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INTERVIEW

トップインタビュー騒音寺 Vocal Nabe インタビュー

京都が誇るロックンロールバンド・騒音寺が建立30周年記念として、全曲、頭脳警察のカバーアルバム『WHO ARE THE BRAIN POLICE?』と新作ミニアルバム『Tumbleweed』を発売。そして10月12日に結成以来最大規模となるワンマンライブ『絶対死なない大説法会』を開催

2024.10.05

1994年にVocal Nabeを中心に結成された騒音寺。当初は関西エリアでの活動だったが2000年代より全国展開し、その研ぎ澄まされた和洋折衷の日本語ロックに多くの熱烈なフォロワーを獲得した。2010年には、日本語ロックの祖である頭脳警察との合同ツアー「騒音警察」を行い、毎年5月に主催する京都・磔磔での「騒祭」も恒例化している。
その騒音寺が今年結成30周年を迎え「騒音寺建立30周年事業」として現在全国ツアー『絶対死なない全国行脚』を行っているが、その集大成として大阪味園ユニバースにて単独公演を10月12日に開催する。
そして、この日に先行発売されるのが、頭脳警察のカバー全12曲で構成されたニューアルバム『WHO ARE THE BRAIN POLICE?』だ。昨年7月に死去したPANTAへの追悼の意を込め、頭脳警察の音楽を後世に残すべく、騒音寺とサミー前田(ボルテイジレコード)のプロデュースで制作された。
「俺たちが一番PANTAが天国で歌いやすいようにロックできるさ」という想いで、頭脳警察TOSHIの全面参加を得て制作されたこの作品についてVocalのNabeに話を聞いた。(INTERVIEW:加藤梅造/LOFT PROJECT)

ここまではっきり主義主張を貫く音楽は聴いたことなかった

──Nabeさんが初めて頭脳警察を聴いたきっかけを教えて下さい。また、その体験はそれまでのロック体験と何が違ったのでしょう?

Nabe 大学に入学してすぐ大学公認の「レコード音楽研究会」に入部したんですよ。「レコ研」の活動は週二回、多い時で大教室に15人ほどが集まってバカでかいスピーカーをリヤカーで運んでレコードコンサートを開くというものでね。そこではクラシック、フリージャズ、ソウルにブルーズ、サイケ、歌謡、リリースされたばかりの新譜までありとあらゆる音楽がかかるんよ。俺の知らない世界…玉手箱でしたよ、レコ研は。そこでは特にニューヨークパンクが人気でね。当時俺が良く聴いていたのはStonesや70年代のJ.GeilsBandといったブルーアイドソウル、それにフラワームーブメントの頃のJefferson Airplane、The Byrds、Neil Young。
 
で、活動が終わったら先輩の下宿で安酒飲んではまた音楽を聴いて語るわけ。1年生の俺が足しげく通った先が当時4年生だった藤井真也さんの下宿でね。DoorsやFrank Zappa、Velvet Undergroundはそこで初めて聴かせてもらったんです。藤井さんが邦楽のレコードを持っている事にまず驚いたんですが、突然「お前、頭脳警察て知っとる?お前の事を歌っとるみたいや」と針を落とした曲が頭脳警察2ndのA面ラスト「それでも私は」でね。名前のわりにはフォークだなというのが第一印象でした。
 
でも違ったのは、普段の俺なら途中で聴くのを止めるほどの長めの曲なんですが「もう一回聴きたい。最後まで一人でじっくり耳を傾けたい」と思った事ですね。その次に聴かせくれたのが1stの、もちろんカセットテープでしたが「戦争しか知らない子供たち」「世界革命戦争宣言」。自由がどうのこうのとか、頑張ろうとかアイラブユー一辺倒だった当時のバンドブームに辟易してたから、ガツンとやられましたね。ここまではっきり主義主張を貫く音楽は聴いたことなかったんですよ。その歌世界に飛び込もうとしても飛び込めない、かといって向こうからずかずかと俺の心に入ってくることもない。すごいいい距離感だと思ったの。俺と頭脳警察は。

──たぶんその頃だと思いますが、1990年に頭脳警察が1年間限定で再始動することになりました。初めてライブも観たと思いますが、その時の印象はどうでした?
 
