一回バラけても結局また再会する運命
香織 ファントムギフトは東京のバンドですよね?
チャーリー でも結成は多摩地区。俺が10代の頃、福生にKMスタジオっていうのがあったんですが、高校卒業してすぐにそこのスタジオで働くようになったんです。そこにある日、「ここにジャックスのレコード持ってる人がいるって聞いたんだけど」って突然訪ねてきた奴がいたんです。それがピンキー青木だった。ジャックスのレコードは当時ほとんど出回ってなかったんですが、俺はたまたま持ってたんですね。それで「ああ、俺持ってるよ」って言ったら「貸してくれ」って。なんで見も知らぬ奴に貸さないといけないんだって思ったんだけど(笑)。ただ青木は多摩美に通ってて、すごくカッコいい服を着てた。いろいろ話したらいまバンドもやってると。それでレコードも貸し借りするような仲になってバンドに誘われたんで、まあこいつだったらいいかなと。俺の方が年下なのに完全上から目線(笑)。ある時、スタジオに行ったらギターのナポレオン山岸がいて、ベースが彼の弟だったのかな。話したら彼は俺の働いてたスタジオの裏に住んでたんです。
香織 それはもう運命ですよ。そういう人って一回バラけても結局また再会するんですよ。今度のライブのメンツもそうだけど。
チャーリー そう言われると確かに。
香織 ところで、その時から名前はナポレオンとかチャーリーだったんですか?
チャーリー 最初は遊びでスタジオに入る程度だったんだけど、多摩美関係の人から渋谷でライブを企画してるからバンドで出てくれって言われて、じゃあバンド名考えようかって。
香織 まだバンド名も決まってなかったんだ。
チャーリー 最初、ゴーストギフトって案もあったんだけど、結局、ファントムギフトという名前でそのライブに出たのがデビューですね。そのライブの後、山岸君の弟が受験で辞めることになり、久保田君が入ることになった。
香織 メンバーの名前は?
チャーリー 自主制作盤で『ジェニーは嘘つき』を出す時に、370円という60年代のGSの頃のレコードの値段にしたんです。その頃はDAMNEDの覆面バンドNAZ NOMAD AND THE NIGHTMARESやFUZZTONESなどネオ・ガレージのバンドが出てきた時代で、パンクの人たちが60sに原点回帰するシーンの流れがあった。Banglesもそうだったけど。それで、じゃあ日本はGSだな、という話になって、サリー、ナポレオン、ピンキー、チャーリーという名前を付けたんです。そこが始まりですね。
香織 そこに本名がルイというボーカリストが入るっていうのも運命的!
ザ・ファントムギフト
そこにいるだけでみんなが幸せになる存在
サミー ルイ君はザ・ヘアーでのデビューの時は何歳なんだっけ?
ルイ 1987年ぐらいだったのかな。17、18歳ぐらいだったと思うけど。
香織 勝手なイメージだけど、ザ・ヘアーは東京のすごいオシャレな「ザ・東京」のバンドって感じで見てた。その中心人物だったルイ君がファントムギフトに入ったのも驚きでした。
チャーリー 去年、ロフトのイベントHALLOWEEN BALLに呼ばれたんです。ピンキーが脱退してからも時々3人でやってたんですが、そうなると俺が歌うことになるんで、誰か他にボーカルいないかなあとずっと探してた。ルイとはその前からよく遊んでる仲だったんで、まあパーティーだし、ちょっと誘ってみようかって。それで声掛けたらすぐOKの返事で「王子様の格好しますよ!」って。
香織 似合いそう! 王子様に抵抗なかったの?
ルイ ファントムギフトはすごいバンドだし、自分が手伝うことでもっとやってくれたらいいなと。俺、ここ数年はモッズ・シーンのテコ入れをやってたんです。
香織 テコ入れ!? この村を盛り上げないとみたいな?
ルイ そう。それでJAMES TAYLOR QUARTETを呼んだりとかして、集客もロフトも満員になるぐらいにはなったんですが、だんだん嫌になってきて(笑)。根底にパンクな気持ちっていうか、D.I.Y.で音楽を通じて世の中変えたいみたいな気持ちがみんなあんまりないのかなって思えてきて。モッズってもともと不良のカウンターカルチャーなはずなのに日本はそれが弱いんです。不良の文化になってない。それで一生懸命テコ入れしてたんだけど…。それがファントムギフトならできるんじゃないかって。実際、俺がファントムに入ることになって、ガレージシーンからの期待度をすごく感じるんです。ただ俺がスーツ着ても普通の杉村ルイなだけで誰も喜ばない。やっぱり王子様の格好でみんなに喜んでもらいたいなと。
香織 やっぱりルイ君は、俺が俺がじゃなくて、みんなに喜んで欲しいっていう目線が最初からあったんだと思う。それがファントムギフトで王子様になることなんだって。
チャーリー ルイが入った時に「好き勝手にやってくれ」って言ったんです。テンプターズのショーケンさんみたいにGSの不良で行けって。
香織 ああ、そういう雰囲気ある。でもがんばってテコ入れしなくても、これからは王子様としてそこにいるだけでみんなが幸せになる存在になるんだと思うんです。幸せな人って人を攻撃しないし、他人のことが気にならなくなる。
チャーリー ファントムギフトは杉村ルイにテコ入れされて今があるんです。
香織 テコ入れの着地点が王子だった!
チャーリー 自由と愛です。