第二回純喫茶マスター大集会(2019年12月1日)
【純喫茶マスター】
有楽町 ローヤル・野山さん、
神保町 トロワバグ・三輪さん、
亀戸 侍・春日店長、
高円寺 ルネッサンス・岡部さん、檜山さん
【純喫茶コレクション】難波里奈
アデリアレトロ
キリモト:江戸時代くらいから続く長寿のメーカーになってまして、私たちの働いている愛知県の尾張地方っていうのが、喫茶店発祥の地と言われてまして、純喫茶にまつわるイベントに呼んで頂いて、すごくご縁を感じております。
難波:こちらこそありがとうございます!
キリモト:私たちが作っている「アデリアレトロ」がなんなのかと言いますと、ポップなお花柄のグラスをおばあちゃんの家とか、ご実家で見たことあるよって方いらっしゃいますか? …あ、すごい! こんなにたくさん! ありがとうございます。弊社が古いという話ともつながるんですけど、1970年くらいに弊社で実際に作っていたものでして、この花柄が大人気だった時代があったんです。それから残念ながら途中で生産終了ということになってしまったんですけど、SNSを通して「まだこのグラスが愛されている」「結構、マニアの間で人気だよ」っていうのが耳に入って来まして、女子社員数名で「これは作った方が良いのでは?」となり、去年から企画を立ち上げました。最初は、使っていた世代の男性社員とかから「ダサいから売れないよ」とかすごい言われて、もうダメかもと思ったのですが、難波さんや他のレトロファンの方に支えられて、去年テストマーケティングをしてから、今年、晴れて一般に売らせていただけるような形になりまして。本当に皆様ありがとうございます。
難波:やっぱり可愛いですよ、今見ても、とっても。
キリモト:最初は1柄でやっていたんですけど、今回は当時人気だった4柄を復刻しました。形は今の物なので、使いやすさも重視されています。Instagram(こちらをクリック)の方ではこういう風に使ったら可愛いよ、とか、当時のカタログでこういう柄が昔はあったんだよ、という紹介もさせていただいておりますので、是非ご覧ください。
難波:今日は阿佐ヶ谷ロフトAさんにクリームソーダを入れて頂きましたけど、あとはどんなものを入れるのがおすすめですか?
キリモト:難波さんに事前にプレゼントさせていただいたんですけれども、その時に撮っていただいたレモンスカッシュの写真がめちゃくちゃ可愛いな、と思って。さすが難波さんと思いました!
難波:グラスの可愛さあってこそなので…今後もシリーズは出たりするんですか?
キリモト:そうですね、今後も第三弾を考えておりますのでご意見がありましたら、是非…
難波:「昔、持っていたこれを再現・復刻して欲しい!」とか。
キリモト:そうですね。直接お声を聞けることって、私たちはなかなかないので、貴重なご意見をお願いします!
難波:今日は本当にありがとうございます! アデリアレトロのキリモトさんでした。本日、出演を予定していた『大久保・ツネ』の山田さんなんですけれど、数日前に確認をしたところ、体調があまりよくないので今日は断念したいということで、残念ながら欠席となってしまって、楽しみとされていた方は申し訳ございません。でも大久保のお店はまた明日からやっていますので、是非お店に会いに行ってください。『大久保・ツネ』の山田さんのことでお話ししたいことが一つあって、コーヒーに「美味しい、美味しくない」はなくて「好きか、好きじゃないか」その人の好みだっていう話をカウンターで話してくださって。その考え方は、私が平和主義というかあんまり対立したくないという思いがあるから賛同しちゃうのかもしれないですけど、誰かの好みを否定するんじゃなくて、誰にでも好きなものはあって、自分とは違うけど、そういうものもあるんだっていう考え方は、他の方にも活かせるんじゃないかなと思ったので。ほんとうに『ツネ』さんのお話を伺いたかったんですけど、カウンターに行けばたくさんお話ししてくださると思うので、是非、皆さん美味しいコーヒーを頂きに『ツネ』に行ってみてください。
『亀戸 侍』の春日店長
難波:それでは、1人目のマスターをお呼びします! 『亀戸 侍』の春日店長、お願いします!
