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トップレポートキノコホテル、exist†trace、アーバンギャルドという稀代の女性ボーカリストが牽引する生粋のライブバンドによる華麗なる"絆奏"

キノコホテル、exist†trace、アーバンギャルドという稀代の女性ボーカリストが牽引する生粋のライブバンドによる華麗なる"絆奏"

2024.11.12

 下北沢SHELTERのオープン33周年を記念して行なわれた『絆奏』の主催者であり、当日が誕生日でもあった小鹿なるみ(弊社インハウスデザイナー)と出演者三組による座談会のテーマをどうするか話し合ったとき、「なぜバンドにこだわるのか?」を主軸に据えようと思い立った。それはその数日前に交わした、新宿LOFTのブッキングマンたちとの何気ない会話が頭の片隅に残っていたからだ。
 彼らいわく、どれだけ魅力的なツーマンを組んでもコロナ禍前ほどの動員がない。若いオーディエンスはコスパ・タイパが最優先なのでツーマンよりもワンマンを選ぶ傾向にある。つまり対バン形式のライブで新たなバンドと出会うことに価値を見いださない。映画を早送りで観る人たちが少なからず存在するように、若年層は金銭的にも時間的にもとにかく無駄を嫌う。だとすれば摩擦係数が高く、苦労の対価として得られる報酬も決して多いとは言えない(ように感じられる)バンドという集合体がZ世代に憧れられることは少なく、彼らがバンドを志すことは減りつつあるのではないか。
 そんな状況の中でもどっこいしぶとくバンドという表現形態で音楽を創作し続けるのはなぜなのか。それも女性という立場で、旧態依然とした男性優位の価値観がはびこるライブハウスの世界で、exist†traceは不動のメンバー5人全員が21年にわたり、アーバンギャルドの浜崎容子とキノコホテルのマリアンヌ東雲はそれぞれ17年にわたりバンドであることにこだわり独自の活動を続けている。その原動力と矜持を『絆奏』出演の三組に訊いてみたかった。
 長年の経験に裏打ちされた機知に富む受け答えの数々は座談会記事をぜひ読んでいただきたいが、三者三様のバンドに対するこだわりと必然はこの日のライブからも十二分に感じられ、平穏を装いながらも目に物を見せてやるという尋常ならざる気迫と闘志が各バンド共に漲っていた。座談会で浜崎が「対バンは真剣勝負だから燃える」と話していたように、弱肉強食の如く客を奪い合うのもこうした三つ巴ライブの醍醐味に違いない。
 

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 トップバッターのexist†traceは、盟友関係であることで知られるアーバンギャルドとキノコホテルの観客が多い中でアウェイの空気に飲み込まれないかと若干心配もしたが、当然のように杞憂に終わる。初見の観客を意識したのか、近年の「アカシア」を筆頭に(ジョウの被るハットでシアトリカルに演出したこの曲を一曲目に選んだのは初めてのことだったらしい)、「本能」「くちびる」「Shout out」「君の真っ白な羽根」と2010年代の代表曲を満遍なく連発し、バンドのエッセンスを凝縮させた楽曲を畳みかけて忽ち自身のペースへ持ち込む手腕が実に見事。徹底した美意識と確たる世界観を貫き通した楽曲群とは裏腹にジョウのMCは親しみやすく、ステージとフロアの垣根を取り払うのが上手い。ぼくの目前ではアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の聖地巡礼でSHELTERへ訪れたと思しき外国人観光客が身体を揺らしており、ツインボーカルが映える「ネオジャパニーズヒロイン」のようにexist†traceにしか生み出し得ない和風ソングも彼が存分に楽しんでいるのが窺えて嬉しくなった。バンドの名刺代わりのアンセムと言うべき「DREAM RIDER」でさらに盛り上げ、mikoいわく「ライブで成長した曲、ファンのみんなと育て上げた大切な曲」の「VOICE」で締め括るという演目はバンドの特性と軌跡の一端を如実に反映させたものであり、アーバンギャルドとキノコホテルに対してexist†traceの世界観を色濃く魅せるというバンドの意図は充分伝わったと思うし、この4日後のワンマンも体感したいと感じさせる威風堂々のステージだった。
 

