日本のスキンヘッズ・シーンの象徴的存在である鐵槌 -Sledgehammer-(1990年結成)、孤高の激情系ポストハードコア・バンドと称されるenvy(1995年結成)、ヘヴィロックから実験的サウンドまで縦横無尽に体現するBoris(1992年結成)、日本のハードコア創世期の先駆者であるBAREBONES(1994年結成)という、ジャパニーズ・オルタナティヴ・シーンを30年以上にわたり牽引し続ける4バンドが一堂に集結するイベント『New Vintage Axis』が来たる11月18日(土)にLIQUIDROOMで開催される。同時期にバンドを始動させながら活動領域が微妙に異なる4組それぞれの渾身のショウを一挙堪能できるだけではなく、各バンドの歴史を感じさせる特別なセット、この日限りの豪華コラボレーションなど、唯一無双かつ至高のライブ・パフォーマンスを終始味わえるまたとない一夜となる。このイベント開催に向けて、これまで明かされなかったイベントの趣旨や意義、4組が集うことの必然、注目の演目内容とそれに臨む思いや意図などについて、田中昭司(鐵槌 -Sledgehammer-)、河合信賢(envy)、Atsuo(Boris)、後藤達也(BAREBONES)の4人に各バンドを代表して語り合ってもらった。四者四様の人となりが窺い知れるこの座談記事を読めば必ずや4組のステージを体感したくなるだろうし、『New Vintage Axis』と題された本公演が日本のロック史において後世まで語り継がれるべきイベントであること、それが決して誇張の過ぎる表現ではないことがわかるはずだ。生きる糧としてバンドを選び、決して歩みを止めずに一心不乱に打ち込んできた表現者にしか発揮できない壮絶なライブを、各人が固持してきた"軸 -Axis-"が熾烈に交差する様を、千載一遇の舞台でぜひとも見届けていただきたい。(interview:椎名宗之)
意外にも接点の多い4組の交差点
──当日の出演順に話を聞かせていただきます。まずBorisですが、今回は“boris -drone set-”名義で20台前後のアンプを大量設置するという尋常ではない機材量で臨まれます。この特別形態には鐵槌、envy、BAREBONESを相手にする上で生半可なことはやれない覚悟のようなものを感じますが。
Atsuo:11月の後半にCoaltar of the Deepersとのツアーがあって、その差をつけたいのがまずあったんです。コロナ禍以降に“drone set”でのワンマンを何度かやってきましたが、ある程度大きな会場じゃないと大量のアンプを持ち込めないんです。リキッドルームならそれが可能だし、当日はVJのRokapenisと僕らの照明チームも参加するので、今回のイベントにおける長尺のイントロダクションみたいな位置を担うことにもなると思います。
──“極限の愛撫”と称されるステージは、アンプから放たれる轟音・爆音ばかりではなく、大量のスモークや照明演出も相乗効果となる総合芸術と言えますね。
Atsuo:音圧を皮膚で体感することはもちろん、そのヴィジュアルにせよスモークの匂いにせよ、聴くと言うよりも体感してほしいんです。五感以上の感覚に訴えかけるような体感を目指しているし、それを基本に僕らは表現活動をしています。
──この日は終始、“boris -drone set-”の荘厳なアンプセットを背後にして4組のライブが繰り広げられるというのも痛快ですね。
昭司:俺たちは後ろに日の丸を掲げるかもしれない。このあいだのチッタで掲げた日の丸が8メートル×10メートルの武道館サイズでさ、リキッドの天井は4メートルしかないから日の出みたいになっちゃうって(笑)。それでも入らないから、リキッドにちょうど良いサイズで作ろうかなと思って。
──続くBAREBONESですが、Borisからの流れと言えば、今年27年振りに再発されたBAREBONESとBorisのスプリットを想起しますね。
後藤:そのスプリットに入ってる曲も当日はやるつもりです。
Atsuo:BAREBONESが去年、15年振りにアルバム(『ZERO』)を出して、アナログも作りたいと聞いていたんです。ちょうどイギリスのDOG KNIGHTS PRODUCTIONというレーベルが僕らの過去の音源をリリースしたがっていたので、1996年にBAREBONESと出した10インチにボーナストラックを入れて12インチで再発したんです。その流れで同じレーベルがBAREBONESのアルバムもアナログ化してくれて。今回、90年代の同時期から活動してきたこの4組が揃ったときに、自分たちの歴史を少し垣間見れるセットをやれたらいいなと思ったんです。これまでの時間の長さと現在進行形の音を表現できればということで、BAREBONESには僕らとのスプリットからのセットもプレイしてほしいというリクエストが出たんですよね。
後藤:俺らの出順はBorisの後だから、スプリットから1曲やってから現行のBAREBONESを見せるのが良い流れかなと思って。
Atsuo:僕らもファースト・アルバムの『Amplifier Worship』が11月にリリース25周年を迎えるので、今回はそのアルバム中心のセットにしようと考えているんです。その当時から“drone”がキーワードでもあったし、自分たちが一貫して提示し続けてきたスタイルをここで見せられるかなと。
後藤達也(BAREBONES)
──出演陣の繋がり的なことで言うと、BAREBONESのファースト・シングル『CHAKA-BUSTER』にはノブさんがコーラスで参加されているんですよね。
河合:そうなんです。対談の第一声がまさか『CHAKA-BUSTER』の話になるとは思わなかったけど(笑)。
Atsuo:20000VでやったBorisとBAREBONESの共同企画にenvyを呼んだことがあったよね。BAREBONESがenvyを呼んで、BorisがEVIL POWERS MEを呼んで。
──イベントの背景として、実はいろんな接点があったのを改めて感じますね。
河合:僕は後藤さんと長谷(周次郎)君がやっていた、BAREBONESの前身バンドであるANIMAL BOATのスタッフをやっていましたからね。一度だけやってクビになりましたけど。生意気すぎて(笑)。
後藤:あまりに使えないローディーだったから(笑)。
河合:「乾電池を買ってこい」と言われて「イヤです!」と反抗したんです。大阪まで連れて行ってもらったのに(笑)。
後藤:違うよ。「栄養ドリンクを買ってこい」と言ったら「どこに売ってるんですか?」とか聞いてきてさ(笑)。
河合:自分で調べろよ! って話ですよね(笑)。
──当日のBAREBONESのセットには、昭司さんが参加する曲もあるそうですね。
後藤:アンコールでBorisとenvyがセッションすると聞いて、俺たちも何か一緒にやろうと思って。もともと昭司君が唄ったらいいだろうなと思っていた曲があってね。
昭司:ああ、そんなこと言ってたね。
後藤:俺が好きだったEXECUTEっぽい曲を作って、それをBAKIさんに唄ってもらえたらなあ…とか妄想していて。その曲を昭司君に唄ってもらうと合いそうだなと。最初からその曲一択でしたね。
──昭司さんが他のバンドに飛び入りして唄うのはかなりレアですよね?
昭司:そうでもないよ。Motörheadのトリビュートが出たとき、そのイベントでCRACKSと一緒に「Ace Of Spades」を唄ったことがあるから。唄える曲なら唄える。(河合に)だけど今回、BAREBONESと一緒にやるときはどんな見栄えで唄えばいいんだろう?
河合:僕に聞かれてもわかりませんよ(笑)。
後藤:BAREBONESで裸で出て、鐵槌でだんだん着込んでいけば?(笑)