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トップレポートA TRIBUTE TO ELVIS(Rooftop2015年4月号)

A TRIBUTE TO ELVIS(Rooftop2015年4月号)

2015.04.08

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エルヴィス・プレスリー、生誕80周年!

ROY(THE BAWDIES)、THE NEATBEATS、KOZZY IWAKAWA(THE MACKSHOW/THE COLTS)、BLOODEST SAXOPHONE、鈴木茂(ex.はっぴいえんど)……鬼才シュガー・スペクター総指揮のもと、錚々たる面子がありったけの愛情と究極のヴィンテージ機材でエルヴィスのソウルを現代に蘇らせたトリビュートの本命盤!
 
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 今年の1月に生誕80周年を迎えたエルヴィス・プレスリー。1950年代半ばにカントリーとブルースを融合させたロックンロールという全く新たな音楽を生み出した先駆者の一人としてビートルズを筆頭に絶大な影響を後進に与え、没後38年を経た今もなお熱烈な信奉者が全世界に存在する。
 
 そんな“キング・オブ・ロックンロール”の偉業に対して至上の愛とリスペクトを捧げた極上のカバー作品集『A TRIBUTE TO ELVIS』が発売された。鈴木茂(ex.はっぴいえんど)、KOZZY IWAKAWA(THE MACKSHOW/THE COLTS)、BIG JAY McNEELY(伝説のホンカー!)、BLOODEST SAXOPHONE、THE NEATBEATS、ROY(THE BAWDIES)、KAZZ(勝手にしやがれ)、ROCKIN' ENOCKY(JACKIE AND THE CEDRICS)、THE MINNESOTA VOODOOMEN、AlissaといったプリミティヴなロックンロールのDNAを受け継いだ名うてのミュージシャンが一堂に会した本作の特性は、各人のスキルフルなパフォーマンスもさることながら、もはやストイックを通り越して偏執そのものと言っても過言ではない徹底した録音のスタンスにある。
 
 首謀者は、本作の総指揮を務め、艶っぽい歌声も披露しているシュガー・スペクターこと佐藤俊雄。1920年代からの真空管式機材を始め、ロックンロール創世記の音を現代に蘇らせることのできる世界屈指の音楽プロデューサーであり、ヴィンテージ機材の録音技術者だ。彼が本作で試みたのは、録音環境や機材、その手法について可能な限り当時の再現をすることだった。実際の録音も当時に倣い、ひとつの部屋で参加者全員が演奏も歌も“せーの!”でアナログ・テープ一発収録。当然、誰かがミスをすれば最初からやり直しだ。
 
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 テープレコーダー、マイク(とスタンド)、プリアンプ、真空管、楽器の細部に至るまで、あらゆる要素を計算し尽くして当時の音を再現するには、残された録音記録や資料の考察が不可欠。時には当時のレコーディング風景の写真から推理して機材を再現するというシュガー・スペクターの凄まじい執念には感服するほかない。憧れのあの時代のあのサウンドを再現すべく膨大な時間と労力を要し、絶え間ない実験と実践の果てに本作が生まれたことは、シュガー・スペクターのこんな発言からも窺える。
 
 「アナログで制作すれば当時のような音になると思い、アナログテープマシンでエンジニアリングやマスタリングを試みた人も大勢いるだろうが、おそらくその大半がこう思ったはずだ。『質感は良いのだが、あの独特の枯れた音にならない…』。
テープマシンは当時の物を用意したとして、テープそのものはどうだろうか? 当時の物を用意できたのだろうか?実はここも非常に重要な部分で、テープの素材、磁束密度、バイアスの調整方法などが当時と現在ではかなり違う。現在のアナログは超高性能でテープのパワーも違うし、当然その出力に合わせたバイアスの調整も変わってくる。
いくつか実験をしたのだが、やはり当時かそれに近い時代のテープで、当時の標準値にキャリブレーションしないとその音にならなかった。当たり前の話ではあるのだが、そこまで追求した制作者が今までいなかったのだろう」
 
 こうしたシュガー・スペクターの飽くなき追求を、あなたは時代錯誤だと一笑に付すだろうか。僕には彼の目論見が、現代の録音環境と音楽家の制作姿勢に対する警鐘のように思えてならない。日進月歩の勢いで格段の進化を遂げた録音・音響技術の発達により、誰もが手軽に録音できるようにはなった。だがその簡易性とは裏腹に、本来注がれるはずの録音に懸ける過剰なエネルギーが失われてしまったのではないか。結果として滋養と旨味の少ない薄っぺらな音楽が世に溢れてしまったのではないか。それに引き替えこの『A TRIBUTE TO ELVIS』には、現代の音楽家や録音に携わる専門家たちが忘れてしまった大切なものが詰まっているように僕は感じるのだ。待ったなしの一発録音に堪え得る技術の高さももちろん大事だが、もっと大事なのはロックンロールへの限りない愛情、ルーツ・ミュージックを体現する上での精神性である。それが根底にあるならば、当時の録音手法で当時のグッとくる音を妥協せず再現したくなるのは必然だろう。
 
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 本作の芯が太く温かみのある音、押し引きのバランスを心得た歌唱と演奏を聴くと、エルヴィスが生きた時代の録音手法、シンプルで奥深い歌と演奏が如何に素晴らしいかを改めて実感する。何も昔は良かったなんて話がしたいわけではないが、偉大なるロックンロールの先人たちは持ち得るエネルギーを爆発させて、今よりも劣る録音環境のなかでも数々の不朽のマスターピースを生み出してきたではないか。つまり今の時代でも労を惜しまず、デジタルの力に頼りきることなく、しっかりと魂を込めて作品づくりに向き合えば、自ずとそれは素晴らしい作品になるはずである。そのヒントみたいなものがこの『A TRIBUTE TO ELVIS』という作品には凝縮しているし、60年に及ぶロックンロールの歴史の原点に立ち返ることでその未来が透けて見えるかのようだ。(text:椎名宗之)