春日:(「侍」と書いたうちわのようなものを持って登場)
難波:なんですか、それ!?
春日:写真用に今日のために作って来ました。
難波:素敵!
春日:目立ちたがり屋なので、すみません(笑)。
難波:春日さん、今日はよろしくお願い致します。
春日:よろしくお願いします。ほんとうに今日、すごく楽しみにしていました!
難波:では『亀戸 侍』の説明をお願い致します。
春日:皆さん亀戸ってご存知でしょうか? あんまりご存知ない方の方が多いかな? 錦糸町と新小岩の間にある町で、そんなに都内では有名ではないんですけど、学業の神様を祀っている『亀戸天神』というところがとりわけ有名で、下町情緒あふれる町です。『亀戸 侍』はそこで約40年ほどやっている店です。東口を降りると徒歩5秒で行けるような、地元の方々に支えられながらやっているお店です。
難波:2階なんですけど、入り口から大きい看板とミルを模した大きなオブジェが置かれているので。しかも、「珈琲道場」ですからね(笑)。いやでも目に入りますよ。
春日:扉を開けていただくと、すぐ甲冑が構えていて尻込みする方が多いですけど、女性の方とかは一緒に写真を撮ったりされているケースが多いですね。
難波:店内はさらに特徴が色々と…
春日:入っていただくと長いカウンターがありまして、そこに10脚ほどロッキングチェアを配置していて皆さん思い思いに揺られながら楽しむというお店ですね。初めていらっしゃる方でも、テーブルとかなんとなく行かれるケースが多いんじゃないかなと思うんですけど、うちの場合だと、カウンターに吸い込まれるように座られる方が多いですね。
難波:喫茶店って1人で行くと周りの方との距離感だったりとか緊張するじゃないですか。でもロッキングチェアだと守られている感がすごくあるんですよね。結構空間も広いじゃないですか。寄っかかってしまうと周りもあんまり見えないので、最初は緊張するんですけど、だんだん我を忘れてユラユラしてたりしますね。
春日:ほんとうに、ずっとずっと揺れてる方がいらっしゃったりとか、「これどこまで揺れるんですか?」なんて言って思いっきり揺らす方とかもいらっしゃるんですけど。
難波:テレビで壊されちゃったこともありますよね(笑)。
春日:そうですね。前にテレビで芸人さんがいらっしゃったんですけど、そのうちの1人の方が結構激しいネタをする方で、「ああ、倒れませんね!」と言いながらも思いっきり揺れて倒れちゃいまして。その時だけですね、40年で唯一、ロックングチェアが壊れちゃった…なんてこともありましたけど(笑)。基本的には倒れませんので、安心して揺られて欲しいなと思いますね。
難波:メニューとかコーヒーにもとても特徴があって、名前が全部、面白いですよね。「侍カレー」とか「将軍ハンバーグ」とか。
春日:やっぱりお店のコンセプトが“和”でして、店内のオブジェも刀とかお茶の釜とかそういったものが置いてあるんですけれども、メニューの方もそれに倣ってじゃないですけど、インパクトもありますし、そういった名前で提供させていただいています。
難波:水出しコーヒーにとても力を入れてらっしゃって、前に聞いた話だと、作るのに8時間以上かかるので、夏場とかはたくさん出るじゃないですか。だからお店に寝袋を持ってきて寝ずの番をしているとおっしゃってましたよね。
春日:そうですね。お店の営業時間は限られているんですけれども、その中でできる回数は決まっちゃっているので、どうしても夏場はアイスコーヒーはたくさん出ますから。そういう時はマスターに「寝ずの番で8時間、面倒を見てもらっていいですか」っていうことはありますね。
難波:春日店長の上に近藤マスターという方がいて、その方が創業者の方なのですが、すごく面白い方で。『侍』の特徴としては、春日さんは見ての通りなんですけど、店員さんが全員イケメンなんですよ。ほんとうに、いろんな種類のイケメンを揃えてますよね。
春日:好みに合わせて…(笑)。
難波:ちょっと体格の良い人がいたり、濃い目のお顔の方がいたり…そこのトップを飾る近藤オーナーは最高で「あ、今日はちょっと化粧ノリが悪いから写真は撮らないで!」とか言ったりするんですけど、本当に良い方ですよね。
春日:こういう風に言われるとハードルがものすごく上がって、あとでマスターも困ることになるんじゃないかなと思うんですけど(笑)。でも本当にマスター目当てでお話を聞きに来る方とか、イケメンを見たいからということですごく多くてですね、「『侍』の売りがそれしかないんじゃないか」っていうような話をいつもしています。「コーヒーがおいしいとか、ロッキングチェアがあるとか、それ全然、売りじゃないんだよ」って(笑)。
難波:コーヒーももちろん力をいてているんですけど、『侍』さんはビールも出されています。これは特徴は…?
