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トップインタビューP.K.O|Panta Keiichi Organization - 盟友・PANTAが遺した歌詞と意志を継ぎ、最初で最後のオリジナル・アルバムの完成に懸けた鈴木慶一の意地と覚悟

盟友・PANTAが遺した歌詞と意志を継ぎ、最初で最後のオリジナル・アルバムの完成に懸けた鈴木慶一の意地と覚悟

2025.07.22

アルバムを完成させても頭の中の靄が取れない

──そういう歌詞の深読みに関することで言うと、「不思議な愛の物語」に“秘密の船倉”という言葉が出てきますよね。“船倉”(せんそう)=“戦争”、“秘密の戦争”と言えば1964年から73年にかけてアメリカが200万トン以上の爆弾をラオスに投下していたことがありました。ラオスとベトナムを結ぶ共産主義勢力の供給線を断つ目的で、CIAが秘密裏に実施していたという。だから“船倉”は“戦争”のダブル・ミーニングなのかなと思って。

鈴木:ああ、そうかもしれないな。

──と言うのも、以前、PANTAさんから「うちの親父はCIAのスパイだったのかもしれない」と聞いたことがあるんです。PANTAさんの父親は米軍基地の職員で、ベトナム戦争が激化するのと呼応するように所沢基地から相模原補給廠へ転任したと。父親はラオス担当で、作戦が近くなると米本国から戦車、武器、弾薬などを相模原に仕入れ、それを横須賀から作戦地域へ送る仕事で忙しかったそうです。いつしかアメリカがラオスにエア・アメリカという民間航空会社を作り、その航空機でホーチミン・ルートに猛攻撃を加えていた秘密裏の作戦を知ったPANTAさんは、「アメリカ軍はラオスに存在しなかったはず。そのラオスを担当していた親父はいったい何者なんだ?!」と疑問を抱いたと聞きました。PANTAさんのことだから、“秘密の船倉”という言葉にその謎めいたエピソードをリンクさせていたと思うんです。

田原:それは間違いないでしょうね。

鈴木:いろいろと紐解いていかないとわからない部分もあると思う。だから私たちのメールのやり取りをアルバムのインナースリーヴに敢えて載せてみたんだよ。

──「はばたけパル」に“パルパ”という言葉が出てきますが、パルパと言えばペルーのナスカ地方にある地形であり、ナスカ文明の遺産であるペルーの地上絵を連想します。本作のアルバム・ジャケットにペルーの地上絵が描かれているのはそれと関連があるのかなと思ったのですが。

P.K.Oアルバムジャケット.png

鈴木:いろんな謎解きが楽しめると思うよ。「不思議な愛の物語」には“カーティス・ルメイ”が出てくるしね。

──80年前の東京大空襲を指揮したアメリカの軍人ですね。その名前を見て「こんな家は石器時代に戻してやるからさ」という歌詞があることに納得しました。

鈴木:ゴンドウ君がニュースでカーティス・ルメイの名が出てきたのをたまたま見て、「あれは東京大空襲を命令した人だったんですね」と言ってきたことがあった。私もそう言われるまで気づいてなかったんだけど。そういうPANTAの謎かけが膨大にあるから、それをこれから解いていくのが大変だよ(笑)。この先、聴く人によっていろんな発見があると思う。

──そういった仕掛けを施した歌詞を書くのは手間と時間がかかりそうなものですが、慶一さんはPANTAさん相手に曲を作るペースが早く、PANTAさんも呼応してすぐ歌詞を書き上げたというのは、やはり半世紀近く育んできた信頼関係の産物なのでしょうか。

鈴木:私はPANTAが唄うのを想定して書くと曲がどんどんできちゃったけど、歌詞を書くPANTAは大変だったんじゃないかな。入院して一時は危篤だったこともあったから。

田原:危篤になってしばらく音信不通だったとき、「これを慶一に渡してくれ」と病院から歌詞のメールがいきなり送られてきたことがありました。本人は体調が優れず大変だったはずなのに、どういう時期にどういう状態で書いたのか全くの謎なんです。後から聞くとそのときは集中治療室にいて、どう意識が戻ってケータイに触れたのかもよくわからない。

鈴木:意識がはっきりしていたのか、していなかったのかわからないけれど、その夢か現かわからない状態がまるで走馬灯のように、PANTAのヒストリーが歌詞となって表れたんじゃないかと私は思っているけどね。こうして何とかアルバムを完成させることができて、とてもやり甲斐があったと感じている。やり終えないといけないとずっと感じていたことでもあったし。

