どこのシーンにもハマらないバンド人生を歩んでいる
──ちなみに最初聴いたとき、90年代のビールのCMソングを思い出しましたね。「冬物語」ってCMソングを毎年作ってた時期あるんですよ。なのでJ-POP王道を狙いに行ったんだなってのはすごい伝わってきた。
倉品:なるほど。でもあんまりこの路線って演ってる人が少ないと思うんですよね。だからこそしっかり完成できたのは良かったなと。僕らって誰もやってないことを演るって大事にしてるところなんですよ。王道の音楽性だからこそ、あんまりそういうふうに見られないかもですけど。前もお話したように僕らってどこのシーンにもハマらなかったバンド人生を歩んでるので(笑)。
──うん、そうだねえ(笑)。
倉品:そういう意味では結成当初から浮き続けていて、期せずして誰もやってないことを演れてるんですけど。でもいつからか、自分の中でも意識はずっとありますよね。20年、30年と長いタームで続けていくためには誰もやってないことをやんなきゃダメだよなってことだと思うんです。あるときからそこに気づいて、ずっと意識してるところではあります。今回もそういう曲を自然と選んだのかもしれませんね。
──シンプルにとてもいい曲だと思いますよ。
倉品:もともと自分の中でもすごい古い曲だったってのもありますけど、作為的じゃないんですよ。
──レコーディングするにあたって特別意識したポイントとかってありました?
倉品:サックスをフィーチャーしようってのは最初からありました。あとはピアノですね。作ったのが4年ぐらい前なのでデモ自体が僕の中では青かったんです。その青さを今の自分たちの年齢なりにどうやって払拭したアレンジしようかなって。
──楽器編成的にもJ-POP感につながる要素ではありますよね。
倉品:アルトサックスがTRI4THの藤田淳之介さんで。狙いとしては達郎さんのライブで土岐英史さんが鳴らしていたサックスとかその辺を踏まえながらアレンジのブラッシュアップをしてたんですけど、曲を作った当時って僕らの中にそれほどシティ・ポップって意識はなかったんですよ。
──なるほどね。
倉品:だから曲の骨格自体がJ-POP的だったのかもしれないですね。その辺をうまく構築できたからこその仕上がりかもしれません。
──自らハードルを上げた1曲だなあって思いました。前作2曲もすごく好きな曲なんですけど、今回のシングルってすごく間口が広いと思うんです。だから今まで知らないお客さんに届いていく可能性は十分あるし、そのぶん誤解されることもあるよって思いました。
倉品:それはそうかもしれないですね。この曲ってスーパーで買い物してたときに思いついたんですよね。その直前にサザンの「YOU」を聴いてやたら感動してて(笑)、ちょうどテレビのスタジオライブかなんかで演奏されてたのを観たんですよ。それが素晴らしくって。「やっぱりいい曲だよなあ」って感動しながらスーパーに買い物行って思いついたという。で、ああいうところで流れる音楽って感覚としてJ-POP的なものが多いじゃないですか。
──そうですね。それこそジャンル関係なく。
倉品:そこで僕は自分たちの「YOU」みたいな曲がスーパーで流れるのを錯覚したというか。聞こえてきちゃったんですよね、自分の脳内で。「これはよさそうな曲が出来るぞ」って家に帰ってすぐに作ったのがこの曲なんですよってことを今思い出しました(笑)。
──じゃあ流してもらわなきゃダメじゃない(笑)。
つのけん:「サイレンス〜」のときってそれこそシティ・ポップの要素も踏まえたディスコ・チューンを意識したりとか尖らせる部分はより尖らせるとか、あとは林さんと一緒に「BRAND NEW〜」を作ったときって抜かりなくというか最後の最後まで諦めない、詰めるところは詰めるっていう制作姿勢はものすごく勉強になりましたし。そういう自分たちの経験値を上げてきたものが今回活きてるとは思いますね。あとはJ-POP感っていう部分だとドラムが鍵になってると思ってるんですよ。
──あ、それは納得です。
つのけん:スネアの音色はめちゃくちゃJ-POPの音色なんです。前2作はその部分がシティ・ポップしてるんですけどね。いい意味で若い音色になってると思ってて。
──リバーブ処理もそういうふうに聞こえるのを手伝ってる気はします。
倉品:それはありますよね。
つのけん:はい。シティ・ポップって細かいニュアンスとかタッチ感って縦のラインが強いんですけど、この曲に関しては横幅が強いというか開けたイメージになってる。シンバルの1音の長さもこれまでとは違ったアプローチで。いい意味で若々しいというか疾走感ある仕上がりになってるんです。そこに行き着くまでに今までの研究が活きてるなっていうのはあります。
倉品:あえてJ-POP感をうまく構築できたよね。
つのけん:そうそう。だから僕の中でもすごい納得のいく出来になってると思ってます。
倉品:ドラムが作ってるムードは大きいかもね。林さんと作業してて、学んだことのひとつに全パーツに意味を持たせるって部分なんですよ。それって当たり前だし、そうなってなきゃいけないんですけどね。例えばダビングしているシンセの音色ひとつにしても…気づいてはいたんですけど、やり切れてないところが林さんとご一緒することであらためて意識できるようになったんですね。裏で鳴ってる旋律とか、音色の選び方とか。そういうのをメンバーそれぞれが1音1音鳴らしていく意味合いっていうのをこれまで以上に「濃く」できた1年だったんじゃないかと思いますね。今まで薄かったところもあったと思うし。
つのけん:みんな抜かりなくやる意識を持てた1年だったんじゃないかな。