2014年、cinema staffとSAKANAMONはこの新宿ロフトにて2マンライヴを行った。あれから5年…。今の彼らは、あの時ほど「無邪気に」ライヴを行えてはいないように映る。それは自身を取り巻く環境や状況の変化のみならず。今やあの頃以上に背負うものや保持するものも増え、自身への省みや将来の展望、はたまた去り行く同世代アーティストを数多く見送り今を迎え、それらの「重み」と共に活動しているからに他ならない。様々なものと向き合い、戦い、抗いながら進んでいる今の彼らには現在、あの頃同様に「無邪気に」ライヴを行うことは難しそうだ。
とは言え、ふとあの頃の無邪気さが垣間見れる瞬間もたまには訪れる。まさにこの日にはそれがあった。新宿ロフト歌舞伎町移転20周年記念企画の一つとして行われた、この日の両者の再共演。それは各バンド、己の「この5年を経ての今」を魅せてくれたのと同時に、ふとした場面場面で今やあまり見られなくなっていた「あの頃の無邪気さ」を垣間見ることが出来た。
先日行われたこのライヴの前哨戦的な座談会の最後に、この日の出演順を決める両者によるじゃんけんが行われ、勝ったSAKANAMONが後攻となった。従ってこの日の先攻はcinema staff。そんな彼らがまずはステージに現れる。上手(かみて)より、飯田瑞規(Vo.&G.)、辻友貴(G.)、三島想平(B.)、その後ろに久野洋平(Dr.)が構える。彼ら独特のフォーメーションだ。
長いフィードバックノイズの中から生命力溢れる久野のドラムが骨格を作り、飯田の歌も現れ、「OCEAN」が形作られる。大海を目指し流れ始める会場。サビで出会う開放感が大海へと出た実感と、ここからどんな物語を広げていってくれるのか?との期待感を募らせる。間髪置かずヒステリックな辻のギターとそれを経た硬質な三島のベースが次曲「エゴ」を引っ張っていく。飯田も2番ではボーカルを粗して歌い、対して「シャドウ」ではダイナミズムと艶やかさが場内に呼び込まれ、辻も感情の込もったエモーショナルなギターソロを激しいアクションと共に会場中へと解き放っていく。
また、「skeleton」では変拍子やポリリズムな曲ながら、それをあくまでもポップに昇華する彼らの真骨頂が炸裂。加えクノのドラムソロから入った「日記」では、二本のギターのアンサンブルとそこを抜けた上昇感が会場をここではないどこかへと誘い、雄々しく誇らしくスタジアムアンセムのように響き渡らせた「HYPER CHANT」ではサビにて会場も大合唱。勇気を与えてくれるそのブレイブな歌が悠々と広がっていく様を見た。
「7人とも同じ歳で仲が良い」とは飯田。座談会を振り返るも、当日はかなりの泥酔でそれをほぼ覚えていないとのこと。「SAKANAMONは信頼できるメンバーたちばかりのバンド」と褒め讃える。
その飯田が鍵盤の前に座り、新曲「Name of Love」を始める。ピアノ音と美しく且つドラマティックに歌を滑り出させ、そこに絡んでいくバンドサウンドが楽曲に生命力を寄与していく。同曲による美しさと時々交わる激しさの波状攻撃が会場をグイグイと惹き込んでいけば、続く「熱源」に於いては、歌に秘めた力強い決意が会場の各所でコブシを挙げさせていたのも印象深い。
ラストスパート。「西南西の虹」がその激しさと共に会場の温度をグッと上げ、ステージからフロアへと襲いかかってくる音塊がまるで会場を引き連れるようにさらっていく。「SAKANAMONはこれからも一緒にやっていくべきバンド仲間」との飯田によるSAKANAMONへのメッセージを挟み、彼らの「自分たちの故郷(岐阜)の歌」と紹介された、ミディアムな「望郷」が疾走感と美しいメロデイラインにて、歌が描くその情景に会場各位を佇ませれば、「白い砂漠のマーチ」がその加速度をますます上げ、「あなたはあなたのために最終回のような毎日を生きていって欲しい」(飯田)と告げ入ったラストの「drama」では、2本のギターと疾走感のあるサウンドが会場中をここではない何処かへと誘っていった。
