霊とは、1923年、関東大震災の年に生まれた日比谷野音にかつて集い、この102年のあいだに泉下の人となった歌い手や観客のことを指す。そのまま「死体を探せ」「詩人を探せ」と連呼する「詩人狩り」を唄う構成が実に粋で、天性の詩人である松永天馬の面目躍如を果たすパートだった。
 

25022_UG_野音_松永天馬 (4).jpg250222_UG_野音_おおくぼけい (3).JPG

 サイレンが鳴りはためくなか、スパンコールの刺繍が大胆に施された煌びやかな衣装を身に纏った浜崎がステージに舞い戻り、「昭和百年、時に戦時中。世界はメイク中。言葉を……殺すな!」と観客を煽動する。奏でられるイントロと共にレーザーが乱反射する「くちびるデモクラシー」は「昭和百年少女」と並びこの日の公演を象徴するメインテーマと言うべきもので、いまだ『昭和九十年』をアーバンギャルド屈指の名作と愛してやまない筆者にとって個人的にクライマックスの一つでもあった。「詩人狩り」から「くちびるデモクラシー」の流れで今この瞬間がまさに戦時中であることを明示し、“野音戦争”が佳境に入ったことを物語る選曲である。
 

s_250222_UG_野音_浜崎容子 (3).jpg

 昨年、冥界へ旅立った田名網敬一を想起させるサイケデリックな映像と共に唄われた「アング・ラグラ」の頃になると空は暗くなりつつあり、浜崎と松永が舞台から捌ける。おおくぼがピアノ独奏を披露しながら「日比谷ー!」「寒いかー!」と絶叫する。その後、演る側も観る側も身体を温めるためにと「Dr.脳」の振り付けを指南。サポートメンバーがLOUDNESSの「CRAZY DOCTOR」を軽く演奏する余興を挟み、浜崎と松永と都市夫を呼び込んで演奏された「Dr.脳」では観客が右へ左へ客席をせわしなく駆け走ることで冷え込みを回避。楽しく踊っているうちにすっかりと日は落ち、おおくぼは「分かってくれたかなー?」と客席に問いかけ、松永は「お前ら何にも分かってなーい!」と挑発する。
 

250222_UG_野音_おおくぼけい (5).jpg

 続く「アルトラ★クイズ」では、シルクハットを被った松永の「寒い寒い東京から、あったかい常夏の天国へ行きたいかー!」というコールに「行きたい! 生きたい! 行きたい! 逝きたい!」とお馴染みのレスポンス。2年前の中野サンプラザ公演でも見られたピエロのクイズ映像を背後に、都市夫が激しく踊り狂う画がシュールだ。その後の「Sick Sick シックスティーン」も含め、昨年2月に発表された『メトロスペクティブ』からの選曲多めのパートで寒さを吹き飛ばすようにオーディエンスがはしゃぎ乱れ、思い思いに楽しんでいたのが強く印象に残った。
 

25022_UG_野音_松永天馬 (1).JPG

 酷寒の日比谷野音へ駆けつけてくれた観客へ感謝を伝えるMCを挟み、「たった一度の人生ならば、立ってみせます。日比谷野音。聴いてください。新宿、新宿、シンジュク・モナムール!」と松永が傾(かぶ)いてみせ、新宿の街並みと桜をモチーフとした映像と共に「シンジュク・モナムール」を聴かせた。観客がめいめい振る赤い旗が桃色のスポットを浴びて桜のように映える光景が実に美しく、会場全体が春一色に一体化した様はまさに眺望絶佳と呼べるものだった。
 