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 二番手のアーバンギャルドはメンバー三人のみで極上のエレクトロ・ポップを展開する“テクノポップセット”。浜崎とおおくぼけいに至っては初のSHELTERライブ(2008年2月に同会場で行なわれた、まつきあゆむと相対性理論のツーマンを浜崎と松永天馬が観たという)。メジャーデビュー・シングル曲「スカート革命」をアンニュイなムードで奏で、“20年代型テクノポップ”を標榜したサウンドだけにこのセットに誂え向きと言える「言葉売り」、観客のスマホ撮影が許される定番の「自撮入門」など、通常のサポート・メンバー抜きでもバンドの面目躍如たるキュートでビターでカラフルなテクノ曼荼羅は不変かつ普遍。男女両性を兼ね備えた中性的な存在を主題にした「アンドロギュノス」は傑出した21世紀の歌姫である浜崎容子にしか唄えないものだし、観衆の感情を自在に操る扇動者である松永天馬が作詞曲を手がけた「東京REMIX」(作曲はおおくぼとの共作)は近年再評価されているシティ・ポップに通ずるスタンダード性の高さを感じ、彼のソングライターとしての才にも依然舌を巻く。特筆すべきは、浜崎・松永のツートップを屋台骨として支えるおおくぼけいの突出したアレンジ・センスとプロデュース能力が今日のアーバンギャルドに絶対不可欠であることを物語る「都会のアリス」と「ワンピース心中」の巧みなアップデート。彼が「今までのこのセットの中で演奏のスタンスが一番上手くはまれた日だった」と後日SNSで語るのも納得の、バンドの伸びしろをまだまだ感じさせるパフォーマンスだった。
 

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 トリは、主催者の小鹿が私淑するマリアンヌ東雲率いるキノコホテル。偶然にも“キノコの日”だったこの日のパート従業員は新生エリンギ班で、発足からまだ2カ月ゆえの固さを最初は感じたものの「ゴーゴー・キノコホテル」で各人のテンションを擦り寄せてチューニングを施しながら「有閑スキャンドール」へと雪崩れ込み、「キネマ・パラノイア」を爆音で炸裂させる頃には安定と信頼と実績のキノコホテル。度重なる従業員の変動など取るに足らないわと言わんばかりの透徹した歌世界。久々に聴いた「カモミール」の微細な心のひだがふるえるリリシズム、最新曲「をんなの荒野」の胸躍る快活なドライブ感、コロナ禍の混沌を想起せずにいられない「アケイロ」の静と動が渾然一体となった構成美の歌。それらをさらっと演奏してのける百戦錬磨の臨時従業員たち。マリアンヌ東雲個人の卓越したソングライティングはバンドという社会の縮図のような集合体の生演奏でこそ活きる。遠藤ミチロウが憑依したかのように拡声器でアジる「莫連注意報」や「キノコノトリコ」といったライブ映えする楽曲を聴くと、オルタナティブと称するパンク/ハードコアを分母に置いたバンドを数多く輩出してきたSHELTERに似合うバンドであることを再認識する。忘れて自宅まで取りに帰ったという『マリアンヌ東雲性誕祭』のフライヤーと夜のお帽子をフロアへ散布する茶目っ気も健在で、「キノコホテル唱歌」「もえつきたいの」「真っ赤なゼリー」という誰もが望む定番曲を欠かさぬサービス精神も変わらず。座談会でマリアンヌ女史が話していた「従業員がどれだけ変わろうとキノコホテルは不動であることを見せつけたい」という公約を誠実に果たした濃縮実演会だったと言えるのではないか。
 