春日:お店の近くに小さな自ビール工場があるんですけど、そこにお願いしてオリジナルで作ってもらってるんですね。「コーヒー屋だからコーヒービールなんですか?」とよく聞かれるんですけど、コーヒービールではなくて、飲みやすいビールに仕上げて、女性の方とか好んで頂けるような味わいになっていて、小麦を使ったビールなんですけど、すごくフルーティで苦味の少ないタイプになってます。
難波:サイズもちょうどいいですね、飲みやすくて。「ちょっと一杯飲んで行こうかな」なんて時にカレーとビールいいかもしれないですね。
春日:その組み合わせの方、すごく多いですね。
難波:『侍』は売りがいっぱいあって、10分では説明しきれないほどなんですけれども、お店で大切にしていることはなんですか? 近藤さんの、というよりも、春日さんがお勤めになって、の。もともと別の企業に就職が決まっていたのに『侍』に入って、「俺の道はこれだ!」とそちらを辞めて『侍』に就職されたという本当にコーヒーに惚れ込んでしまったんですよね。
春日:今、『侍』の方には20年ほど勤めているんですけれども、今おっしゃっていたように、大学4年生の時ですね。内定が決まっていて、時間が余っているという時に、友達と「コーヒー飲みに行こうよ」という話で訪れたのが『侍』だったんですね。そこで「おいしいコーヒーを飲んでみな」と勧められて飲んだのが水出しコーヒーだったんですけれども、その時に味わった感動がものすごくて。今まではファミレスとかの飲み放題のコーヒーばかりでそんなにこだわりもなく、「ただ飲めればいいや」という感じだったんですけど、あまりの美味しさでその場で「なんでこんなにおいしいんですか! どうやって作ってるんですか! よく見たらすごくいいお店ですね」とお話をすごく沢山、聞いてたんですよ。そしたら、「お前ちょっと面倒くさいからあっち行け」とテーブルに移されたんですね。そこから急に面接みたいな感じになっちゃいまして(笑)。
難波:引き抜きですね!
春日:1時間くらい話を聞いてるけど『侍』の就職面接みたいな感じでそのまま流れで入社しちゃったみたいな(笑)。
難波:なかなかないパターンですよね。
春日:コーヒー一杯の感動の味が自分の人生を変えたエピソードなんですけれども、自分の味わった感動を皆さんにも味わっていただきたいなということを日々心がけています。
難波:春日さんがお店にいる時に就職活動中の学生が来て『侍』のコーヒーを飲んで人生変わっちゃってそのまま勤める人もいるかもしれないですね。
春日:マスターと同じことやっちゃうかもしれない(笑)。
難波:是非、何やったらいいかわからないなって人は『侍』に一度行って、革命をうけてみてもいいかもしれないですね。もちろん社会人の方も大歓迎ですよね? 新しい人生もありですからね。『侍』に明日以降、皆さん行かれると思うんですけど、来られる方に一言お願いします。
春日:冗談を含めてお話ししちゃいますけど、家族経営でやっているお店ではないんですね。よくお客さんに「顔が似てますけど家族なんですか?」って言われるんです。そうすると隣にいる女性スタッフが私と同じくらいの年齢なんですけど、「お母さんですか?」と言われて結構ショックを受けてることがあるので、それは聞かないでいただいて(笑)。純喫茶として紹介されるお店ってものすごく長くやっているお店が多いですし、未だに現役でマスターの方は立ってますのでそこにコーヒーを飲みに行くだけとか、本を読みに行くだけではなくて、お店の方々のお話を聞いてみたりとか、そういうものに触れていただいて。コーヒーの甘味とか酸味とか苦味とかあるじゃないですか。それプラス人間味を味わわせてくれると思うので、そこも楽しんでいただければなと思います。
難波:すごい! すばらしいです。ありがとうございます。
『高円寺・ルネッサンス』岡部さん、檜山さん
難波:イベントどころかメディアに顔出しが初めて、と先ほど楽屋でお話ししてくださったんですけれども、『高円寺・ルネッサンス』岡部さん、檜山さんがいらっしゃってます。よろしくお願いします!