250222_UG_野音_全景 (1).jpgs_250222_UG_野音_浜崎容子 (2).jpg

 本編最後に披露された「大破壊交響楽」を、官公庁などオフィスビル街に隣接した「真っ暗な街中で」聴くのは非常に感慨深いものがあり、軽快な楽曲と寂寞たる歌詞の両価性が共存するこの名曲で本編の幕を閉じる趣向もまた素晴らしかった。再びメンバー3人の寄り映像が三分割で映し出され、序盤とは異なり、日比谷野音という大舞台をやり遂げた自負から来る凛とした表情をしていた。
 さらに「ぜんぶ壊れてしまえ」という歌詞の通り、不適切な接待疑惑に沸くフジテレビの本社ビル、国会議事堂、東京タワーといった都市のモニュメントがスクリーンの中で次々と破壊されていく。アーバンギャルドがここ日比谷野音で創り上げたあなたと私の国家がバンドの奏でる交響楽と共に崩壊していくのが痛快だ。
 

250222_UG_野音_全景 (2).JPG

 だが、アーバンギャルドは何度でも立ち上がり、再び建国する。オーケストレーションと共に血の丸国旗がまたぞろ掲揚され、もはや寒さなどものともしない観客は大歓声を上げる。アンコールに応えたバンドは、悲哀の中にもどこか希望を感じるようなアレンジへと劇的に変化した「女の子戦争」を披露して驚かせ、往年の楽曲の再構築もまた本公演のテーマの一つであることをさりげなく伝える。バックギアの装置を持たないバンドを20年近く続けてきた彼ららしい矜持の表明と言えるだろう。
 「日比谷野音! まだまだ行けますか?! バンドだって……病める、アイドル!」という松永の煽りで始まった「病めるアイドル」は四の五の言わずに踊りまくれ! と言わんばかりのお祭りモード。浜崎と松永は満身創痍で客席を焚きつけ、おおくぼもショルダーキーボードを抱えて舞い踊る。観客はそれに応えてペンライトや赤い旗を懸命に振り、いつもの振り付けに合わせて咲き誇り、都市夫までペンライトを片手にしゃにむに踊る姿がおかしい。
 

250222_UG_野音_おおくぼけい (1).JPG

 それでもまだアンコールを求める声は鳴り止まない。松永いわく「17年間で一番大きかった」という観客の掛け声にいざなわれ、凍える寒さの中でWアンコールを敢行するバンドの献身的な姿勢に頭が下がる。
 「アンコールありがとう。あなたの国は不滅です。なぜならあなたは、とっておきの嘘があるから……アーバンギャルドが。愛してるなんて嘘です。都会のアリス!」
 浜崎のMCに導かれて披露された「都会のアリス」で繰り返し唄われる「嘘」は本当に「嘘」なのか。「本当」は「本当」に「本当」なのか。歌という虚構の世界にこそ作者の伝えたい真実が込められることがある。歌に綴られた物語を通じて現実の世界を知ることもある。何が嘘で何が真実かなんて誰にも分からない。ただ一つだけ確かなことは、アーバンギャルドがこの17年ものあいだ紡ぎ出してきた至宝の歌の数々、恋と革命を主題にした前衛都市の物語が絶えず私たちを魅了し続け、それはこれからもずっと揺るぎないという事実だ。
 

250222_UG_野音_全景 (3).JPG

 サポートメンバーの紹介を経て、おおくぼ、松永、浜崎の順で一人ずつ挨拶。おおくぼは「バンドに加入してから今年でちょうど10年、ますますアーバンギャルドのことが好きになっています」と思いの丈を語り、松永は「アーバンギャルドはBGMにならない。自分の人生だと言ってくれる人が多い。この先もずっとついてきてほしい」と胸の内を伝え、浜崎は「生きていて良かったと思うことなんてそんなにないけど、アーバンキャルドのライブやレコーディングをやるたびに生きていて良かったと心から思う。みなさん生まれてきてくれてありがとう!」と感謝の意を述べた。
 有終の美を飾ったのが「消えてく世界の果ての果て」を描いた「さよならサブカルチャー」というのも実にアーバンギャルドらしい。この先に待ち受ける世界は「ノーフューチャー」で「せつない未来」かもしれないが、私たちはいつだって「I LOVE 憂・鬱!」なアーバンギャルドの歌を心の糧にしてきたのだからきっと大丈夫だ。それにこの日、私たちは「共に生き抜きましょう!」という松永との約束を守ることにしたではないか。生きてさえいれば、アーバンギャルドの音楽とライブをまた楽しむことができる。デビュー18年目を迎える今年の春からは久々に大規模な全国ツアーも控えている。アーバンギャルドの新曲を聴き続けることだって立派な生きる理由になると、私は思う。
 