商品情報

Various Artists
A TRIBUTE TO ELVIS

FAMC-173/定価:2,300円+税
2015年3月25日(水)発売
発売・販売:株式会社KADOKAWAメディアファクトリー
Released by TONEFLAKE RECORDS

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【収録楽曲&参加ミュージシャン】
01. GOOD LUCK CHARM/SUGAR SPECTOR(music & lyrics:Schroeder, Gold)
 Vocal : Sugar Spector
 Bloodest Saxophone(Drums : Kiminori† Bass : THE TAKEO† Guitar : Shuji)
 Acoustic Guitar : ROCKIN' ENOCKY from JACKIE AND THE CEDRICS
 Pf & Chours & Baritone Guitar : Sugar Spector

02. HOUND DOG/THE MINNESOTA VOODOOMEN(music & lyrics:Jerry Leiber, Mike Stoller)
 THE MINNESOTA VOODOOMEN ( Vocal : Ringo† Drums : Pete† Guitar : Fabian )    
 Bass : Makiji Kojima†
 Acoustic Guitar : ROCKIN' ENOCKY from JACKIE AND THE CEDRICS

03. TROUBLE/KOZZY IWAKAWA and BLOODEST SAXOPHONE(music & lyrics:Jerry Leiber, Mike Stoller)
 Vocal : KOZZY IWAKAWA
 Bloodest Saxophone (Tenor Sax : Koda "Young Corn" Shintaro† Trombone : Coh † Baritone Sax : Osikawa Yukimasa † Guitar : Shuji Bass : THE TAKEO Drums : Kiminori)
 Tp : Kazz from Katteni-Shiyagare
 Acoustic Guitar : ROCKIN' ENOCKY from JACKIE AND THE CEDRICS
 Pf & Chorus : Sugar Spector

04. BURNING LOVE/SUGAR SPECTOR feat. SHIGERU SUZUKI(music & lyrics:Dennis Linde)
 Vocal&Chorus : Sugar Spector† Drums : Kaoru† Bass : Makiji Kojima†
 Electric Guitar : Shigeru Suzuki ex HAPPY END
 Pf & Additional instruments : Sugar Spector†

05. LONG TALL SALLY/ROY(music & lyrics:Johnson, Penniman, Blackwell)
 Vocal : Ryo”ROY"Watanabe(THE BAWDIES)by the courtesy of Victor Entertainment
 Bloodest Saxophone (Drums : Kiminori† Bass : THE TAKEO† Guitar : Shuji)
 Pf : Sugar Spector

06. I NEED YOUR LOVE TONIGHT/THE NEATBEATS(music & lyrics:Sid Wayne, Bix Reichner)
 THE NEATBEATS ( Vocal : MR.PAN† Drums : MR.MONDO† Bass : MR.GULLY† Guitar : MR.LAWDY )
 Additional Guitar :† ROCKIN' ENOCKY from JACKIE AND THE CEDRICS†
 Pf & Chorus & Acoustic Guitar : Sugar Spector

07. LITTLE SISTER/SUGAR SPECTOR feat. BIG JAY McNEELY(music & lyrics:Doc Pomus, Mort Shuman)
 Vocal&Chorus : Sugar Spector
 Tenor SAX : BIG JAY McNEELY
 THE MINNESOTA VOODOOMEN ( Bass : Ringo† Drums : Pete† Guitar : Fabian )
 Baritone Guitar :† ROCKIN' ENOCKY from JACKIE AND THE CEDRICS†
 Acoustic Guitar : Sugar Spector

08. BLUE MOON/KOZZY IWAKAWA(music & lyrics:Rodgers, Hart)
 Vocal : KOZZY IWAKAWA
 Bass : Makiji Kojima
 Acoustic Guitar : Sugar Spector†

09. A BIG HUNK O' LOVE/THE NEATBEATS(music & lyrics:Aaron Schroeder, Sid Wyche)
 THE NEATBEATS ( Vocal : MR.PAN† Drums : MR.MONDO† Bass : MR.GULLY† Guitar : MR.LAWDY )
 Additional Guitar :† ROCKIN' ENOCKY from JACKIE AND THE CEDRICS
 Pf & Chorus & Acoustic Guitar : Sugar Spector

10. YOU DON'T HAVE TO SAY YOU LOVE ME/SUGAR SPECTOR feat. BLOODEST SAXOPHONE(music & lyrics:V. Wickham, S. Napier Bell, P. Donaggio, V. Pallavicini)
 Vocal : Sugar Spector
 Bloodest Saxophone (Tenor Sax : Koda "Young Corn" Shintaro† Trombone : Coh † Baritone Sax : Osikawa Yukimasa † Guitar : Shuji † Electric Bass : THE TAKEO † Drums : Kiminori)
 Tp : Kazz from Katteni-Shiyagare
 Acoustic Guitar : ROCKIN' ENOCKY from JACKIE AND THE CEDRICS†
 Timpani & Marimba : Tomonori Oishi
 Vn : Sakurako Waseda †
 Hammond Organ & Additional Electric Guitar & Pf : Sugar Spector

11. LOVE ME TENDER/SUGAR SPECTOR(music & lyrics:Presley, Matson)
 Vocal : Sugar Spector / Alissa by courtesy of Nippon Cultural Broadcasting inc.
 Guitar & Chorus : Sugar Spector

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