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トップレポート大江慎也(ザ・ルースターズ)が三度目となる新宿LOFTでの生誕祭で鉄壁の布陣と共に魅せた圧巻のパフォーマンス、時空を超えて唄い継がれる不朽の楽曲群

大江慎也(ザ・ルースターズ)が三度目となる新宿LOFTでの生誕祭で鉄壁の布陣と共に魅せた圧巻のパフォーマンス、時空を超えて唄い継がれる不朽の楽曲群

2023.10.05

 ザ・ルースターズ(THE ROOSTERS→Z)のボーカル&ギターとして日本のロック史にその名を刻む大江慎也が、9月30日(土)に65歳の誕生日を迎えたことを記念して、デビュー以降43年来縁の深い新宿LOFTにてバースデイ・ライブ『大江慎也 AGE 65 ANNIVERSARY ~Don't Forget Love~』を同日に開催した。
 

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 大江が新宿LOFTで生誕祭ライブを行なうのは今回で3回目。ルースターズのメンバーやルースターズ及び大江の音楽に多大な影響を受けた後進ミュージシャンが大挙出演した2013年開催の『SHINYA OE à-GOGO 大江慎也 AGE 55 ANNIVERSARY〜大江慎也55歳就任記念日の儀〜』、2018年開催の『60 Years Old Thanks Live Shinya Oe Place Of Love~応援ありがとう~』のように多彩なゲストを迎えた華やかな祝宴形式ではなく、今回は“Shinya Oe & Super Birds”のワンマンとして開催。敢えてこのライブ形態にしたことは、単体のバンドによる単独公演として自身の音楽をじっくり聴かせたいという大江の意志が窺えたし、コロナ禍が完全に明けていない昨今では妥当な判断だったように感じる。
 

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 “Shinya Oe & Super Birds”は大江を筆頭に、ヤマジカズヒデ(gt)、KAZI(ds)、穴井仁吉(ba)、細海魚(key)から成るバンド。
 当初は大江、ヤマジ、KAZIの3ピース編成だったが(2019年3月に“大江慎也 With ヤマジカズヒデ&KAZI”として渋谷LOFT HEAVENでお披露目)、昨年(2022年)3月に下北沢Flowers Loftで開催されたライブ2daysに穴井細海がそれぞれゲスト出演したのを経て、正式に5人組バンドとなった。
 ルースターズ楽曲のギター・プレイについては本家の花田裕之からもお墨付きを得ているヤマジ(dip)、大江とは同郷で、薫陶を受けた先輩ミュージシャンからの信頼も厚いKAZI(ex.REDЯUM)、ザ・ロッカーズのベーシストとしてルースターズと鎬を削った穴井(“ROOSTERZ”最終編成、解散時のメンバーでもあった)、ヒートウェイヴやSION with THE MOGAMIのメンバーとしても知られる細海という鉄壁の面子が勢揃いしたバンドは、昨年10月の札幌ベッシーホール、同年同月に北九州市で行なわれた『高塔山ロックフェス』、今年6月のKOENJI HIGH(1月の振替公演)とコロナ禍に屈することなく着実にライブの機会を重ねてきた。

3G8A6090.jpg ルースターズ時代の不朽のレパートリーや『THE GREATEST MUSIC』を中心としたソロ楽曲をライブで披露する上で、大江が全幅の信頼を置く腕利き揃いのバンドだが、今回はその熟練布陣に加え、ルースターズ時代からの盟友である下山淳(gt)がゲスト出演したのが大きなトピックだった。下山は1983年6月にルースターズに加入し、花田裕之がボーカル&ギターを務めるようになった1985年夏頃から1988年7月の解散までバンドの屋台骨を支え続けたのはご承知の通り。
 余談だが、下山、穴井、KAZIの3人は大江の3回にわたる生誕ライブに皆勤出演したことになる。
 

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 9月30日(土)当日、新宿LOFTのフロアは鮨詰めの一歩前という程良い入り具合で、時折場所を変えて違う角度からステージを見られるのが有り難い。客層はルースターズと同時代を生き、彼らの音楽を糧としてきたと思しき40代後半から50代、60代が多い印象。緞帳代わりのプロジェクターが上がり、ローリング・ストーンズやルースターズのカバーでも知られるスリム・ハーポの「I'm A King Bee」がけたたましく響き渡るなか、定刻の19時半にメンバーがステージに現れる。