後攻はSAKANAMON。勢いのある曲で場内を引き連れんとの気概が伺えるステージを展開してくれた。
うだつの上がらない毎日を煌びやかにすべく、タイトな木村浩大(Dr.)のドラムと森野光晴(B.)が寄与するドライブ感、そこを抜けストレートに気持ち良く歌う藤森元生(Vo.&G.)の三位が一体となった「クダラナインサイド」を始め、「幼気な少女」では、彼ら特有の和なメロディとそこを抜けたストレートさが場内にレスポンスを育んでいく。また、「アリカナシカ」では木村の4つ打ちと16ハイハットの上昇感と切ないけど踊らせる彼ら特有の音楽性の融合が場内を魅了していった。
「お肉大好きSAKANAMONです。新宿ロフト歌舞伎移転20周年おめでとうございます。ウルサイcinemaに気負いせず最後までやっていきます!!」とは藤森。次曲「鬼」では伸縮性のあるサウンドの上、キャッチーなフレーズが連呼され、トリッキーにシフトしていく歌詞も印象的だった。そしてポリリズムと変拍子なポストロック/音響系の「害虫」では各位が手だれたメンバーであることをアピール。場内が魅了されていく。
8月7日には二ューミニアルバム『GUZMANIA』を発表したばかりのSAKANAMON。そのMV曲でもあった「矢文」が藤森はアコギ、森野がアップライトベースを用い贈られる。カントリーテイストながらそれが牧歌的にはならず、何故か叙情的になってしまうのがいかにも彼ららしい。また、彼ら特有のとぼとぼ感がじわじわと広がっていった「テヲフル」では、3声のハーモニーも楽しめ、歌われる♪前に進むために歌ってるよ♪に秘めたエモさを感じた。
「cinema staffには攻撃力はかなわないけど何が飛び出してくるかわからないクリティカル性では負けない!」とcinema staffに対するSAKANAMONからの総意が伝えられ、ここからは後半戦。「マジックアワー」を機にシフトがグングンアップしていく。藤森も歌う声を荒げ、森野もアクティブなベースパフォマンスを魅せる。歌詞も一部、♪愛してるよcinema staff♪変える、この日ならではのサービスも。この日ならではは続く。「花色の美少女」の際にはcinema staffの辻もギターで参加。元の変態性によりストレート性が加わり面白いものが楽しめた。そして本編最後は、これからも放つシグナルを受け止めて欲しいとの気概と、これからも僕らは進む!!との力強い決意を込めた「シグナルマン」が会場を駆け抜けていった。
アンコール。まずは藤森、飯田の2人が現れ、「PLAYER PRAYER」がアコギとエレキのアンサンブルの上、オリジナルとは違ったしっとりさを擁して放たれた。特有のキャッチーさが逆にシリアスで凄く大切な言葉のように響いた今回のアプローチ。曲に込められた意図や想いが浮き彫りにされて響いたのも興味深い。
そして今回は当初出演予定の無かった、三島と藤森によるプロミスが、やはりみんなの期待を受け、この日も三島がアコギをかき鳴らし、藤森がタンバリンを手にツインボーカルで謳歌。ゆずの「夏色」が会場も交えて歌われた。そして、もう一度SAKANAMONの三人が登場。流れていくこの時代に抗い続ける力強い宣言のような「ロックンロール」が場内を駆け抜けていった。
正直、もっとノスタルジックで仲の良さ溢れるライヴを予想していた。しかし実際はその辺りはほぼ皆無。MC以外、いざ曲が始まると己の音楽性や世界観を表すことが第一に遂げられた。そして、そこには確実に同じ年齢、近い活動履歴、お互いにシンパシーを持っているが故の信頼感に満ちた空間が作り出されていた。
これからまた彼らは自身の道を行く。そして、またその道がお互いクロスした際にはこのような機会が再び現れることだろう。その際はまた、いい意味で「無邪気になり切れない」彼らと出会えるはずだ。「またいつかここで会おう」。言葉には出さずともライヴを通し感じられたその無言の宣言は、力強くそして尊かった。