──完成に漕ぎ着けるまで、ずっと頭の中の靄が取れない状態だったんでしょうね。

鈴木:その靄はまだ取れないんだよ。完成した今も冷静に聴けない。楽器を録音したり歌を入れたりするときは作業に没頭できるけど、アルバムを客観的に聴けるのはもうちょっと待ってくれと言うか、まだちょっと生々しい。今度、7月7日にPANTAの三回忌追善ライブがあって、そこでPANTAの唄う2曲(「あの日は帰らない」と「虹のかなたに」)を演奏するので練習のために部分的に聴き返したけど、そこでまたいろいろと考えてしまう。その思いを振り払ってギターを練習しようと思い直すんだけど、PANTAのいない現実を背負ってしまうのは厳しい。まあそれは仕方のないことだけどね。

──慶一さんが「クリスマスの後も」を作らなければこのアルバムは生まれなかったわけですが、それもPANTAさんが宇宙の彼方から操縦して慶一さんに「クリスマスの後も」を書かせたような印象を受けるんです。PANTAさんの引きの強さが面白い化学変化を生んだと言うか。

鈴木:そういうのはあるでしょう。「クリスマスの後も」は、私の歌詞にしてはやけに素直なんだよ。だって決めの一句が「ずっと一緒に いようね」なんだから(笑)。PANTAも最初に聴いたときは妙に素直な歌詞だなと感じていただろうね。

田原:「クリスマスの後も」をやることになったのはPANTAの体調がいちばん悪いときで、ジャケットの写真も激痩せしていたんです。だからある意味、慶一さんと一緒に唄うのはこれが最後になるかもしれないと覚悟していたと思うんですよね。

鈴木:そのようなことは微塵も見せずに、だからこそとても素直な唄い方になっている。体力的にもソファーに座って唄ってもらったのがちょうど良かった。

田原:『東京オオカミ』を録音する前後にPANTAが言っていたのは、「頭脳警察もPANTA&セカンドもPANTA & HALもP.K.Oも全部俺だから」と。表現の差もなく全部を受け入れて唄うと。頭脳警察とP.K.Oの音楽性は対極かもしれないけど、歌詞も唄い方も慶一さんにお任せして自分の色を出すのもまたPANTAの一面に他ならないんです。

──もしPANTAさんがあの時点でまだ元気だったなら、ここまで素直な唄い方にはならなかったのかもしれませんね。

鈴木:そうだね。“if”の話になってしまうけど。ただ、私が歌の録音をしていて、これはPANTAに唄ってほしかったな……と思うことが100回以上あったよ。「バロモンド ~馬郎音頭」は特にPANTAが唄ったほうが良かったのになと何度も思った。音頭という名のブルースで新機軸だったから。あと、「おやすみハル」の歌詞をPANTAが書いたのは非常に体調が悪かったときで、「もし俺に何かあったら慶一が唄っておいて」というメモが残されていた。実際にそうなってしまって残念だったけれど。

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P.K.O|Panta Keiichi Organization

発売日:2025年7月16日(水)
※7月7日(月)PANTA三回忌追善ライブ会場にて先行発売
価格:¥4,400(税込)|品番:BPU016
レーベル:MAHLER'S PARLOR
付録:ブックレット24P / 特製ステッカー

amazonで購入

【収録曲】
01. エルザ(作詞:PANTA|作曲:鈴木慶一|編曲:P.K.O|VOCAL:PANTA&鈴木慶一)
02. オーロラコースター(作詞:PANTA|作曲:鈴木慶一|編曲:P.K.O|VOCAL:鈴木慶一)
03. あの日は帰らない(作詞:PANTA|作曲:鈴木慶一|編曲:P.K.O|VOCAL:PANTA&鈴木慶一)
04. バロモンド ~馬郎音頭(作詞:PANTA|作曲:鈴木慶一|編曲:P.K.O|VOCAL:鈴木慶一)
05. 逢魔刻はキミと(作詞:PANTA|作曲:鈴木慶一|編曲:P.K.O|VOCAL:PANTA&鈴木慶一)
06. おやすみハル(作詞:PANTA|作曲:鈴木慶一|編曲:P.K.O|VOCAL:鈴木慶一|CHORUS:PANTA)
07. はばたけパル(作詞:PANTA|作曲:鈴木慶一|編曲:P.K.O|VOCAL:鈴木慶一)
08. 虹のかなたに(作詞:PANTA|作曲:鈴木慶一|編曲:P.K.O|VOCAL:PANTA&鈴木慶一)
09. クリスマスの後も(作詞・作曲:鈴木慶一|編曲:P.K.O|VOCAL:PANTA&鈴木慶一)
10. 不思議な愛の物語(作詞:PANTA|作曲:鈴木慶一|編曲:P.K.O|VOCAL:鈴木慶一|CHORUS:PANTA)

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