岡部・檜山:よろしくお願いします!
難波:お二人はずっと顔出しは断られていたのに、このイベントには即「出ます!」とお返事くださって。ありがとうございます!
岡部:難波さん故です! 色んな喫茶店ファンの方がいらっしゃってくださるんですけど、難波さんはずっと気に掛けてくださっているのを、こちらもひしひしと感じて。難波さんの依頼だからこそ受けました。
難波:泣いちゃいそう…
岡部:前にテレビの取材もあったんですけど、それもやっぱり難波さんからのお話で。愛を感じて(笑)。
難波:ありがとうございます! いつもお店は1人ずつ立たれているので、おふたり揃うのが…おふたり自体も久しぶりだっておっしゃってましたよね。
檜山:半年ぶりくらいです。
難波:中野にあった伝説の喫茶店『クラシック』でおふたりは働かれていて、そこが閉店するという時に、店内にあったものを全て引き取って大事に保管されて、改めてお店をオープンされたんですよね。
岡部:『クラシック』が閉店すると決まった時に、私たちにとって愛着のあるものがなくなってしまうことが切なくて。
難波:何年くらい働いてらっしゃったんですか?
岡部:彼女(檜山)は、私が入る前から…『クラシック』の今のマスターが働いていた時代からなので、10年くらい差があって。
檜山:『クラシック』の閉店の時に一緒にいて。
岡部:「このお店のものを全て引き取っていつか一緒にお店を開けたらいいね」っていうのを話していました。
難波:それは直感でおふたりでやろうって決まってたんですか?
檜山:いや…「もったいないね」って言ってたのが私たちだけで。他のスタッフは違う生活に…という感じで。
難波:『ルネッサンス』すばらしいんですよね。あの内装を今ちゃんと保ってくださっているということに、行くたびに私は涙が出そうになるんです。『クラシック』の閉店から『ルネッサンス』の開店まで2年…内装のあれだけのものをどこに保管されていたんですか?
檜山:私の兄の和室1部屋にブルーシートを敷いて天井まで積み上げたんです(笑)。
岡部:一般人からしたらゴミなんですよ、はっきり言って(笑)。
難波:その2年間、人前に出るのを待っていたかのように今『ルネッサンス』の家具キラキラしてるじゃないですか。こんなに大事にされてて、本当に家具が生きてるし、空間も生きてるし、本当にあそこに行くと地下なのに暗い感じがしなくて元気が出るのは、おふたりの隅々までの愛情を感じますね。
檜山:お店を始めて、あの家具を全部入れた時に匂いが帰ってきたのをすごく今でも覚えています。
難波:配置とかはおふたりで決めていたんですか?