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 マリアンヌ東雲謂う所の「めちゃくちゃメンバー仲の良いバンド、ビジネスと割り切っているバンド、ころころとメンバーの変わるバンド」が一堂に会した『絆奏』。稀代の女性ボーカリストが牽引する生粋のライブバンド三組による三者三様のパフォーマンスを目の当たりにしてあらためて実感したのは、自分が思春期の頃から40年近く偏愛してきたバンドという在り方に対する憧憬、バンドにロマンを感じる嗜好性は何も間違っていなかったということだ。人間関係が拗れると面倒で誰か一人が欠けると成立しなくなるバンドはコスパもタイパも悪く効率的ではないと感じる人が今や増えてしまったのかもしれないが、だからこそ儚く美しく、複数人の合奏でしか鳴らない音以外の何かがバンドにはある。それは一期一会の尊いものであり、バンド形態でしか為し得ないことだ。その魔法はライブハウスという空間でバンドとオーディエンスの幸福な交歓によって生まれる。同じ夜は二度と生まれないし、退路を断ち人生のすべてをバンドに懸けた表現者の凄みは伊達じゃない。要領が悪く己の信じる道を愚直に突き進むのは無粋で野暮なことなのかもしれないが、満身創痍で這いずる野暮も貫けば粋に通ずる。そうした不退転の覚悟から生まれる純真な音を追い求めて、ぼくは今日もどこかのライブハウスの重い扉を開くのだ。【Photo:MAYUMI(@SOxWHAT_88)/ Text:椎名宗之 / 2024年10月15日(火)『Shimokitazawa SHELTER 33rd ANNIVERSARY “絆奏”』】

Live Info.

キノコホテル

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マリアンヌ東雲性誕祭2024
【日程】2024年12月20日(金)
【夜の部】
開場18:45 / 開演19:30
前売¥4,500 / 当日未定(共にドリンク代別¥600)
*チケットはイープラスにて発売中
【深夜の部】
DJ:小里誠 a.k.a. Francis / ヤマダナオヒロ(nAo12xu / †13th Moon†)/ ながい(from Snack夜間飛行)
開場23:30 / 開演24:00
前売¥4,500 / 当日未定(共にドリンク代別¥600)
*シャンパンタワー参加券付き
*チケットはイープラスにて発売中
【会場・問い合わせ】下北沢Flowers Loft 03-6407-9520
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exist†trace × 快進のICHIGEKI 20th Anniversary TOUR
【日程】2024年11月15日(金)
【時間】開場18:00 / 開演18:30
【チケット】前売¥3,800 / 当日¥4,400(共にドリンク代別)
*チケットはLivepocketにて発売中
【会場・問い合わせ】大阪・心斎橋村CLAPPER 06-4708-4010
 

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exist†trace × 快進のICHIGEKI 20th Anniversary 名古屋編
【日程】2024年11月16日(土)
【時間】開場17:30 / 開演18:00
【チケット】前売¥3,800 / 当日¥4,400(共にドリンク代別)
*チケットはLivepocketにて発売中
【会場・問い合わせ】名古屋・新栄バーニーズ
 

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labo×快進のICHIGEKI×exist†trace 20th Anniversary!!
【共演】快進のICHIGEKI
【日程】2024年11月22日(金)
【時間】開場19:00 / 開演19:30
【チケット】前売¥4,500 / 当日¥5,000(共にドリンク代別)
*チケットはLivepocketにて発売中
【会場・問い合わせ】東京・labo YOYOGI 03-5354-3120
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アーバンギャルド

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17周年記念公演・アーバンギャルドの昭和百年“野音戦争”
【日程】2025年2月22日(土)
【時間】開場15:45 / 開演16:30
【会場】日比谷公園大音楽堂
【チケット】
SSチケット:前方エリア指定席、スペシャルプレゼント付:¥16,000(税込)
Sチケット:指定席:¥8,000(税込)
Aチケット::指定席:¥5,000(税込)
*チケットはイープラスにて発売中
【問い合わせ】チッタワークス 044-276-8841(平日12:00〜13:00 / 15:00~18:00)
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