3G8A6256.jpg 1曲目は、ここ数年の大江のソロ・ライブでも欠かせないレパートリーの一つとなっている、B.B.キングとエリック・クラプトンの共演アルバムのタイトル・チューン「Riding With The King」(オリジナルはジョン・ハイアット)。“Super Birds”ではB.B.+クラプトン・バージョンよりも切れ味を増してテンポを早め、軽快なロックンロール色を強めている。6月のKOENJI HIGHも同様の始まり方だったが、大江にとっては自身をステージに馴染ませ、場内を温める一曲、ある種のお清めやお守りのようにも感じた。
 以前、筆者が大江に話を訊いたインタビューで「ソロでもルースターズでもライブではブルースを必ず1曲は入れることにしている」と話していたが、この日もブルースの古典をセットリストの随所に挟んでいたのは、大江にとって今なおブルースが音楽家としての原点であり還る場所であることの意思表示だったのだろう。
 

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 「Rosie」、「Case Of Insanity」、「Girl Friend」といった初期ルースターズのナンバーにはイントロが奏でられるたびに場内から大きなどよめきが起こり、大江は自らリード・ギターを遮二無二奏でながら高らかにシャウトする。「Case Of Insanity」のイントロ、アタックの一音が強い。楽曲本来の儚さとプレイの強靭さという相反する要素が共存、爆発して大江にしか醸し出せない歌に昇華するという唯一無二の大江ワールドをライブ序盤に早くも見せつけた格好だ。
 生粋のブルースマンとしてその凄みを発揮した「I'm A King Bee」で大江によるメンバー紹介。各自のソロ・パートを短く聴かせつつ、記名性の高いプレイの持ち味をそれぞれ知らしめた。
 
3G8A6416.jpg『THE GREATEST MUSIC』収録の「何処へ行こうか」が披露された後、この特別な一夜の最初のクライマックスが訪れる。「スーパー・ファイン・ギタリスト、下山淳!」という大江の呼び込みに応えて下山が現れ、フロアからさらに大きな拍手喝采が巻き起こる。
 

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 「大江くん、誕生日おめでとう! 初めて会った40数年前にはこんな日が来るとは思いもしなかった」と下山が語ると、大江はこの日、下山から誕生石をプレゼントされたことを照れくさそうに明かした。

3G8A5932.jpg ステージ中央に大江、前列上手にヤマジ、前列下手に細海、後列上手にKAZI、後列下手に穴井が佇むなか、下山は大江の左斜め後ろ、穴井の前方に陣取る。大江に近い下山、すぐ後ろの穴井という三者の構図は、その後の“ROOSTERZ”時代の楽曲が畳み掛けるように披露された際にとても感慨深いものがあった。あの時代、小滝橋通り沿いにあった新宿LOFTへ通い詰めたあなた、1984年の盛夏に『PERSON TO PERSON 7DAYS』を観たあなたもきっと同じ思いだっただろう。

0E1A1221.jpg0E1A1350.jpg 「Good Dreams」という楽曲はイントロが奏でられた瞬間にあの時代へ戻ることのできる、文字通り“不思議な魔法にかかったみたい”なナンバーだ。素敵に色どられたこの夜が、一層色どりを増していく。続く「Venus」はリハーサル時、ヤマジが大江に「このイントロは僕と下山さんで弾いていいですか?」と直談判していた。原曲である「I'll Be Eyes」の忠実な再現バージョンとでも言うのか、いつもは大江が弾いているパートをヤマジと下山が弾き分けたのは実に的確なジャッジで、「Venus」本来の気高く甘美な妙味や夢見心地さが増し、万華鏡のように色彩豊かで瑞々しい中期ルースターズが残した楽曲の普遍性を感じずにはいられなかった。その思いは、尋常ならざる躍動感と鋭さを湛えた「ニュールンベルグでささやいて(In Nürnberg)」(ぼくの隣でオリジナル・キーボーディストの安藤広一が楽しそうに身体を揺らしていた)、叙情性と哀愁に満ち溢れた「Sad Song」と続く不朽の楽曲を聴いても揺るがず。個人的にも非常に思い入れの深い中期ルースターズ屈指のレパートリーが他でもない大江と下山によって唄い奏でられる至福に酔いしれることができた。
 

