Rooftop ルーフトップ

REPORT

トップレポートザ・モッズ、デビュー前夜までの知られざる物語を描いた『Hey! Two Punks The Mods:The Early Days 博多疾風編』の発売記念インストアイベントが開催。「この本を書くことで<ああ俺は音楽が好きなんだな、やっぱりバンドが好きなんだな、モッズが好きなんだな>というのを痛感した」(森山達也)

ザ・モッズ、デビュー前夜までの知られざる物語を描いた『Hey! Two Punks The Mods:The Early Days 博多疾風編』の発売記念インストアイベントが開催。「この本を書くことで<ああ俺は音楽が好きなんだな、やっぱりバンドが好きなんだな、モッズが好きなんだな>というのを痛感した」(森山達也)

2024.12.12

ザ・モッズのデビュー前夜までの知られざる物語を描いた『Hey! Two Punks The Mods:The Early Days 博多疾風編』(著者:森山達也/北里晃一)が11月25日にシンコーミュージック・エンタテイメントより刊行。その発売記念インストアイベントが11月29日にタワーレコード渋谷で開催された。
 

Hey! Two Punks  The Mods - The Early Days博多疾風編.png

トークイベント開始は午後7時にもかかわらず、タワーレコード6階のレコード売り場(アナログ盤の宝庫!)に設置されたイベント会場には、開店早々から前の方で見ようとファンが集まってきたという。結果的に長い帯状の列となり、最後列はなんと売り場最後方まで伸びた。
7時を少し超えてイベントがスタート、音楽ライター・本田隆が壇上に登り、森山達也と北里晃一を呼び込む。一斉に絶叫が上がり、大きな拍手が二人を迎える。
 

IMG_1306.JPG

森山:寒い中ありがとうございます、短い時間ですけど楽しんでいってください。
 
北里:いっぱい入ってるね、朝から待ってた人もいるって聞いて感激してます。楽しんでってください。
 
──この『Hey! Two Punks』は今までのモッズの硬質なイメージをすべて脱ぎ捨ててますね。
 
森山:脱ぎ捨ててないです(笑)。デビュー前の博多時代の話だから、そんな硬質な服なんか着れないでしょ。その当時考えてることは、どうにかして金を集めて夕方どうやって飲むか。政治のことなんか考えてないし、だから硬質なイメージを着たくても着れなかった。
 
──なるほど。
 
北里:モリヤンが言った通りなんですよ、夕方5時から焼き鳥屋が開いて、1,300〜1,400円あればなんとか飲み食いできて。
 
森山:ビールが300円。
 
北里:焼き鳥でバラを頼んで。
 
森山:健全に飲んでました。
 
──机にお金を置いて。
 
北里:あれが一番間違いない明朗会計。

忘れるから、書き残しとかなくちゃいけないっていう意識からできた本

IMG_1332.JPG

森山:まず、なぜこの本を出したかというと、みんな知ってると思うけど、俺が耳の病気になって、約1年はいろんな病院に行って精神的にもやられそうだった。で、1年ぶりくらいかな、北里から“ちょっと会おうか”って電話があった。そんな時に重い話とかしたところで治りようもないし、そこで昔の楽しい話になった。でも二人ともあまり細かいところまで覚えてなくて、お酒も飲んでるから記憶もいい加減。それで、こういうことは記憶がある今のうちに書かないと、何年かしたら思い出せないね…ということで結局本になった。自分たちにとっても残しておきたい記憶だし。
 
北里:こう書こう…と思って書き出したわけじゃないので、結局モリヤンと飲みながら記憶の擦り合わせをやって、断片と断片をつなぎ合わせると一本の筋道ができて、それをエピソードとして連ねていった感じ。
 
── 一つ出ると、どんどん思い出す。
 
北里:そんな感じはものすごくあったし、最後までちゃんと出てきた。
 
──焼き鳥屋の描写もすごくリアルで。
 
森山:年寄りは昔のことはよく覚えてる…って言うじゃないですか、最近のことはすぐ忘れるけど(笑)。当時は毎日のルーティーンワークに近かったから覚えてるんだろうね。
 
北里:毎日だからね。
 
──この本の制作中のエピソードとかも聞きたいんですけど。
 
森山:まず、<こんなことがあったよね>というのは覚えていても年数がわからない。<アイツいたっけ?>みたいな細かいところがどうしても思い出せない。そういう時は連絡を取ったり博多の連中に聞いたり。でもそいつらも忘れてて…その辺が大変っていえば大変だったかな。
 