岡部:『クラシック』を解体する時にお願いした大工さんにそのまま再製していただきました。もともと、『クラシック』の内装の修理とかをしてくださっていた方だったので。
檜山:わざと綺麗に再現しすぎず、新しくもしすぎず、っていう緩さもわかってくださる大工さんにお願いして作っていただいたので。
難波:じゃあ大工さんとおふたりの力が重なってできた空間なんですね。本当に『ルネッサンス』に行くと心が落ち着くんですよね。
岡部:ありがとうございます。今日、『クラシック』のお客さんで「行きます!」ておっしゃってくれた方がいました。すごく個人的な話なのですが、彼女(檜山)はすごく柔らかい人なんですけれども、私はけっこう素っ気ないっていうか。そんな私に「頑張れ」とか言ってくれるお客さんが今、この場にいると思うと本当に嬉しくて。
檜山:ありがたいですね。
岡部:そういえば、ここは阿佐ヶ谷ロフトAになる前は古本屋だったんですよ。その時、私は閉店まで働いていて。こんな感じになってるんだ〜ってすごい見渡しちゃいますね。
難波:名残とかはあるんですか?
岡部:全くないですね!
難波:じゃあ数年ぶりに戻って来られたんですね。
岡部:すごい感慨深いですね。
難波:今日はお店はお休みですけど、普段はお昼の12時から。どちらがいらっしゃるんですか?
檜山:平日は私です。
難波:土日は岡部さん?
檜山:土曜日までが私です(笑)。
岡部:日曜と祝日が私です。
難波:なるほど。じゃあみなさん、おふたりに会うために毎日行ってください(笑)。
岡部:私は愛想がないと思いますけど…
難波:そんなことないですよ! 名曲喫茶なので、普段、喋りたくても喋れないじゃないですか。
岡部:でもどうなんでしょう、皆さん接客に関して…私がお客として入る時には覚えられると嫌なんですよ。だから私もお客さんを知らない素振りをするんですよ。そこが今の接客の難しいところだなと思います。
檜山:好きなように放っておくっていうのが共通するスタンスなので。
難波:では『ルネッサンス』にこれから来る方に一言お願いします。
檜山:私たちこんななんですが、もしこ来られても、素っ気無い態度だとは思いますが、悪い風には思っていないので、お互い良い距離を保ちながら…よろしくお願いします!
有楽町『ローヤル』野山さん
難波:有楽町『ローヤル』の野山さんです。今日はありがとうございます。こういうイベントは緊張しますか?
野山:いやいや、毎日お客さんいたりするから大丈夫です。
難波:ではまず自己紹介とお店の説明をお願いします。
野山:有楽町交通会館『ローヤル』の野山と申します。よろしくお願いします。うちの店は54年になりまして、本当に純喫茶そのもので内装も全然変わってません。昔風の本当のお店ですので、一度ご来店ください。
難波:野山さんは何時ごろ行ったらお会いできるんですか?
野山:僕は大体お昼から出てます。
難波:野山さんは『ローヤル』に勤めてから何年くらいですか?
野山:今年で24年目ですね。僕はあの辺、丸の内とか銀座、日本橋…とあちこち勉強のために歩いてきました。
難波:喫茶店がすごくお好きで、お休みの日は他のお店に足を伸ばしたりされてるんですよね。
野山:休みの日は大体2、3軒、喫茶店を回ってます。
難波:気に入ったお店とかあったらこっそり教えてくれませんか?
野山:そうですね…上野に1軒うちと同じような作りのお店がありますよね。
難波:『ギャラン』かな…?
野山:『ギャラン』は昔とちょっと変わりましたよね。
難波:皆さん一律の制服を着て…
野山:年齢層が若くなりましたよね、あそこは。昔はもっとゆったりした落ち着いた感じのお店だったと思いますけど、今風になりましたね。
難波:駅から近いのでとても行きやすいのと、1階から見えるじゃないですか、窓があって。なので入りやすかったりもするんですかね。
野山:あそこは時間制限がありまして、気をつけないと出されちゃいますから(笑)。
難波:『ローヤル』さんは時間制限はないんですか?
野山:うちは一応3時間までと…
難波:長いですね!
野山:商談とかそういう方の方が多いものですから。
難波:『ローヤル』さんは地下にあるんですけど、空間が区切られていますが、今、席数はどのくらいあるんですか?
野山:少し、減らしまして。110席くらいですかね。
難波:すごい! 有楽町で喫茶店に困ったら『ローヤル』さんに行けばとりあえず入れますね。奥の空間もすごく素敵で、手前はちょっと照明を落とした感じの落ち着いた内装で…
野山:でもあれで明るくなった方ですよ。
難波:えっ!? そうなんですか?
