先日ベテランアーティストの取材の際に、再び懐かしい場所や想い入れのある会場にてライヴを演る際の「気持ち」へと話が及んだ。その時に先方からは、「意識は<今の自分たちで!!>との気概で臨むも、結局気づけば、あの頃の自分にいつの間にか戻っちゃってる。どうしてもあの場所に立つと、シューッとあの頃の自分に無意識に戻っちゃうんだよね」的なことを話してくれた。
何なんだろう? あのノスタルジックとはまたちょっと違ったタイムマシン感は。そこには懐かしさはないのだが、明らかにあの頃の自分には戻っている。そして、おいしくるメロンパンやマカロニえんぴつにとって、この新宿ロフトはそういった場所なのかもしれないな…と、この日の共演を観てそんなことを考えた。
この日の公演はソールドアウト。まさに立錐の余地がない程だ。
先行はマカロニえんぴつ。SEと共に幕が開く。ステージは無人だ。まずはサポートドラムを含む、高野賢也(B.)、田辺由明(G.)、長谷川大喜(Key.)の4人がステージに現れ、間を空けはっとり(Vo.&G,)も登場する。新宿ロフトでの初ステージはバーステージが4年前、メインステージは3年程前だったと語る彼ら。きっとその頃は動員もまばらだったことだろう。しかし今やほら、こんなにも大勢になっている。
「ロフト~!!」とのはっとりのシャウトを呼び声にオープニング曲は「鳴らせ」が飾った。ライブ感たっぷりに同曲がフロアへと駆け出していく。サビで現れるパーっとした開放感が気持ちいい。長谷川が泳ぐようにキーボードソロを乗せていき、「ロフトこんなもんか?」とはっとりが煽る。続く「眺めがいいね」に入ると、ちょっとした余裕も伺え、彼らの演奏を楽しんでいる姿が印象的だった。長谷川と高野が向かい合いステップを踏んだり、田辺の光景感のあるギターソロや長谷川のキーボードソロも同曲を彩っていく。
ウェッティな歌い出しながらも、途中から楽曲を起爆させたのは「MAR-Z」であった。以降楽曲が怒涛さも交え次々とフロアに飛び込んでくる。
ここでMC。「今日はVSシリーズらしく、どちらが良かったか?お客さんに帰りに決めていただき、負けた方が終演後の打ち上げ代を出すのはどうだ?」との勝負をはっとりが提案。「今日は打ち上げもだけど、ライブも飲み込んでやる!!」と意気込みを語り、「ライブハウスに歴史あり。常に集まってくれるお客さんありきの僕らだと感じている。今日は特にその気持ちを込めてやる!!」と宣言。会場中を吸心にかかる。
ギターの爪弾きと歌い出しから入った「MUSIC」を経て、「レモンパイ」では軽やかな鍵盤やサビではミラーボールも回り出し、ブリッジの部分ではラップやオクターパーベース、Pファンク的な要素も織り交ぜ、彼らの器用さが映える。そしてライブが激化を見せたのは「STAY with ME」の際であった。オリジナルのエレクトロな部分は抑え、ロックバンド然に生まれ変わった感のある同曲。アウトロはあえて長く、これもライヴ仕様にて楽しめた。また鍵盤と歌から入った「girl my friend」でもライブならではの疾走感が味わえた。
中盤は場内を汗ばませる曲が並んだ。「洗濯機と君とラヂオ」が再度ライブを走り出させれば、久しぶりにプレイされた「夏恋センセイション」では、季節を夏へとテレポート。同曲が擁する勢いと切なさの同居を感じた。対して2ビートを基調とした「ハートロッカー」では、長谷川のキーボードも超絶フレーズを放射。歌詞にある通り、まさに世界が壊れるぐらいに高速回転で回していく様を見た。
「ここに立つと他のライブハウスと違い身が引き締まる思いがする」とは、はっとりの新宿ロフトに捧げられたMCだ。そして、最新ミニアルバムから「ブルーベリー・ナイツ」がライブならではのオリジナルなキーボードソロを交えウェットな部分と対照的なサウンドを融合させていけば、ホーンの華やかな音色も交えたドライブ感あふれる「OKKAKE」が会場に向け、「俺らは絶対にみんなを裏切らないから」との想いを込めて放たれていく。そして、最後は「常に動き続けたり走り続けることは難しい。そういった点ではロフトは凄い場所だと思う。そして、自分たちがこうやって続けていられるのもみなさんや周りの人たちのおかげ。これからももっと一緒にガソリンをガンガンまいて下さい。きっと大きい場所に連れていきます!!」と、必殺のロッカバラード「ミスター・ブルースカイ」が場内に贈られ、会場にブルースカイが広がっていく。この瞬間、ステージに立っている未来の彼らが、どこかとてつもないステージ上で、それでも満場の中、この曲を演奏し、歌っている場面がオーバーラップしたのはきっと私だけではなかったはずだ。