北里:俺のほうが2歳年下なんで、若干ながら覚えてるんですよ、同じ酒を飲んだにしても。
 
森山:当時はお金もないし、おっきな夢もあるけど、それがすぐに叶うと思ってないから、俺たちにとってはその日の夕方をどうやって楽しもうか…しか考えてなかった。あの本は二人であの頃を思い出すことが大事でね。真面目に音楽のことを書いても、俺たちのことを書いたオフィシャルな本にいっぱい載っててみんな知ってると思うし、俺たちプロじゃないから書いてもつまらないと思う。だから俺たちが書けるとしたら、みんなが知らない当時の等身大っていうか、みんなとそんなに変わらないことで面白いエピソードがあればいいよね…ぐらいでしか書いてない。実際本になると思ってなかったしね。なればいいかな…くらいしか。だから、忘れるから書き残しとかなくちゃいけないっていう意識が強かった。
 
──10代の頃、モッズを聴いた時<あ、俺たちのことを歌ってる!>って思って、今回本を読んだら<これって俺たちじゃん>ってまた思ってしまう。
 
北里:肩肘張らずに書いたものなので、結局は考えてることはみんなと同じ。でもね、不思議とモリヤンと飲んでたら<絶対プロになれる!>というのは信じられた。夢物語とは思ってなかった、この人についていけば必ず俺たちは東京に行ける、こうやって音楽で飯が食えるとは、あの時からずっと思ってた。これは間違いない。
 
──そうやってプロになられて、実際になってみるとここが違った…というのは。
 
森山:それは次の「エピック東京編」で。(場内大拍手)
 
──あるということですね。
 
森山:出せるかどうかわからないけどね。この本が爆発的に売れれば…、で、割と売れ行きいいらしいです。(場内大拍手)【12月下旬に重版出来】

2年4カ月ぶりのステージ、東京キネマ倶楽部

IMG_1243.JPG

──先日の東京キネマ倶楽部、本当に素晴らしいライブでした。2年4カ月ぶりにファンの前に久々に出た感想は?
 
森山:舞台袖でメンバーにも言ったんですけど、久々に緊張したね。
 
北里:マジで「上がったぁ~!」って。
 
──座ってのアコースティックセットでしたが、最後のアンコールで立たれたじゃないですか。あれは想定外ですか?
 
森山:予定はなかった。
 
──そこまで行けたってことですよね。
 
森山:アレやんないと帰んないかなと思って。(場内爆笑・大拍手)
 
──モッズ・コールも抑え気味で、みんなすごく気を使ってるな、と。
 
森山:俺、緊張してたから、あの沈黙がすごく辛くて。
 
北里:はしご登らせて、はしご外す、みたいな。
 
森山:普段なら、「わぁ!!!」とか、「モリヤマ!!」とかあるんだけど。
 
──アコギになると椅子に座ってる人も多いからシーンとなって、探りながら観てる感じだった。
 
森山:2年も休まなければOKなんだけど。俺もみんなと同じくらいモッズがやりたかったし、ステージに立ちたかった。なんかすごい新品な俺になった気分で、最後までやれるかっていう不安もあった。
 
──音も新しいモッズでしたね。
 
北里:新しくなったかどうか俺はわからないけど…、聴き違いだと思う。俺たちは変わらないところがいいとこなんよ。(場内大拍手)

当時、70年代の博多の音楽シーンは東京とは全然違ったから生まれた

IMG_1267のコピー.jpeg

──本の中では博多の音楽シーンのこと、山善(山部善次郎)さんや鮎川(鮎川誠)さんといった70年代の話が出てくるんですけど、東京とは全然違うシーンがあって、どうしてああいうシーンになったのか?
 