野山:昔はもっと照明を落としていて、夜になるとポールのところのランプが点いてたんですけど、今はもう古くて使えません(笑)。
難波:その辺については私の著書の「純喫茶の空間」に詳しく書いてあるので皆さん買ってください(笑)。『ローヤル』さんは働いてる方も外国の方とか、いろんな方がいらっしゃいますよね。
野山:お客さんとしては、土日祭日は遊びに来た方…映画館とか、そういうところの帰りに寄るとか、あとは会社のOBさんが集まる…そういう関係が多いですね。平日はほとんどサラリーマンの方とか、打ち合わせとか。
難波:雑誌でもテレビでもすごく露出されてるじゃないですか。
野山:そうですね。いちばん印象的なのはNHKですよね。NHKの朝の番組で、当時のアナウンサーだった有働さんの番組で具志堅用高さんが来まして…
難波:似てるって言って…(笑)。おふたりの写真を見た時に、ずっと心の中にあったつかえが取れた感じがしました(笑)。『ローヤル』は食事も豊富ですし、雑誌とかで見栄えの良いものがいっぱいありますよね。ハニートーストとか。
野山:やはり昔のパフェとかフルーツサンデーとかクリームソーダとか…皆さん好きですよね。そういう方がけっこう来てますよね。
難波:若い女性もいっぱい増えましたもんね。野山さんに会いに来る方もどんどん増えてますもんね。
野山:いえいえ…ただ、うちのお店としては私もそうですけど、従業員も、なるべくお客さんに一声かける。挨拶をするとか、「今日は暑いですね」とか「寒いですね」とかいろんな声をかけて親しくやっていく…そういうのを大切にやってます。
難波:有楽町という場所柄もあるんですかね。サラリーマンの方が昔はとっても多くて、やっぱりちょっとした挨拶が嬉しかったりだとか。「人に会いに来る」ってうのも喫茶店の大きな魅力だと思うんですけど、『ローヤル』さんはそれぞれのおじさまウェイターさんたちにファンがついてますもんね。店員さんはほぼ男性さんですか?
野山:男ばっかりです。
難波:そうですよね、皆さんビシッとベストをきたおじさまたちがカッコよく持ってきてくださるので、「これぞ喫茶店!」という後継で、ほっとしますよね。
野山:まあおじさんばっかりなので(笑)。よろしくお願いします。
難波:野山さんはお忙しいとのことで、このイベントが終わった後、お店に立たれるそうなので、皆さん着いて行ってください(笑)。では今後『ローヤル』さんに来るお客さんに、何か一言お願いします。
野山:お店が昔の作りですけど、かなり凝った作りをしてますので…先代の趣味でやってて、お金がかかったみたいです(笑)。その雰囲気とか、ウェイターとか、いろいろ見てもらえれば。そしてコーヒーなり紅茶なりを味わってもらえればいちばん嬉しいと思います。よろしくお願いします。
神保町『トロワバグ』三輪さん
難波:神保町『トロワバグ』の三輪さんです。三輪さんはメディアにたくさん出られているので、お顔を見たことある人も多いんじゃないかなと思います。
三輪:よろしくお願いします。
難波:では三輪さん、まずはご自分とお店の自己紹介をしていただけたらと思います。
三輪:1976年に私の母がはじめまして、『トロワバグ』と申します。神保町の交差点の本当にすぐの地下のお店なんですけど、母が亡くなって私が継いで42年目…になったかな。うちのお店はとにかくコーヒーがいちばん変わらずにずっとやっていて、オールドビーンズのネルドリップをやっています。そこは変わらずに。あとは、いろんなところで紹介していただいている、母が考案したグラタントースト。その2つが変わらないメニューで引き継いでやってます。
難波:三輪さんとは付き合いも長くて、プライベートでもご飯を食べにいくほど仲良くさせていただいていて、つい先日も一緒に餃子を食べに行ったりもしましたね。
三輪:楽しかったですね。