続いては、おいしくるメロンパンだ。「マカロニえんぴつの後は嫌だった(笑)」とはライヴ中のナカシマ(Vo.&G.)のMCだったのだが、実はマカロニえんぴつとは過去に2度も2マンライヴの経験のある彼ら。「いつもバチバチにハモっているから今日もやるのが楽しみ。また一緒に出来て嬉しい」と続け、この日のライヴがこの2バンドで素晴らしい日になるであろうことをみなが確信する。
この日が今年の初ライヴとなった彼ら。新曲を始め、ここ数ヵ月ライヴを行わなかったぶん、いつもよりも暴発的で荒々しく、「ライヴバンド/ロックバンドおいしくるメロンパン」を堪能することができた。
SEと共に幕が開き、青白いステージの上に既にスタンバイしていたナカシマ、峯岸翔雪(Ba.)、原駿太郎(Dr.)の3人の姿が現れる。
よりソリッドな面を楽しませてくれた感のある、この日の彼ら。私が思う彼らの魅力は、全てがリード楽器たりえ、ショートで無駄がなく、且つ機能的な歌だったりする。しかもキチンと歌メロが映えており、それらがナカシマの淡い歌声とベストマッチを魅せ、彼ら独自の音楽性たらしめているところだ。そして、この日はそれらがよりコンパクトに炸裂した。
ナカシマの歌い出しから入った乾いたギターとしっとりした雰囲気の「caramel city」を皮切りに、ノンストップで突入した「桜の木の下には」からは怒涛にフロアに各楽曲たちが飛び込んでくる。峯岸のプレイアクションもアクティブさを増し、歌面でもハーモニーが加わり楽曲がよりふくよかになっていく。同曲では、峯岸の暴発ベースソロも炸裂。それらを抜け現れるストレートさがことさら気持ちいい。ドラマティックなイントロからインした「命日」に入ると、力強さも加わってくる。せめてこの夏が終わらないうちはそばにいてと歌われる同曲。ここではナカシマのギターソロが炸裂する様を見た。
「満員だけど一人ひとり心は繋がっているから大丈夫。ガシガシやっていくんで最後までよろしく」と峯岸。ボサノバの要素を織り交えた「look at the sea」では、シティポップ的なテイストが。この曲ではアウトロでのアドリブも楽しめた。そうそう、彼らはアウトロを長く取っている曲も多い。他にもプログレ的展開や変拍子を交え、ストップ&ゴーを取り入れていたりとかなり緻密だ。しかしそれでいてそこに全くの難解さを感じさせないのは、それだけメロディが普遍的でしっかりとしたものである証拠だ。
初期からの人気曲「色水」も途中にしれっと入れ込まれた。人気曲の登場に会場も若干色ずく色づくも、ステージもフロアもこれまでの曲と同じテンションやリアクションなのも面白い。同曲では切なさも場内に寄与。間には変拍子も交え、峯岸のベースソロも見どころの一つであった。
中盤には未発表の新曲も贈られた。これまで以上に分かりやすくも、きちんと彼らの突如の暴発性を活かしたメリハリのある曲だ。5拍子のベースイントロから「あの秋とスクールデイズ」に。スリリングさに甘くアンニュイな歌声と一拍空けたあとの怒涛性がいい。ノンストップで性急的なギターカッティングも印象的な「シュガーサーフ」では、間にファンキーな場面を交え峯岸もスラップや原も4ビートをインサート。ここでは峯岸の長いベースソロも楽しめた。
「ポロポロといい曲が出来ている。また作品を出してツアーもやりたいし、マカロニともまた一緒にやりたい」と峯岸。「ここから最後まで4曲ぶち抜きでやる!!」と続け、3拍子や変拍子を交えた「nazca」が慰める言葉などないと歌えば、赤を基調にしたステージライトも印象的な「泡と魔女」ではギターソロに続きベースソロも味わえ、原のドラムがつなぎ入った「水葬」では、しっとりとしているのだが、そこにエモさが秘められており、それがことさらたまらなさを呼び起こす。最後は駆け抜けるかのように「紫陽花」が会場をもう一度ぐっとステージに惹き寄せ、ライヴを再び一緒に並走させた。
アンコールは1曲。原のドラムから各楽器が入って「5月の呪い」が現れる。弾んだ感じの同曲と共に最後は楽しく締めてくれた。
これまで幾度となく、この新宿ロフトのステージに立ってきた両者。果たして、この日のステージは彼らをあの時あの頃へと引き戻したのだろうか? 両者の瑞々しさや初々しさから、どことなくそれらしきものは感じたのだが、実際のところはどうだったのだろう? 今度会った際には是非直接結果を聞いてみたいものだ。
PHOTO:丸山恵理(LOFT PROJECT) TEXT:池田スカオ和宏