森山:それがわかってれば俺も評論家になるよね(笑)。当時はファミコンもなければ、音楽番組もなかったし、流行はやっぱり東京が中心だったからこっちまで情報が来るのが遅れるし、外国のアーティストもなかなか福岡まで来ることはなかった。だから流行りとかを意識せずに自分たちが好きなロックをやれた、個性の強いしっかり自分たちのスタイルやポリシーを持ってるバンドが生まれやすかったんだと思う。これが東京と同じように流行に敏感で街を歩く人もそういう人たちばっかりだったら、やっぱりそっち寄りのバンドが増えたりしてつまんなくなったり、没個性になって、ああいうビート系のバンドはもちろん出てこなかっただろうし。そこくらいかな、なんとなくオレが思うのは。
 
北里:博多には先輩筋でサンハウスか山善もいたし、そういったバンドの特徴としてはスローな演奏ができた。いわゆるロックバンドで速いのだけとか踊れるやつだけとかそういうのに特化してるバンドが多い中で、博多のバンドはスローができた。
 
──やっぱりモッズにとってパンク・ムーヴメントはすごく大きかったと思うんですけど、スローな曲の下地というのは?
 
森山:その辺も書いてますから。
 
──そこは、しっかり読んでいただくとして。苣木さん(G.)、梶浦さん(Dr.)が入っての4人のモッズ、当時の二人については?
 
森山:読んでもらったらわかるけど、メンバー探しがなかなか大変だった時期があって、北里はずっといてくれたけど、最後のほうは俺も<バンド組めないのかな…>と思ってた。これは本には書いてないけど、一瞬、東京のほうから<ソロで来ないか>って話もあった。オレはバンドが好きだから結局は断ったんだけど、一瞬、<ああ、オレも永ちゃんみたいになろうかな…>とかもあって、北里に「もうお前、バンド組めよ」と言った。北里がバンド組んで安心したら東京に行けるかな…と思って。そうしたら、組んだバンドが女の子ボーカルで、オレに言わせれば北里には違うわけよ。(場内大爆笑)あんだけラモーンズが好きとか言っといて、何そのポップなのは!? 悪くはないんだけど俺のイメージとは違ったわけ。で、<これは俺は東京に行けないな、コイツの面倒みるしかないな…>と。
 
──そういうことがあったんだ、北里さんは?
 
北里:覚えとるんだけど、あれはブロンディみたいなのが流行ってて、そういうのもアリかなと、でもそれは腰掛け程度にしか思ってなかった。
 
──森山さんがソロになるのは悲しかった?
 
北里:いや、それは知らなかったし。
 
森山:結局バンドが好きだったから正解だったな、東京に一人で行かなくてよかった。そうじゃなかったらこんな歳までロックバンドやれてなかったし。<ロックは若者のものだ>っていう昔のことは知らないけど、ロックもだんだんそうは思われなくなってるし、歳をとったら楽しみはないのか? フザけんな、<俺たちみたいに歳をとった奴らが ロックを目一杯楽しめる、まだそういう文化がある>っていうのが、逆に今となっては<どうだ、お前らうらやましいだろう>と思うよね。だからみんなずっと、何歳になってもロックを好きでいてね。(場内大拍手)

もう一回冷静に昔からの自分を振り返ることは、すごく薬になったと感じさせられた

IMG_1313.JPG

──結成当時、ここまで長く続けるとは思ってました?
 
森山:メンバーにも言ったけど、<3枚アルバムを作ったら成功だから、3枚作るまでは帰らんぞ!>という意識でいました。
 
北里:3枚ね、それがダメやったら屋台引こうという話はしよったけどね。でも周りにも恵まれて、レコード会社にも恵まれて今に至る。
 
森山:なんかイメージで、1枚で博多に帰ったら大失敗、2枚は中途半端、3枚出せば一応なんとなく形にはなるのかな…と。
 
──それがもう40数枚…。
 
森山:もうアルバム数も年数も数えてない。やれることをとりあえずやっていくしかない、それが何年になるのか、いずれ解散する時にわかるかな。
 
──解散というのを考えたことは?
 
森山:だから、ないと言えば嘘になるというか、でも本気で考えたのは別にないね。それこそ今回この耳の病気になった時に解散というより、<ああ、これでもう俺はやれないのかな>というのは考えた、そこが一番きつかった。ミュージシャンにとって一番大事な耳がイカれてしまったから、<ああこれでもうできないのかな…>と思ってしまう。
 
──それを見守られていた北里さんは?
 
