NAKED ROCK'N ROLL CIRCUS 第一夜
2013年8月19日(月)NAKED LOFT
出演:大江慎也/高野哲(ゲスト:梶原幸嗣)
文:椎名宗之
写真:大参久人
世代を超えた異能の才がぶつかり合ったスリリングな競演
新宿職安通りに面する地上1階のカフェスタイルで独自の「トーク&ミュージック」イベントを連日連夜発信しているNAKED LOFT。
同店が2007年から毎年夏に開催している『ROCK’N ROLL CIRCUS』が今年も一昨日から始まった。
その第一夜は、大江慎也と高野哲というまたとない共演。
「世代とジャンルを飛び越えながらも何かしらの接点があり、その接点から生まれる奇跡を表現していく」という今回のコンセプトを具象化したようなブッキングであり、キャパシティ80名(立ち見を含む)という限られた空間の中で異能のバンドマンである両名の力演を間近で堪能できるのだから、実に贅沢な時間だったと言えるだろう。
先攻は、「今日のライブをずっと楽しみにしていた」と挨拶のMCで語った高野。この日で5日連続のライブであり、故郷・北海道から舞い戻ってきたばかりという過密スケジュールだったものの、歌もパフォーマンスもコンディションはすこぶる良好。
THE JUNEJULYAUGUSTの「ROLY POLY」、ZIGZOの「残響」「衝動」「I CULT YOU」、nilの「サマタイムクルーズ」、インディーズ電力の機知に富んだ「GET BACK」の“替え歌”(これはぜひライブで体感するべき)と、同時進行しているバンドの珠玉のレパートリーをいっぺんに聴けるのが嬉しい。使い古されたアコギ一本を豪快にかき鳴らす様は、しっとりと聴かせる一般的な弾き語りとは無縁の豪直球なロックンロールだ。
鋼のように強くしなやかに、変幻自在に声色を操る高野の歌は狭い空間だからこそ余計に真に迫るものがある。ユーモアを交えた親しみやすいトークが随所に挟まれることもあり、高野を初めて見るオーディエンスでもぐいぐいと引き込まれていくのが分かった。
その後、「今日、ちょっとした事件がありまして」とまさかのエピソードを披露。
「せっかく大江さんと共演できるんだからルースターズの曲をやろうと思って、ルースターズを異常に好きなウチのマネージャーとジュンジュラのカジ(梶原幸嗣/ds)と呑みながら何を唄うか決めたんです。で、さっきリハの時に大江さんに挨拶させてもらって、大江さんのセットリストを見たら……これが見事に被ってた(笑)」
そう話しながら、演奏する予定だった「GIRL FRIEND」のイントロをおどけながらつま弾く。
替わりに披露されたのは、めんたいロックのフリークとしても知られる盟友・梶原幸嗣を急遽ゲストとして迎えた「C.M.C.」。急ごしらえとは言え、まさにこの季節にぴったりの粋な選曲だ。最後はTHE JUNEJULYAUGUSTの「EARLY GLORY」で梶原と息の合ったセッションを聴かせ、持ち時間をきっちり60分で終わらせた。
続く大江は、なぜかマスクをつけたままで登壇。ここ最近ステージでの正装となっているタキシードもすっかり板についた感じだ。
至近距離で生の大江を見るオーディエンスも多かったのか、当初は固唾を呑んで見守るような空気だったが、大江はいつものくだけたMCで場内の雰囲気を和やかにしていく。
のっけからNAKED LOFTのキャッチワードである「トーク&ミュージック」を連発して笑いを誘いつつ、おもむろにつま弾かれる「CASE OF INSANITY」。これだけで一気に見る者を大江独自の世界へと引き込んでしまうのだからやはり凄い。2月の福岡サンパレス公演で初披露した「人はそれを狂気と呼ぶ、でも僕は気にしない」という日本語詞も定例化してきたようだ。
硬軟の音色が異なる2本のエレキ・ギターを使い分けながら、「GOOD DREAMS」「GIRL FRIEND」(!)「ROSIE」といったルースターズの代表曲、「GOOD EVENING」や「LITTLE RED ROOSTER」といったブルースのスタンダード・ナンバーをバランス良く聴かせる。凄みのある歌声も健在だ。とりわけ、スライド奏法で歪んだ音を烈火の如く響き渡らせた「LITTLE RED ROOSTER」は本場のブルースマンも顔負けの迫力で、前半のハイライトと言ったところか。
