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トップインタビュー寺井到(映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』監督)- 生活とロックが常にイコールだった日本屈指のロック・ギタリスト、その最晩年を追い続けた記録映画の傑作が堂々の完成

生活とロックが常にイコールだった日本屈指のロック・ギタリスト、その最晩年を追い続けた記録映画の傑作が堂々の完成

2023.08.17

 今年の1月29日に74歳で永眠した日本屈指のロック・ギタリスト、鮎川誠。1970年に結成されたサンハウスの一員として頭角を現し、1978年にシーナ&ロケッツを結成して以来、最後まで現役のロック・ミュージシャンとしてステージに立ち続けた鮎川の素顔に迫ったドキュメンタリー映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』が8月11日(金・祝)より福岡で先行上映中、8月25日(金)より全国公開される。
 鮎川誠は昨年春に膵臓がんが発覚、余命5カ月の宣告を受けていたことを家族以外には一切公言していなかったことが死後に明かされたが、大病のことを伏せ、一本でも多くステージに立とうと覚悟を決めていた鮎川の最晩年の姿が本作には克明に記録されている。
 筆者は昨年10月、新宿ロフトでのシーナ&ロケッツ結成45周年突入記念ライブの開催前に鮎川へインタビューを行なった。その際も彼は病気のことはおくびにも出さなかったが、今にして思えば、「毎回が勝負やし、本気やけん、次があるち思うてないからね」とは語っていた。そのインタビューの直前に亡くなった盟友・松本康(ジュークレコード)のことも気丈に語っていた。自身の病気のことでそれどころではなかったはずなのに。
 本作を観ているとそんな記憶が不意に蘇ってきてつい感傷的になってしまうけれども、監督を務めた寺井到は追悼映画と位置づけられることは決して本意ではないと言う。それよりも、ひたむきに自分の好きなことに打ち込む情熱と、その活動を支えてくれる家族に注ぐ愛情がイーブンで、生活とロックが常に不可分一体だった鮎川の生き様、誰からも慕われ、愛される彼の物腰柔らかく優しい人となりに焦点を当てたことが肝要だ。何も奇抜で特異で異端であり続けることばかりがロックではない。ロックをやり続けながら妻と3人の娘たちと過ごす時間を大切にするのが鮎川の信条であり、そうした家族の絆をオープンにしていたのが鮎川の、シーナ&ロケッツのユニークな特性だったと言える。
 その特性、溢れんばかりの魅力の一端を凝縮させたのが本作であり、ロック映画の枠に留まらず、ロックと家族の普遍的な絆を描いたドキュメンタリー映画の雄編としてこの先もずっと鑑賞され続けるに違いない。完成に至る紆余曲折を寺井監督に聞いた。(interview:椎名宗之)

最晩年の鮎川誠を記録するのが運命だったのかもしれない

──2015年6月に放送された『追悼シーナ ユー・メイ・ドリーム~シーナ&ロケッツ物語』(RKBテレビ『豆ごはん』内で特集)を起点として、2022年7月に九州地区で放送された30分のドキュメンタリー番組『74歳のロックンローラー 鮎川誠』、その拡大版として2023年2月5日にTBS『ドキュメンタリー“解放区”』で放送された『シーナ&ロケッツ 鮎川誠と家族が見た夢』、同作の未公開映像を加えて2023年3月に『TBSドキュメンタリー映画祭』にて東京限定で上映された劇場公開版(同年4月に福岡で凱旋上映)と変遷を辿ってきた本作ですが、今回の映画化に至る経緯を改めて聞かせてください。

寺井:TBSとその系列局で放送したドキュメンタリーに追加素材を付け足した作品を映画館で上映しようというのが『TBSドキュメンタリー映画祭』のそもそもの試みで、その映画祭自体が配給会社や一般のお客さんに対するプレゼンの場でもあったわけです。そこで評判が良ければ、全国公開へとコマを進められるという。『シーナ&ロケッツ 鮎川誠と家族が見た夢』を『ドキュメンタリー“解放区”』の一環として制作したときは1時間、正味46分くらいの尺で、映画祭に向けては70分程度の作品に仕上げていく予定だったんですが、ご承知の通り、鮎川さんが今年の1月29日にお亡くなりになってしまった。その時点で配給会社から「全国公開する作品にしてみてはいかがでしょう?」と提案をいただいたんです。

──『ドキュメンタリー“解放区”』で放映された『シーナ&ロケッツ 鮎川誠と家族が見た夢』は今年2月5日に放送が決まっていたところ、その7日前に鮎川さんが永眠するというまさかのタイミングでしたね。

寺井:まるで最速の追悼番組みたいになってしまいましたが、いろんなタイミングが重なった結果だったと思います。最晩年の鮎川さんを記録するのが自分の運命だったのかもしれないけど、その役目は別に僕じゃなくても良かったのかもしれないし、たまたま僕が去年からその作業を始めたに過ぎなかったのかもしれない。でも去年から鮎川さんを追い続けていなければ、鮎川さんの最晩年の姿を記録しておくことはできなかったわけで。シーナ&ロケッツのライブはスタッフの皆さんがその都度撮影していたけど、ステージを降りた鮎川さんのその時々の感情や舞台裏で起きていたことまでは記録されていなかったし、それらを僕が取材していたことが今回の映画に繋がったとは言えますね。大袈裟に言えば、鮎川さんの人となりをちゃんと残しておけという天の指令みたいなもの、目に見えぬ何かに突き動かされていたんじゃないですかね。