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 なお、「Venus」では大江が二番の平歌を飛ばしてサビを唄おうとするハプニングもあったが、動じずにどっしりと構えて演奏をキープする“Super Birds”の安定感もさることながら、大江と共に次のサビを大合唱するオーディエンスの一体感もまた素晴らしかった。ライブとはまさに観客と共に作りだすものであり、いざとなれば大江を支えようとする頼もしい同志が数多く健在であることを実感する。
 さらに言えば、「Venus」のアウトロ、「In Nürnberg」の間奏、「Sad Song」のアウトロで聴かせたスリリングなインプロヴィゼーションは原曲の世界観を損なうことなくその特性を高めるもので、“Super Birds”+下山の熟練した手並みには感嘆のため息が何度もこぼれた。
 

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 下山が舞台袖へ捌けた後は「Stream Of Fun」、「Go For The Party」と『THE GREATEST MUSIC』の重要曲が続く(ルースターズの楽曲はサブスクリプション・サービスへの配信が未整備のままだが【追記:ルースターズの全アルバム&12インチ13作品・118曲の楽曲が11月1日(水)より配信開始されることが10月18日(水)に発表された。詳細はこちら】、2006年3月発表の『THE GREATEST MUSIC』は2019年7月に配信リリースされている。大江のソロ名義ではあるが、実質的にルースターズのオリジナル・メンバーによる25年ぶりのスタジオ録音作品なので未聴の方にはぜひお勧めしたい)。「Stream Of Fun」の終奏では「今日は来てくれてありがとうございました。皆さんのおかけで65歳を迎えることができました」と大江がオーディエンスに感謝を述べる場面も見られた。

3G8A6286.jpg 初期ルースターズの人気曲「Let's Rock(Dan Dan)」でフロアをさらに沸かせ、大江の生きる信条を歌詞に込めた「I Dream」と追い打ちをかけ、本編最後はジェフ・ベック在籍時のヤードバーズやMC5、ルースターズのカバーでも知られる「I'm A Man」(オリジナルはボ・ディドリー)。流麗かつ性急な終盤のヒートアップだ。開演からここまで一気に80分、全15曲を弛緩することなく聴かせるバンドの技量は実に見事だった。
 

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 アンコールでは新宿LOFTのスタッフからバースデイ・ケーキ(ヤマジが描いた“Super Birds”のイラストが添えもののクッキーにプリントされた特注品)が贈呈され、受け取った大江は「65になって老体で東京へ来るのはキツい。でも今日は楽しんでね」と自虐的なユーモアを交えながらコメント。傑作『DIS.』の冒頭を飾るネオサイケデリック・ナンバー「She Broke My Heart's Edge」のイントロをヤマジが奏でただけで体温がグッと上がるのがわかる。原曲の豪快なリズム&ビートがさらに迫力を増した「We Wanna Get Everything」を電光石火の速さで聴かせ、大江が再び下山を呼び込む。あらためて言うまでもないが、下山が加わった6人編成の“Super Birds”はとても画になる。ギタリストとしての才能ばかりではなく、天性の華みたいなものが下山に兼ね備わっているのだろう。
 

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0E1A1813.jpg アンコールの最後に披露されたのは、安藤広一いわくイントロはミサイルをイメージしたという(ミサイルが飛んでいる音をシンセサイザー・ギターで演奏)「C.M.C.」。“1984”のメンバーだった安藤と下山がルースターズへ合流した頃の大きな転換期を象徴する人気曲だ。日本のロック史に燦然と輝くこの名曲が当初「夏休み」というタイトルだったのは意外なエピソードだが、“磯ガニ”というロックとは程遠い言葉が歌詞に使われたところに名残があると言える。非ロック的なものを無邪気な感性でロックに昇華させる、あるいは、われわれがロックに対して抱く概念を敢えて外す大江の卓越したセンス、類稀な表現力にはやはり天賦の才を感じずにはいられない。そうした資質は今も変わらないし、この日は彼の作曲家としての特殊性、ユニークさを今さらのように実感できた。
 