北里:1年間闘病してると、俺らがあまり電話すると急かしてるみたいに思わせて、また精神的なプレッシャーになるから連絡は取らなかった。でも、初代マネージャーの角田がモリヤンの病院にはずっと付き添っていて逐一連絡は受けてた。病状はもちろん、その病状も決して芳しくなく、先生から「完治することはない」と言われたという残酷な報告も聞いて、「そうなのか、じゃあ慣れるしかないのか」という話で、モリヤンは辛い1年を送ってたと思うよね。それでも1年経った頃に、やっぱもう一回会ってバカ話でもしながら飲みたいし…というのでこの本に至るんだけどね。
 
──そうするとやっぱり、書かれたこともご自身の療養にかなりプラスになったという。
 
森山:うん、そうね。音的なことはできなかったけど、もう一回冷静に昔からの自分のことを振り返ったりも本当にすごくできたし、改めてそれをやることで<ああ俺は音楽が好きなんだな、やっぱりバンドが好きなんだな、モッズが好きなんだな>というのを痛感したよね。それはすごく薬になったと感じさせられたね。
 
──それで2年ぶりにライブをやって、その後もやっぱり先を見据えて…という流れができた。だからこの『Hey! Two Punks』はお二人が昔を振り返ってるんですけれど、前に進んでいくというような本と感じたんですよね。
 
森山:とりあえず、よくある映画の「○○○ episode,0」みたいなアレ。『THE MODS,0』というか、<ここから始まったまだ完璧じゃないモッズだったんだけど、でもあそこから始まったんだよ>というのをみんなが知って、デビュー・アルバムの『FIGHT OR FLIGHT』を聴いたらわかるよね。
 
──そうなんです、多分。でもあの笑いの中にも音楽が好きで好きでしょうがないっていうのが出てるんですよね。それはずっと変わらないんじゃないのかな。
 
森山:どうなの?
 
北里:それしかないからね、取り柄っちゅうのがね。
 
──本当に好きなんだなっていうのが伝わってきて。
 
森山:ま、書いてあるのが焼き鳥、ロックだからね。さみしい人生(笑)。みんなもそんなもんよね、あの頃って。
 
北里:モリヤンはピザを頼む時、いろんなトッピングしないの。ごくシンプルで、なんでもかんでも乗せればいいってわけじゃない、一つキモになるものさえ乗ってれば完成。だから俺たちも、音楽さえできればそれでいいと思ってた。
 
──そういうところも書いてある本なので、あの笑いの裏にあるものを感じて欲しいと思います。で、将来のモッズについて話していただける範囲でいいので一言いただけますか。
 
森山:予定自体は全然立ててないんだけど、この前ライブやって様子を見て、2日間くらいはきつかったけど、少しずつ症状も収まり出すと思うわけ、それがうまくいったら来年にはまた、リハビリがてらって言ったらステージに失礼なんだけど、またライブやりたいなと、春あたりにできたらいいなと思ってます。(場内大拍手)
 
北里:モリヤンが言ったことと全く同じ。モリヤンの耳の次に北里や! とならないように足を引っ張らないよう健康にだけは留意します、頑張ります。(場内大拍手)
 
──モッズは変わらない、というのを二人が約束してくれました。
 
森山:後は、「エピック東京編」が出るかどうか(笑)。
 
──その時はまた、この後の話を読めると思います。
 

2SHOT.jpg

トーク後、集まった全員をバックに記念撮影を、その後にサイン会が行なわれた。

商品情報

Hey! Two Punks The Mods:The Early Days 博多疾風編

著者:森山達也/北里晃一
サイズ:A5判
ページ数:312ページ
定価:¥3,000(本体¥2,727+税)
ISBN:978-4-401-65545-8
発売日:2024年11月25日
発行:シンコーミュージック・エンタテイメント

amazon

【内容】
─メンバー自身が初めて明かす、THE MODSデビュー前夜までの知られざる物語─
1970年代、博多。多くの無名ミュージシャンが成功を目指して切磋琢磨していた土地で、2人の若者が運命的な出会いを果たした。バンドを解散して暗中模索の日々を送っていたシンガー、森山達也。彼に憧れていたベーシスト、北里晃一。海外から届いたパンク・ロックの波をキャッチした彼らは、新バンドの夢を最新のサウンドに託していく…。本書は2人が初めて書き下ろした自伝的エッセイ。これまでTHE MODSの硬質なイメージで覆い隠され触れられることがなかった東京進出までの涙と笑いの日々を詳細に、肩肘張らず語った内容は貴重。青春のすべてを音楽に賭けた若者たちが織り成す、リアルノンフィクション53篇!

このアーティストの関連記事

RANKINGアクセスランキング

データを取得できませんでした

休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