難波:やっぱり女性の店主がまだ少ないじゃないですか。喫茶店に入りづらいなって方は、本当はみんな優しいんですけど、やっぱり一見、入りにくさっていうのは、男性店員さんの「コーヒー飲めんのか?」みたいな、ちょっと威圧的なものを最初は感じちゃう人はいるかもしれないんですよ。慣れると全然そんなことはないけど。私も喫茶店巡りを始めた頃に、三輪さんがいらっしゃるということにすごくほっとして、「ひとりで座れるな」って思った初めてのお店だったんです。
三輪:里奈ちゃんが学生の頃からうちのお店に来てくれていて、私は、ひとりの女性が来てくださると嬉しいので話しかけるんですよ。里奈ちゃんは全くこの通りの風貌でカウンターに座るんですね。恰好も変わらないよね。レトロな感じのまんまで。当時はそんなに「喫茶店が好き」という女の子はいないんですよ。それで、いろんなところに行った話とかもすごく詳しくしてくれて、ま〜あ変わった大学生だったわね(笑)。
難波:それですごくお話をしてくださって、私がその時、前の会社を辞めたタイミングとかで、動物とかの写真を撮ってポストカードを荻窪の『6次元』というお店で展示をしたり販売をしたりしていた時に、三輪さんがすごく気に入ってくださって、買ってくださったりとか…そんな、喫茶店と全然、関係ないところも経たりしてますよね。
三輪:その時から里奈ちゃんはすごくセンスが良くて、なんか廃墟の写真とか撮ってるんですよ、若いのに。私もなかなか変わってるんですけど、すごい「この子、変わってんな〜」って思った。そこからすごく、世代を超えて仲良くしてますね。
難波:そうですね。ご飯の趣味も同じだし、お酒もお互い飲めるので、一緒にワイン飲みに行ったりとか。でもその時に全く自分たちのプライベートな話をしないで、ほぼ喫茶店の話をしてるっていう(笑)。
三輪:そうなの!(笑) ふたりでワインを飲みながらずっと喫茶店の話をしてるんです。
難波:喫茶店がどうして素敵か、どこが好きか、喫茶店の今後とは? 未来とは? みたいな、本当にそういう話しかしてなくて、どこに住んでるとか何歳とか普段、何をしているとか全く知らなかったですよね。
三輪:喫茶店の話でいつまでも飲めるんですよね。
難波:本当に5時間くらい喫茶店の話をして帰ります。『トロワバグ』さん、グラタントーストはもちろんなんですけど、コーヒーも本当にこだわってて、私とっても好きなんですけど、コーヒーに対するこだわりなんかも聞いてもいいですか?
三輪:はい。コーヒーは、皆さんご存知の方多いと思うんですけど、『コクテール堂』っていうオールドビーンズ専門の業者さんからうちは焙煎したものをずっと届けてもらってるんです。オールドビーンズは、生豆のまま3年くらい寝かせたものです。松木新平さんのインテリアが今も残っている喫茶店は『コクテール堂』さんを使っているところが多くて、それをうちは敢えてネルドリップをしてるんですね。今ネルドリップしてるコーヒー屋さんってすごく減っている…まあ最近ね、若い方がネルドリップでやられている方も多いんですけど。取り扱いが繊細で難しいので…ただ、すごくいいことがあって、それはその時その時で味が全く違うんですね。その時の季節とか温度とか気候とか、あとは、私のコンディション。私が調子悪い時にドリップすると、お客様が「今日、調子が悪いんじゃない?」ってすぐわかってしまったり、すごくメンタルが出るものなんですよね。だから一杯一杯、気持ちを込めてドリップするっていうのがネルドリップの良さだと思うんですよ。それをうちの母からずっと続けているので、これから先も続けていきたいし、独特の香りが出ますので、それがあるコーヒー店すごく少ないと思うんですよ、今。
難波:すごく減ってきていますよね。あっさりしているところが増えてきていますよね。