250222_UG_野音_浜崎容子 (5).jpg

 最後は「さよなら日比谷野音! 百年経ったら出ておいで!」という浜崎の言葉と共に、スクリーンの中で日比谷野音が木っ端微塵に爆破。
 「アーバンギャルド」「昭和百年」「野音戦争」「終戦」の文字が躍り、かくして歌で撃ち合う過酷だが幸甚な百年戦争に終止符が打たれた。
 稀代のトラウマテクノポップバンドが私たちの脳内、あるいは心の中に黄金郷、理想の国家を建立するという確信めいた革新的試みは昭和百年二月二十二日、見事に果たされた。
 いい国つくろう、私の国を。その国の名を、人はアーバンギャルドと呼ぶ。
 
写真 ミワ, Koichi Tomi|取材・文 椎名宗之

Live Info.

【配信】17周年記念公演・アーバンギャルドの昭和百年 “野音戦争” @日比谷野音

361639-93db5fc4.jpg

2月22日(土)に行なわれた日比谷公園大音楽堂での17周年記念ライブを高画質・高音質編集にてディレイ配信。
アーバンギャルド最大規模、初野外ワンマンの世界観を音、演出、映像込みでお楽しみください。
先行予約で秘蔵音源 or 動画の特典あり(配信終了後に送信されます)。配信後、2週間はアーカイブ視聴が可能です。
▼2025年3月22日(土)20:00 配信
視聴期限:2025年4月5日(土)23:59 まで何度でも御視聴いただけます。

TOKYOPOP TOUR 2025

f88681c2d7ba75e19f5c615151fd0fea54c05a28.jpg

【日程・会場・開場 / 開演 / 終演予定時間】
5月3日(土)東京・表参道「月見ル君想フ」18:30 / 19:00 / 21:00
5月17日(土)岡山「ペパーランド」17:00 / 17:30 / 19:30
5月18日(日)高松「sound space RIZIN'」17:00 / 17:30 / 19:30
6月14日(土)大阪・なんば「ヨギボーホーリーマウンテン」17:00 / 17:30 / 19:30
6月15日(日)大阪「プリントクラブ会員限定:ファンクラブイベント」
7月5日(土)北海道・札幌「SPACE ART」17:00 / 17:30 / 19:30
7月6日(日)北海道「プリントクラブ会員限定:ファンクラブイベント」
7月21日(月・祝)愛知・名古屋「CLUB UPSET」17:00 / 17:30 / 19:30
7月26日(土)石川・金沢「gateBlack」17:00 / 17:30 / 19:30
8月30日(土)宮城・仙台「誰も知らない劇場」17:00 / 17:30 / 19:30
9月27日(土)福岡「LiveHouse秘密」17:00 / 17:30 / 19:30
9月28日(日)福岡「プリントクラブ会員限定:ファンクラブイベント」
10月24日(金)東京・高円寺「高円寺HIGH」18:30 / 19:00 / 21:00

アーバンギャルド TOUR 2025『昭和百年』

bb7eb459c4e1c2ecb17525715811ac3f7e499f17.jpg

3月15日(土)心斎橋VARON
開場18:00 / 開演18:30|スタンディング
3月16日(日)名古屋UPSET
開場17:30 / 開演18:00|スタンディング
3月29日(土)東京神田明神ホール
開場17:00 / 開演17:45|椅子席
<チケット>
大阪優先入場券:¥6,600(税込)
名古屋優先入場券:¥6,600(税込)
大阪後方入場券:¥5,500(税込)
名古屋後方入場券:¥5,500(税込)
東京神田明神ホール入場券:¥7,700(税込)
※各会場ドリンク代別

関連リンク

このアーティストの関連記事

RANKINGアクセスランキング

データを取得できませんでした

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