Nabe PANTAのソロは観たことがあったけど、やっぱり頭脳警察ですよ。TOSHIの存在感がすごかったんですよね。どんな曲でもロックにしてしまうというか。ただ、その頃リリースされた「頭脳警察7」は音が綺麗すぎてね。80年代飛び越して時代に合わせた音作りも…。これは仕方のないことかな、PANTAの趣味なのかなとか思ったり…。歌詞にも横文字が出てきたでしょう。俺の中の頭脳警察とはかけ離れてしまっていて、複雑な気持ちでしたね。でもPANTAとTOSHIがいれば頭脳警察だから、受け入れなきゃって。頭脳警察なら無理やりにでもいい方向にとらえてますよ。今でも。


 
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PANTAに2,3発喰らわされる覚悟で行きました

──1990年11月12日に同志社大学で行われた「超非国民集会」の時、Nabeさんは闘争ヘルメットを被って頭脳警察の楽屋に押し掛けたそうですね。
 
Nabe 友人が、同志社の主催者に、一人ローディーが欲しいって言われたみたいで。特に、頭脳警察に詳しい人がいたらありがたいって。で俺に声がかかったんです。楽屋に差し入れ持ってったり、マイクセッティングやアンプくらいなら触れるよって。だって頭脳警察と間近に会えるんでしょ? そりゃ断る理由はないですよね。PANTAに2,3発喰らわされる覚悟で行きましたよ(笑)。こっちは恐いイメージしかもってないから。楽屋の教室で知り合いが俺を二人に紹介してくれて、出演前にステージドリンクと出演後のドリンクを聞いたんだけど、PANTAは「水かお茶でいいよ」と、TOSHIからは「ビールか酎ハイ」と言われましたね。当時はペットボトルの水なんてないから、給湯室から学生がお茶と水と紙コップを用意してましたね。ビールと酎ハイはさすがに大学で売ってないから、慌てて原付バイクで酒屋に買いに行きましたよ。自腹で。見たことないぐらいの大量のタカラ缶チューハイと缶ビールを。
 
騒音警察ツアーの時にそれとなくTOSHIに話したら「あの時の大量のビールと缶チューハイはNabeちゃんだったのか!」って覚えてくれてましたよ。闘争ヘルメットはただ場を盛り上げたかったのと、ヘルメット被って頭脳警察を見たかったから。その方が他のファンも嬉しいかなと。ヘルメットは確かその2年前、当時俺が追っかけしてた京都のDUSTっていうバンドと姫路のPORTCUSSっていう元頭脳警察のベースだったヒロシ君のバンドがどん底ハウスでやるっていうから、仲間とヘルメット被って行こうやと。それに合わせて作ったものなんですよ。持って行った7個のヘルメットうちの3個にはゲバ字でそれぞれ「LSD」「解放」「戦線」と書いて。3人並ぶと「LSD解放戦線」となるわけで。だから、思想とはかけ離れたものでしたけど、目立ったと思いますよ。
 
この「超非国民集会」って天皇即位の、そんなタイミングで開催された記憶がありますね。ライブ中盤に拡声器を持ったやつが客席後方に現れて、おそらく他大学から来たであろう数人のホンモノのヘルメットが現れたので慌ててヘルメット脱ぎましたよ。多分フライヤーを見て怒った右翼学生を抑え込みに来たんでしょうね。大きなトラブルはなかったですよ。
 
──私は90年に横浜国大の学祭で頭脳警察を観ましたが、頭脳警察はライブでも学生を煽ってました。当時、ノンポリが主流だった時代に、頭脳警察のメッセージはNabeさんにどんな影響を与えましたか?
 
Nabe 俺もノンポリでしたけど、他の学生よりは感覚は鋭かったんじゃないかな。人と同じことするのを極端に嫌い始めましたね。マイノリティーこそが核心だと思ったし。世の中が貧しかったり、政治と思想が衝突する時こそ芸術も研ぎ澄まされるとわかってたし。俺が歩いた青春の道は整備されてぬるま湯だったから、自分だけはロックにもっと近づきたいと思って勝手に「Back to 1972」というテーマを自分に与えて、自分を活性化させるために「浅間山荘事件」「兵士たちの連合赤軍」「日大闘争」とか機関紙「戦旗」「赤旗」なんかも読み耽りましたよ。俺の中の「頭脳警察の時代」ですかね。

 
──その後、Nabeさん自身もバンドを結成して音楽活動を始めましたが、ミュージシャンNabeにとって頭脳警察はどんな存在でしたか?
 
