このイベント自体が“チャレンジ”そのもの
──とてもコンセプチュアルなアンコール・セッションなのが窺えますし、それ以外にも各バンドのセットで意欲的な試みが一貫して盛り込まれていて、最後まで飽きさせないイベントと言えますね。
昭司:さっきノブが“チャレンジ”という言葉を使ってたけど、このイベント自体が“チャレンジ”そのものだよね。ごく当たり前のルールに則ればもっとやりやすかったのかもしれないけど、そんなことを続けてもずっと同じことの繰り返しなだけだからさ。
河合:そうなんですよ。結局、動員のことだけを考えたら無難で安全な道を選ぶしかなくなるんです。無闇にチケット代を上げることはできないし、売るものはTシャツとCDくらいなんだから、対バンをするにも同じような面子になっていく。そのほうがお客さんも入りやすいので。もちろん、今回のように一風変わった面子のイベントばかりだとバンドも疲弊してしまうかもしれないけど(笑)、年齢も音楽性も人間性もイデオロギーも全然違う面子でライブをたまにやるのも面白い。元は同じパンクロックが好きという共通点があって、今やそれぞれが独自の道を切り開いて誰にも真似できない表現をやっている…その四者四様の姿を見届けてほしいです。
Atsuo:大量に情報が溢れ返る昨今だからこそ、こうして楔を打つようなイベントを4組が集まってやれるのはとても意義深いことだと思うんです。日本のロック史の中でこんなイベントがあったと語り継げるだけの内容だと思うし。
──みなさんのキャリアを考えれば、ただ4組が集まってライブをやるだけでも充分話題になるのでしょうし、本来はここまで新たなチャンレジをしてなくてもいいのかもしれませんね。
河合:むしろイベント自体をやらないほうがラクなのかもしれない(笑)。安定や成功を求めるのならやらないほうがいい。でもそういうことじゃない。こういうイベントでしか味わえない楽しさ、イベントならではの面白い試みというのが絶対あるし、それは各自のワンマンではできないことなんです。僕らはその準備と気構えで大変だけど、お客さんには純粋に楽しんでもらいたいですね。
Atsuo:コロナ禍以降、こういうイベント形式の動員が厳しくなってきていますよね。2マンやワンマンのほうが動員がありますから。
河合:かなり顕著ですよね。イベントになるとお客さんが入らないとよく聞くし。
Atsuo:でも今回のイベントは絶対に見てほしい。凄いものを見られるはずだから。
──みなさんの下の世代のバンドもこのイベントを見て大いなる刺激を受けるでしょうね。まだまだ胡座をかいている場合じゃないと思わせるパフォーマンスの連続なのでしょうし。
昭司:そうあってほしいね。結局、先人の笠をかぶって後を辿っても面白い表現はできないんだよ。自分のやってるバンドが唯一無二じゃないとつまらないんじゃないかな。他の誰かと似てても仕方ないし、誰かの下について同じことをやったって面白くないよね。(河合に)そうしてやってきたもんね?
河合:僕らの場合、何もない荒地の中でバンドを動かしていくのが時代的に当たり前だったので。パソコンやケータイのない時代からビラを作ってアピールしていたし、誰かもわからないやつから届いたエアメール信じて海外ツアー行ったり、悩みながらも手探りで突き進むのがごく普通のことだった。客は入らないかもしれないけど自分たちのやってみたいこと、面白そうなことを優先させてしまうところがあるんでしょうね。
──みなさんはいわゆるバンドブームが過ぎ去った90年代初頭、ライブハウス冬の時代に活動を始めたので、道なき道を行くのがデフォルトみたいなところがありますよね。
後藤:そうなのかな?
昭司:わからない。そういう時代背景とかまるで関係ないから(笑)。
河合:まあ、ライブはとにかくノルマを払いながらやってましたね。客なんて全然いなかったし。
Atsuo:そんな時代を起点として生き残った4組だし、本当の意味でのインディペンデントなバンドが集結したイベントだと思います。それぞれが全く違うやり方で30年やり続けてきたし、今でこそ多様性の時代とか言われているけど、多様であることは当たり前のこととしてずっとやってきましたから。その4バンドを同時に体感できる今回のイベントは、いろんな世代やいろんな人種に伝わるものがあるはず。こうして対談したり、イベントの意図を伝えることも怠らずにやっているのがインディペンデントの在り方だし、この時代にこれだけ面白い試みのイベントがあるのを知らしめたいですよね。Borisに関しては、まだここでは言えない試みを当日お披露目しようと考えているので。
河合:たとえばの話ですけど、どれだけ鳥が好きな人でも、鳥だけしかいない動物園に行っても飽きるでしょう? やっぱり虎やライオンも見たいじゃないですか。(昭司に向けて)今日は僕の隣に虎がいるけど。…あ、虎じゃない、狼だ(笑)。だけどそういうものだと思うんですよ。いろんな動物がいてこそ面白いわけで、その感覚って大切だと思うんです。