個人的にこの日の白眉は、ルースターズのライブでも披露された「CHOCOLATE WINE」の後に演奏された「GO FUCK」だった。言うまでもなく「ニュールンベルグでささやいて」と同時期に録音されながらお蔵入りとなったルースターズの未発表曲で、どうやら先日の名古屋でのライブからレパートリーに組み込まれたらしい。こんなレアな曲を惜しげもなく披露するのだから、大江のサービス精神にはいつもながら感服する。
この「GO FUCK」と、続く「DO THE BOOGIE」での圧倒的なパフォーマンスがやはり群を抜いていた。ふと気づけば、ぼくの近くでステージに釘づけになっていた高野が「DO THE BOOGIE」を口ずさんでいる。彼もまた多くのオーディエンス同様、他に類を見ない大江の卓抜した歌とギターに魅せられていたようだ。
イギー・ポップの「TONIGHT」、ポピュラー・ソング「COME RAIN OR COME SHINE」(フランク・シナトラやレイ・チャールズのカバーでも知られる)、エリック・クラプトンの「WONDERFUL TONIGHT」、ストーンズの「WE HAD IT ALL」とお気に入りのカバーを矢継ぎ早に披露し、ロマンティックな新曲「I LOVE YOU」を唄い上げて本編は終了。
ここでステージから降りることなく、「言い忘れましたが、ここからはアンコールです!」と言ってのけた大江は、半ば強引に高野を呼び込み。
大江は白角のハイボール、高野はコロナビールをステージ上から注文する。
このことから、大江がふたりのコンビ名を「角ハイとコロナ」と勝手に命名。高野が間合い良く「コロナ哲です」と掛け合い漫才のように応えたのは笑った。その後、大江が「(星)セント・ルイス」「(中田)カウス・ボタン」と二転三転していたのはご愛嬌。
朗らかな雰囲気の中、アンコールはふたりのセッションで「FOOL FOR YOU」「恋をしようよ」「MONA(I NEED YOU BABY)」と一撃必殺のルースターズ・ナンバーが連発される。これで盛り上がらないわけがない。場内は待ってましたとばかりの大歓声だ。しかも、リハーサルで音合わせを少しした程度とはとても思えない息の合ったところを見せる両者。特に「MONA」でのエンディングに向けて疾駆する怒濤のカッティングはふたりとも神懸かり的なもので、息を呑むほどにスリリングだった。世代を超えた異能の才のぶつかり合いが如何に素晴らしかったかは、場外の職安通りにこだまする割れんばかりの拍手と歓声が証明していたように思う。
『NAKED ROCK'N ROLL CIRCUS』の魅力は、こうした今までありそうでなかった共演(競演)が生み出すフィードバックを間近で存分に味わえるところにある。それまで知り得ることのなかった未知なる音楽や同じ嗜好を持つ人たちとの出会い、そこでしか得ることのできない衝撃、感動。
それがライブハウスというコミュニケーション・スペースが持つ本来の特性であり、この『NAKED ROCK'N ROLL CIRCUS』がライブハウスという空間の面白さを改めて感じ取ってもらうきっかけになれば、こんなに嬉しいことはない。
Live Info.
『NAKED ROCK'N ROLL CIRCUS』
*会場はすべてNAKED LOFT
■8月19日(月)
大江慎也/高野哲
前売 4,200円
OPEN 18:00/START 19:00
■8月20日(火)
向井秀徳アコースティック&エレクトリック/内田勘太郎
前売 4,200円
OPEN 18:00/START 19:00
■8月21日(水)
成山内(sleepy.ab)/Predawn
前売 3,000円
OPEN 18:00/START 19:00
■8月22日(木)
チャラン・ポ・ランタン/keme(+小宮山聖)/大森靖子
前売 2,800円
OPEN 18:00/START 19:00
*チケットはいずれもローソンチケットにて発売中(全席自由、1DRINKオーダー別)
*全日程キャパ=80人
■8月26日(月)
NAKED ROCK'N ROLL CIRCUS 後夜祭
〜柳家睦デラックスディナーショー〜
【出演】柳家睦 & THE RAT BONES
【ゲスト】ZOMBIE CATS(from CRACKS)/TIN KARZ(TSUYOSHI from SPIKE/HAYASHI from HOT BOOGIE 55)
【選曲】TAKESHI(SLAP of CEMETERY)/MIWAKO(Gonna Ball)
前売 3,000円(1DRINKオーダー別、ディナー:流しそーめん付き)
OPEN 18:00/START 18:30
【問い合わせ】NAKED LOFT:03-3205-1556