七転八倒しながらなぜバンドにこだわり続けるのか
──「なぜバンドにこだわるのか?」をこの座談会のテーマの一つにしたいんです。キノコホテルは相次ぐメンバー脱退の果てにパートタイム従業員制を導入してもなおバンド形態にこだわっているし、浜崎さんは松永天馬さんと度重なる衝突を経てもなお「アーバンギャルドは私のすべて」と言い切る。exist†traceは女性だけのヴィジュアル系バンドとして20年以上にわたり不動のメンバーでバンドにしか生み出し得ない表現を頑なに貫いている。女性ならではの気苦労も多いはずだし、摩擦係数が高く制約も多い中でなぜバンドというフォーマットでなければならないのか。その辺りを伺いたいのですが。
東雲:じゃあワタクシから。ここ数年、キノコホテルというバンドの活動展開が余りに目まぐるしすぎて胞子諸君(ファン)もなかなかついてくるのが大変かと思うんですけど、それ以前にワタクシの目指す表現を構築するのについてこれない従業員(メンバー)が多い。他の誰かと一緒に何かを表現する、行動を共にするのが苦手なのはワタクシ自身がよくわかっているし、本音を言えばバンドなんてもうやりたくないんです。本来向いてないし、周囲への気遣いもなぜか伝わらないし、クリエイト以前の苦しみが大きい。これは今まであちこちでお話ししてきたことなのですけど、ワタクシが曲を作る時は全部のパートが一気に降りてくるので、すでにバンドサウンドとして完成形にほぼ近いんですよね。なので、それをそのままステージで披露するとなると、どうしても人員が必要になる。ワタクシが歌とすべての楽器演奏をできる技術があって、全部を一人でリアルタイムで演奏できるならば、ってよく考えるんですけど、それは現実的に無理なので。だからワタクシが思い描く音楽を具現化してくれる人たちを必要としながらも、その人たちと懲りずに毎回軋轢を起こして最悪の事態になるんですけど(笑)、そうまでしてもやり続けることが良くも悪くもキノコホテルのスタイルになってしまっていて。でもそこで諦めなかったから今も続いているわけで、ワタクシはそうやって極めて不器用なやり方でしか音楽に関わることができないみたいなんです。そうやってわがままと苦悶のはざまで自分自身を際限まで擦り減らしながら作り上げるものこそが我が作品であり芸術であるとワタクシは考えているので、もうしばらくはこの形でやっていくのかなと思っています。あとはステージでバンドサウンドならではの爆音に包まれるあの感じが何より好きだったりもするので。だけどチームで動くのは本当に嫌い(笑)。
浜崎:私も東雲さんが仰ったことに近いんですけど、アーバンギャルドは凄く個性の強いメンバーが集まって、キノコホテル同様に何人も脱落者が出つつも(笑)長く続いているんです。今は最後まで残った3人の強者で続けていますが、ぶっちゃけ天馬さんとは仲がめっちゃ悪いですよ?
東雲:そんなのみんな知ってるわよ(笑)。でも有難いことよね、強者が3人も残っているなんて。うちはワタクシ以外ゼロですよ(笑)。
浜崎:もちろん有難いことなんだけど、私は実はバンドにこだわりがあるわけじゃないんです。ドラムとベースとギターという不動の編成でロックをやりたいわけでもないし、どちらかと言えば打ち込みを使ったテクノのほうが音楽的には好きですから。だけどライブをやるにあたっては生のバンドでやりたいという強いこだわりがリーダーである松永天馬にはあるんです。アーバンギャルドの音楽なら私はオケを流して唄うだけでも充分にその世界観を表現できるつもりなんですけどね。だからバンドという形態に関しては……流されているだけです(笑)。
東雲:でもなんやかんや言ってバンドをしっかり続けているんだから羨ましいわよ。
浜崎:私も東雲さんと一緒で他人と共に行動するのが向いてないタイプで、誰かとバンドをやったことがなかったんです。アーバンギャルドが初めて組んだバンドなんですよ。
ジョウ:ああ、そうだったんですか。
浜崎:そのアーバンギャルドを17年も続けてこれたのは、ここでバンドをやめちゃったら他でバンドを一生組めないだろうなと思うから。メンバーを集める才能もないし、アーバンギャルドの一員としてい続けるしかないんです。
東雲:その気持ちは凄くよくわかる。一度バンドをやめて、また同じことをやろうという気持ちにはならないだろうし。
浜崎:うん、ならないと思う。だからアーバンギャルドにしがみついてるのは私のほうなのかなと最近は思いますね。
──exist†traceのおふたりはどうですか。
ジョウ:バンドを始めるきっかけってモテたいとかギターが上手くなりたいとか単純なことじゃないですか。自分もそれに近い感じで、あのバンドみたいに格好良く歌を唄いたいとかシンプルな思いからバンドを始めたんですけど、20年以上同じメンバーでバンドをやり続けてきて今思うのは、バンドにこだわり続けていきたいと言うよりも、一日でも長く、一年でも長く、みんなが愛してくれるexist†traceという自分も大好きなバンドを続けたいという気持ちが一番大きいですね。現時点で自分のソロにも興味がないし、バンドをやめることも考えてないし。仮にバンドをやめたらこの先二度とバンドをやらないだろうなと思うし。
浜崎:同じですね(笑)。
ジョウ:はい、自分も同じだなと思って聞いてました(笑)。
東雲:また一から同じことをやるなんて器用なマネはできないわよね、われわれは。
ジョウ:できないですね。exist†traceとして自分たちの夢や実現させたいことを叶えるのがバンドを続ける理由、モチベーションとなっていますから。
miko:私も思いはジョウと一緒です。単純にバンド・サウンドが好きで始めて、出会ったメンバーがこの5人で、全員が初めてのバンドで5人とも解散を経験したことがないんです。このバンドがなくなるイメージができないし、そもそもこの5人の仲がいいというのもあるんですけど、やっぱりこの5人で叶えたいものがあるし、バンドにこだわるというよりもこの5人でexist†traceであることにこだわっているんですよね。