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 バンドがステージを去った後もアンコールを求める拍手と歓声は鳴り止まず、ダブル・アンコールに応えた大江が一人登壇。“Super Birds”のメンバーを一人ずつ呼び込み、紹介していく。普段はクールな細海が、呼び込まれて背後から大江に抱きついたのは大江も驚いていたが、それほどメンバーにとっても楽しく充実したステージだったのだろう。
 下山も含めた全メンバーの紹介を済ませた後、「次の曲をこのメンバーでやったことは一度もない」と大江が語って披露されたのは、腑抜け野郎の脳天をたたき割るような疾風怒濤の「恋をしようよ」。そこから間髪入れず、否応なしに高まるテンションと場内の熱気をさらに上昇させるようにドクター・フィールグッド経由のチャンプスが原曲である「Tequilla」が掻き鳴らされ、ライブはこの日何度目かのクライマックスを迎えた。

3G8A6424.jpg 「平和で、音楽が楽しめて、自分の夢を見てください。今日はどうもありがとうございました。皆さんありがとう。皆さんがいるから僕は音楽ができるんです」
 満場の観客へ向けて大江が感謝の念を伝えた後、イギー・ポップの「Tonight」(デヴィッド・ボウイとの共作)の荘厳かつメロディアスなイントロが鳴り響く。コーラスは下山だ。大江と下山、それに「Tonight」と来れば、下山のルースターズ加入当時に行なわれた、大江がライブ復帰する場でもあったイギー・ポップとの日本青年館でのライブ共演、あるいはラフォーレ・ミュージアム赤坂で行なわれた『パラノイアック・ライブ』を想起してしまう。
 “Everyone will be alright tonight”(今夜はいい夜だ、心配事も問題も何もない夜だ)
 そう、まさにいい夜だ。ルースターズという傑出したバンドを牽引し続けた大江慎也の生誕を同志と共に祝える、またとない一夜なのだ。10年前、5年前の9月30日に続き、大江の三度目の生誕祭に参加できた喜び、彼と同時代に生きる喜びをあらためて噛み締め、「ありがとう!」という最後の大江の挨拶の後、終演後のBGMとして流れた「I Dream」を聴きながらその余韻に浸った。終始どっぷりと夢中でいられた満足の100分強、全21曲だった。
 

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 80年代後半から90年代初頭にかけて発表されたソロ名義の作品群は本意ではないものだったという本人の認識ゆえに、ライブでの披露は望むべくもないが(唯一の例外として、5年前の還暦ライブでは『PECULIAR』収録の「Get Happy」が披露された)、今回のライブは大江が自身のキャリアを総括するように精選されたオールタイム・ベストのセットリストだったことがわかる。その中でも大江の音楽人生において重要なポイントだったのが、今回、下山がゲスト参加したルースターズ中期の珠玉のナンバーであることは言うまでもない。
 ルースターズが仮に3作目の『INSANE』を発表した後に瓦解していたとしても、それはそれで福岡生まれのロックの至宝という文脈でバンドの存在が語り継がれていただろうが、海外のニュー・ウェイヴに刺激を受けて咀嚼した音楽を基軸とし、“Ø”=何処にも属せない、空集合の音楽性を体現したバンド中期の展開があったからこそ、ルースターズは“めんたいロック”という狭義のカテゴライズから解き放たれ、結成から43年が経過した今なお新たなファンを生み続ける稀有なバンドとして支持されているのではないか。バンド名の語尾のスペルを“S”から“Z”に変えた時期、大江が自身の精神不調と対峙しながら紡いだ至高の楽曲はもちろんのこと、彼が書き残してきたレパートリーの数々に新たな息吹をもたらすバンドとして“Shinya Oe & Super Birds”以上の存在は今のところないだろう。それに、不滅のルースターズ・ナンバーを今に伝え、唄い継いでいけるのは大江本人しかいない。
 

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3G8A6465.jpg エバーグリーンの音楽を伝承していくのが福岡の音楽文化の真髄であるし、大江には若い世代も視野に入れたライブ活動をぜひ精力的に続けてほしい。そしてまた5年後、古希を迎える際には新宿LOFTの市松模様のステージに立ってくれることを望む。大江にとってリズム&ブルースが常に自身の還る場所であり原点であるならば、彼のピークはまだ先であるはずだ。年齢を重ねれば重ねるほど円熟味が増す醍醐味こそ、ブルースの特性であり面白さなのだから。(Photo:三浦麻旅子 / Text:椎名宗之)

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