1974年11月、シングル「雨だれ」でデビューを飾り、45周年を迎えた太田裕美。デビュー日と同じ11月1日には記念作品となる最新アルバム『ヒロミ☆デラックス』をリリースしている。この作品を携え、11月24日、東京国際フォーラム ホールCにて記念コンサート『太田裕美コンサート~まごころ大感謝祭<45周年45回転でくーるくる>』が開催された。記念のコンサートということもあって通常のソロ・コンサートよりも規模の大きい会場が選ばれたが、1500席のチケットは早々にソールドアウトとなり、期待感の高さをうかがわせた。
定刻を数分回ったころ、オープニングSEの「たゆたうもの」が流れ始まると、それに合わせてゆっくりと客電が落ちてゆく。暗転したところで舞台の幕が上がり、『ヒロミ☆デラックス』にも新規ミックスで収録されている「上弦の月」が始まった。楠均(ドラムス)、岩井眞一(エレクトリック・ギター)、西海孝(アコースティック・ギター)という近年のソロ・コンサートではおなじみの面々とともに、太田裕美もアコースティック・ギターを弾きながら歌う、いつもどおりのスタイルである。続く「黄昏海岸」(1980年)を歌い終えての最初のMCでは、「今日はシングルを中心としたメニューで、45年の思いを込めたコンサートにしたい」と語っていたが、ここ最近ではあまり披露されなかったシングル曲も次々に披露された。
前半6曲はギターを弾いていたが、中盤からはグランドピアノに向かって歌うスタイルに。「夕焼け」(1975年)、「赤いハイヒール」(1976年)、「君と歩いた青春」(1981年)など定番の名曲が披露され、演奏も自身の歌唱もさらに熱気を帯びていく。ベースがいないバンド編成で、当然ながらオリジナルのスタジオ・ヴァージョンとは異なるアレンジだが、太田裕美自身のヴォーカルを盛り立てながら繊細さとスケールの大きさをあわせ持つアンサンブルで、大きなホールでも何の遜色も感じられなかった。
「最後の一葉」(1976年)に続くMCでは、自身の病状についても語られたが、「人生を前向きに、いろいろなことがあっても頑張ろうという応援歌」として、くしくもその直前に書かれた「ステキのキセキ」、「桜月夜」に、逆に自分が励まされることになったとコメントしている。前半最後に披露された「桜月夜」は、まさしく渾身の演奏で、コンサート前半のハイライトとなった。
15分の休憩を挟んでのコンサート第2部は、『ヒロミ☆デラックス』同様のピアノ・クインテットとの演奏。高嶋ちさ子は不参加だったが、レコーディングにも参加している今野均(ヴァイオリン)、伊賀拓郎(ピアノ)らがステージに立っている。アルバムにも収録された「木綿のハンカチーフ」(1975年)、「さらばシベリア鉄道」(1980年)だけでなく、名曲「九月の雨」(1977年)も新たなアレンジで披露された。MCでは「セルフカバーはあまり好きじゃない」と言っていたが、ピアノ・クインテットとの演奏には新しい発見もあったそうで、「さらばシベリア鉄道」の前には「空の上にいる大瀧詠一さんもきっと喜んでくださっているんじゃないかな」とコメントしていた。
第2部最後の「心さわぎ」(1975年)、アンコールの「ドール」(1978年)、そして「ステキのキセキ」はバンドとクインテットが一堂に会しての演奏。本編ではじっくり味わうかのように耳を傾けていたオーディエンスもアンコールでは総立ちに。往年の名曲のタイトルをちりばめた歌詞の「ステキのキセキ」で大いに盛り上げた後、メンバーを送り出して最後にひとりでピアノ弾き語りで歌ったのはデビュー曲の「雨だれ」。ゆっくりと暗転して始まり、近年の楽曲から徐々に時間をさかのぼるかのようなセットリストで、最後に1974年にタイムスリップして約2時間半におよぶコンサートは幕となった。
この夜が特別な編成で特別なセットリストを披露したスペシャルなコンサートだったのはもちろん言うまでもない。だが、より印象に残ったのは、45年の間、きっと変わることがなかったはずの「歌うことへの愛情」がその一瞬一瞬の歌唱からリアルに感じ取れたことだった。そしてこの先も、自身の歌=“まごころ”を伝える道は続いていくはずだ。
セットリスト
太田裕美コンサート~まごころ大感謝祭<45周年45回転でくーるくる>
2019年11月24日(日)東京国際フォーラム ホールC
【第1部】
01. First Quarter-上弦の月-(1999)
02. 黄昏海岸(1980)
03. 恋人たちの100の偽り(1977)
04. シングル・ガール(1979)
05. ロンリィ・ピーポーII(1983)
06. 満月の夜 君んちへ行ったよ(1983)
07. 夕焼け(1975)
08. 赤いハイヒール(1976)
09. 君と歩いた青春(1981)
10. 最後の一葉(1976)
11. 桜月夜(2019)
【第2部】
12. 雨だれ(1974)
13. 九月の雨(1977)
14. 木綿のハンカチーフ(1975)
15. さらばシベリア鉄道(1980)
16. 心さわぎ(1975)
【アンコール】
17. ドール(1978)
18. ステキのキセキ(2019)
19. 雨だれ(1974)
(photo:堀清英)