三輪:そうなんですよ。デミタスカップでお出しするんですけど、オールドビーンズ・ネルドリップ・デミタスカップっていうのが絶妙なバランスで。そこがすごく大事なのと、ドリップすると時間がかかりますよね。コーヒーをオーダーして出てくるまでの時間を楽しんでほしい。喫茶店に入って、1杯のコーヒーを頼んで、人の手を通して作られたものを待っていただく。その時間を過ごしていただくことが…今、とっても忙(せわ)しい時代ですから。ゆっくり時間を過ごしていただくことも喫茶店の大事な役割だと思ってます。
難波:喫茶店の扉を開けてから帰るまでは、コーヒー1杯分の値段で買っているようなものじゃないですか。なので今、三輪さんがおっしゃっていたみたいに、待っている間も、携帯を見てもいいですけど、できればボーッとしてみたり、隣の人の会話から自分のことに当てはめてみたり。あとは三輪さんがお忙しそうじゃなければ話しかけてみたりとか。あえていつもと違うことをしてみるのも、喫茶店での時間ですよね。
三輪:本当、そうですね。あとはお店お店で、空間というか、インテリアとかね。その辺もすごくこだわっていると思うので。女性オーナーって喫茶店、すごく少ないと思うんです。うちは地下だから入りづらいっていうのもあると思うんですよ。それが扉を開けた時に、なんとなく安心するというか。お花を飾ったりだとか、要所要所に女性らしい空間を作るというのがすごく大事だと思うんです。そういうことを、コーヒーが出てくるのを待ちながら、コーヒーを飲みながら感じてもらえたら。先ほど話していた皆さんもそうですけど、やっぱり続いているお店って生きているんですよね。生き物みたいに、扉を開けると空気が流れている、エネルギーがすごくあるんですよ。それを感じていただきたいなと思います。
難波:お客さんが来ることによってお店が完成するという一面もあるじゃないですか。だから、喫茶店に行く私たちも楽しいんですけど、三輪さんのように定点観測している人は、来る人によって毎日の景色が変わるので。皆さんどんどん『トロワバグ』に行って、美味しいコーヒーとグラタントースト、コーヒーに合うお食事もありますので、それもたくさん楽しんで、のんびりした時間を…神保町なんで本を買って行ったらひとりでも退屈しないですよね。
三輪:そうですね。古本屋さんがたくさんありますし、ちょっと足を伸ばせばレコード屋さんもあります。神保町は面白い街で、チェーン店が少なく個人店が多いし、本屋さんが多いし音楽が好きな方も多いし。喫茶店だけじゃなくて、街自体も古い建物が残っていたり。他にはない街だと私は思っていて、神保町大好きなんですよ。
難波:本当に! 三輪さんは喫茶店文化も好きなんですけど、神保町を盛り上げたい! とたくさん活動されている方なので。
三輪:私は本当に神保町が大好きで、あんな街はないと思うので、残したいです。是非、皆さん神保町に来ていただいて、個人でやっているお店がたくさんあるんで。よく、近くの喫茶店同士があまり行き来がないんじゃないかって言われるんですよ。でも神保町ってそういうのがなくて。私も神保町の喫茶店に行くし、他のお店の方も来てくださるし、それでコミュニケーションがたくさん取れるし。
難波:ご自分のお店で飲んでる時も他のお店も勧めますもんね。
三輪:そう、それはもう普通のことなんですけど。あと印象に残っているのは、うちの母が10年くらい前に亡くなった時に、私がひとりでお店に立ってるから近隣の喫茶店の方が「何か困ったことはないか」とか「何か大変だったら言っていいよ」ってすごくたくさん言いにきてくださって。それも神保町ならではというか、喫茶店の繋がりなのかなと思いました。
難波:街と共存している感じがしますね。本当に一度、『トロワバグ』さんに行ったら虜になってしまうお店で、私も15年以上通っているので是非、皆さんもこれからたくさん行って常連さんになってください。三輪さん、今日は他のお店の方にも聞きたいことがいっぱいあるんじゃないですか?
三輪:そうそう。もう楽屋は大宴会が始まってるから(笑)。
難波:後半も楽しみですね(笑)。三輪さんありがとうございました!
<「第二回純喫茶マスター大集会」イベントレポート後半へ続きます>