Nabe 真似しようとも追いつこうとも追い越そうとも思わなかったですよ。ただ、頭脳警察は過激でラジカルな曲とソフトロック的な曲が混在するでしょ。その部分だけは真似しようと思いました。オリジナリティーが強すぎて。俺は古くから伝わる和音階やらロックンロールやらブルーズを自分なりに解釈して表現するけど、頭脳警察にはブルーズもロックンロールも無いでしょ。いったいPANTAは何に影響受けたのか不思議でね。唯一無二の楽曲群ですよ。「コミック雑誌なんか要らない」だってロックンロールのフリしてロックンロールじゃないんですよ。「歴史からとびだせ」だってブギではないんですよ。「みんなで踊ろうぜ!」ってノリじゃないんですよ、曲が。わかります? 言い方は悪いですが天然の変態ですよ。
 
──2009年11月4日に遂に頭脳警察と騒音寺が初共演、12月3日は騒音寺のライブにPANTAさんが飛び入りしましたが、その時の気持ちは?
 
Nabe 初共演は神戸三宮スタークラブ。流血ブリザード、騒音寺、頭脳警察の出順でした。到着してすぐに楽屋に入ったらPANTAがいてね、いかに俺が頭脳警察のファンかを思い知らせようとレコード全部と持っていた関連書籍を全部テーブルの上にバーッて広げてね。爆笑されましたよ。TOSHIはレコード手に取って「全部持ってないよ。そんなに高く売れるなら持っとけば良かった」って(笑)。狭い楽屋なんですが、あのクラスになりゃ一度ホテルに戻って出番直前に会場入りする人も多いんですが、PANTAもTOSHIも楽屋にいましたね、ずーっと。「ホテルに戻らないの?」って聞いたら「ここにいるよ。楽屋に居れない人っているよね。あれ不思議だなあ」って言ってました。そのPANTAの目の前では流血ブリザードのミリー・バイソンが半ケツでスタンバってて。寛容なんだな、PANTAもTOSHIも。異次元な流血ブリザードとも普通に談笑してましたよ。
 
俺たちのステージにPANTAが飛び入ったのは渋谷クアトロですかね。PANTAは待機時間ずっと本を読んでましたよ。現代詩手帖だったかな。重信房子関連の本でした。ステージでは騒音寺をバックに「コミック雑誌なんか要らない」1曲でした。ライブ直後にベースのこーへいと、PANTAってやっぱり「ロックの人」だな、とか「戦士」に近いものがあるなとか、話した記憶がありますね。
 
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フー・アー・ザ・ブレインポリス?

発売日:2024年11月27日
仕様:CDアルバム
品番:BQGS-0205
定価:2500円+税
発売:ボルテイジレコード
販売:(株)ウルトラヴァイヴ

収録曲
1. 戦慄のプレリュード
2. 赤軍兵士の詩
3. 銃をとれ!
4. マラブンタ・バレー
5. ふざけるんじゃねえよ
6. 真夜中のマリア(転換の為のテーマ)
7. サラブレッド
8. 歴史からとびだせ
9. 落葉のささやき
10. 悪たれ小僧
11. コミック雑誌なんか要らない
12. 万物流転 

作詞作曲:Pantax’s World
(赤軍兵士の詩 原詞:Bertold Brecht)
編曲:騒音寺
プロデュース:騒音寺&サミー前田

Tumbleweed

仕様:4曲入りCD
品番:SOG-1
定価:1000円
*ライブ会場限定、10月12日の公演より発売

収録曲
1.Tumbleweed
2.田舎者めが
3.Don't worry boys
4.からっけつ

LIVE INFOライブ情報

騒音寺 建立30周年大説法会
 
2024年10月12日(土)
16:00開場/17:00開演
会場:大阪・味園ユニバース
前売:4000円
 
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