新しいものを作っていくためには過去と決別しないといけない
──昔みたいに黙ってやってたらどこかのレーベルが出してくれる時代じゃないですしね。さて、今回ゲストも多彩ですが。
Nan:(益子寺)かおりさん(ベッド・イン)、つよっしー(FUCK ON THE BEACH/さかさまJr.)、(サイプレス)上野さん……みんなSHELTERでの企画に出てもらってる人たちなんだよ。そして、めろん畑〜レーベルでっていう直近で関わった人たちばかりだからストーリーもちゃんとあって。
──ジャケットデザインの浅野忠信さんもそうですよね。
Nan:うん。DJもやってもらったし、SODA!にも出てもらってるし。
──最新型SMASH YOUR FACEの集大成だと思いました。Borisも曲提供(「さよなら SMASH YOUR FACE」)してますしね! ちょっと他の人が作った曲で申し訳ないですが……今回あの曲が一番好きです。
Nan:あ、ほんと! いいよね。あれはBorisが演奏した音源をもらって、それをまず同じように練習してから自分たちなりにちょっとテンポを速めてみたりして。
──では、今回のためにBorisが書き下ろした曲なんですね。
Nan:そう。だから、もしかしたらいつかBorisバージョンが世に出るかもしれないね。もともとはテンポも遅くてもっとBorisっぽいよ。すごい難しくて、ジャーーーン! ジャ! ジャッ! って部分なんかはAtsuo君はテンポをズラしてやるんだよね。
──へーー!
Nan:テンポを合わせないほうがハッとするから。ドラムがちゃんとしたリズムで叩いていくと均等になっちゃうんだけど、まずそれを止められて。Atsuo君はもっとタイミングをズラせって言うんだけど、染み込んでものがあるからできない。ただBorisはそれを目配せもせずに阿吽の呼吸でやるんだよ。やっぱりメンバーも変わらずずっとあの3人でやってるからこそできるんだろうね。
──Atsuoさんならではの指示ですね。
Nan:そう、そういうところがハッとさせられるね。自分では絶対思いつかないことばっかりだったからすごく面白かった。
Roberto Yoshino|Vocal & Turntable
ぴょん吉|Idol
──「さよなら SMASH YOUR FACE」は今回アルバムタイトルにもなってますが、過去との決別ってことですかね。
Nan:簡単に言うとそう。これまでの自分たちの活動に向けてってのもあるけど、パンクとかハードコアっていう世界ってもう成熟してるからさ、新しいことをやるっていうフェーズじゃないんだよね。70年代、ハードロックとかグラムロックの時代があってそこからまた破滅の音楽というのでパンクが出てきたんだけど、それも長く時を経るとスタイルになっちゃうでしょ。
──様式美になっちゃいますよね。
Nan:パンクはこうであるべきとか、そんなのはパンクじゃないとか。そんなのあんたアメリカにもイギリスにも行ったことないでしょ? っていう(笑)。そういうのはおかしな話でね。今の新しいメンバーがいてくれて、新しい企画をやっていく中で自分たちの新しいものを作っていくためには、過去と決別しないといけないよねって。
──そういう歌だったんですね。
Nan:もう一つ言うと、過去を崇めてばかりいても新しいことできないからさ。もちろんリスペクトした上での話だけど、例えばやっぱりどうやっても俺、JHAJHA君(ex.LIP CREAM他)みたいな歌詞は書けないし。あの人の世界観は凄すぎて、それに近づこうとするから超えられないわけで。離れてみることで新しいものを作っていきたいなと。
──ある種の決意表明みたいな。
Nan:そうだね。なかなか大変だったよ、歌詞もすげえ何度も書き直してね(笑)。やっぱり自分もステレオタイプの人間だからさ、これまでは自分らしく行くぜ! とか自分らしく生きるぜ! っていうことだけを歌ってたような気がするんだよね。そんでそれが当たり前だと思ってきたけど、そうじゃなくて、その1個1個に対して見つめる機会っていうのがなかったから今回はやってみようと。
メンバーのように、損得なしに付き合ってくれるAtsuoからの影響
──他の人が作った曲だけど一番らしさが出てると思ったんですよ。最近の活動の感じを見てると、人の作った曲をやるっていうのが一番今のSMASH YOUR FACE らしいのかもしれない。
Nan:ああ、なるほど。確かにそうかな。
──なにやっても自分らしくできるという自信。あと柔軟性と信頼がないとできないことなんです。
Nan:まあ今回そこに至るまで、やっぱりAtsuo君との関係も数年もあってさ、もう本当にメンバーのように加わってくれて。あの人は俺たちに対して損得なしに付き合ってくれるからね。今回は最初から全部作り込んでくれてるからほんとしんどかったみたいだけど。
──既存の曲もいったん破壊、再構築して収録してますね。
Nan:最近のソノシートの曲も再構築したけど、それだけじゃなくて何十年もやってる「To Get New Blood」という俺が歌ってたやつをKBが歌って再構築するってのも面白かった。ボーカルを代えるって発想は面白いよね。
──たしかに。
Nan:アツPと話してて、へーと思ったのは、みんなは曲を完成させて練習して、それをライブで形にしてレコーディングするんだけど、彼の場合は絵を描くような感覚で塗っていって完成まで近づけていくんだって。そしてここら辺が完成かなっていうところで終わらせるみたいな。今作もそんな感じ。
──Atsuoさんはやりたい放題ですね(笑)。
Nan:うん、もう録りからやってて、それぞれのパーツを知ってるんで。
──レコーディングはどのくらいかかったんですか?
Nan:2年半。
──えっ? 超大作じゃないですか(笑)。
Nan:休み休みなんだけどね。一番最初のトラックを録り始めたのは2023年。だからみんなもうバックトラックを録ったことを忘れてて、出来上がってやっとこうなったんだー、みたいな。
──なかなか大変だったんですね。
Nan:長いことかなりスタジオに通い詰めて大変だったけど、やっぱりありがたい経験をしてるから嫌だとは思わなかった。多分、みんな大変だったと思うんだけど。ギターのみっちゃん[32(Mitsu)]にしても“頭から最後までギターソロを弾き続けて”って、やったこともないことをいきなり言われてて(笑)。ただ前もって言うと準備しちゃって面白くないからさ、それが結果的にスリリングになるじゃない? ハラハラしたものを作りたいから。本人は大変だと思うんだけど、逆に言うとミッちゃんにそれだけのスキルがあるからね。
──できちゃうからこそのリクエストだと。
Nan:ロベルト(吉野)さんにしても彼はスクラッチっていう仕事なんだけど、今回は音を仕入れるトラックメーカー的な仕事も入っちゃって。
──トラックメーカー的なことは全くやってなかったんですか?
Nan:あまりやってないみたいだよ。ヒップホップではスタジオワークだけする人たちもいて、曲を提供する人たちやバックトラックを作る人がいる。そこにリリックを乗せてやっていく作業。結構、システマチックになってるんだよね。だからラッパーのリリックを書くスキルさえあれば曲がバンバンできるんだって。
──スクラッチってのはギタリストとかと同じくプレーヤーなんですね。それが今回はトラック探してこなきゃいけなくなったと。
Nan:ロベさん自身もうまく説明できないんだけど、今回、ロベさんはすげえ成長したんじゃないかな。