──“ROCK'N ROLL MUSE”の思し召しみたいなものがあったと。

寺井:そういう偶然以上の何かがやっぱりあったような気もします。

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© RKB毎日放送 / TBSテレビ

──今にして思えばと言うか、撮影や編集の過程で鮎川さんがタイムリミットを覚悟している瞬間に気づいたようなことはありましたか。

寺井:あったのかもしれないけど、そういうのはどうしても後づけになってしまいますよね。去年の5月に膵臓がんが発覚して余命5カ月の宣告を受けていたことを鮎川さんは家族以外に公表していなかったし、今後の音楽人生について聞いても、いつも通りの前向きな発言しかしていなかったし。本編には使わなかったインタビューで「来年75歳を迎えますが、まだまだバンドをやり続けていかれますよね?」と聞いたら、「ブルースマンみたいに椅子に座ってギターを弾いたっていい」みたいなことをお話しされていたんです。いま思えば残酷なことを聞いてしまったなと思いますが、鮎川さんは至って普段通りの前向きな鮎川さんでした。残された時間の中で一本でも多くライブをやりたいという意識が強くあったと思います。

──テレビ放映なり、一度劇場公開したものをアップデートする上で気に留めたのはどんなところでしたか。特に今回は鮎川さんの死を取り扱わざるを得ないし、前向きな鮎川さんの人となりを描く上であまり湿っぽいものにしたくないという意図もあったのではないかと思いますが。

寺井:そもそも作品の推敲を重ねていく作業自体が初めてのことで、その都度真摯に取り組んでいくしかなかったですね。ずっと追い続けていた鮎川さんがお亡くなりになったことで、鮎川さん自身の言葉はもう聞けなくなってしまったけれども、鮎川さんと縁の深かった方々、シーナ&ロケッツに影響を受けた方々という他者が語る鮎川さんの言葉をまとめる作業を今回は割り切ってできたのかもしれません。

──寺井監督が最後に鮎川さんとお会いしたのはいつ頃だったんですか。

寺井:去年の11月ですね。佐賀でライブがあって(佐賀バルーンフェスタ)、その翌日も福岡でお会いしました。この映画には使ってないんですけど、ジュークレコードの松本(康)さんの遺品の中にサンハウスのごく初期のライブ・テープがあったんです。それを鮎川さんに聴いてもらおうと思って、ライブの後にRKBへ寄ってもらったんです。テープを聴いてもらったら、「これは俺も知らんね」とお話しされていました。そのときもちょっとお痩せになったなとは感じましたけど、全然辛そうではなくて。去年は“鮎川誠 Play The SONHOUSE”というプロジェクトも始まっていたし、そうした秘蔵音源の発掘を含めて、まだまだこの先も鮎川さんのバンド人生は続いていくんだろうなと感じながら撮影を続けていました。だけどお亡くなりになってしまったことで、その方向性がそぐわなくなってしまったんです。

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シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~

出演:鮎川誠 シーナ 鮎川陽子 鮎川純子 LUCY MIRROR 唯子
ナレーション:松重豊
監督・編集:寺井到 撮影:中牟田靖 宮成健一 丸本知也 編集:高尾将 音効・MA:寺岡章人
協力:ジュークレコード ロケットダクション ビクター・エンタテインメント
プロデューサー:緒方寛治 坂井博行
製作:RKB毎日放送 製作幹事:TBSテレビ 配給:KADOKAWA 宣伝:KICCORIT ©RKB毎日放送/TBSテレビ
2023年/日本/カラー/16:9/5.1ch/98分
福岡先行上映中、8月25日(金)より全国公開

【STORY】
 1979年にシングル「ユー・メイ・ドリーム」がヒットし、日本のロックシーンに大きな足跡を残したバンド、シーナ&ロケッツのギタリストとして休みなく走り続け、最期までステージに立つことにこだわった鮎川誠の生涯に迫るドキュメンタリー映画。
 揺るぎないロック哲学とロック教養を持った鮎川は最高のロックギタリストであると同時に、妻と3人の娘たちと過ごす時間を何より大切にする優しい家庭人でもあった。「生活とロックはイコールという世界に、シーナが引き込んでくれた」と話す鮎川。だが、15年2月14日に妻でバンドのボーカルのシーナが死去。シーナ&ロケッツはそこで止まるかとメンバーさえも思ったものだが、鮎川はバンドの動きを止めなかった。3人になったシーナ&ロケッツは以前にも増して精力的にライブ活動を行ない、やがてシーナの意志を引き継いでLUCY MIRRORこと末娘の知慧子がボーカルで正式加入すると、さらに活性化。22年に結成45周年を迎え、鮎川はまだまだ走り続けると誰もが思っていたのだが……。
 今年3月に開催されたTBSドキュメンタリー映画祭において上映された『シーナ&ロケッツ 鮎川誠と家族が見た夢』をもとに、所縁の人物へのインタビューやプライベート映像、貴重な音源などを加え再編集した内容となっている本作。本篇では、甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)や浅井健一、大江慎也、友部正人らがインタビューに答えているのに加え、バンドのファンでもあった俳優の松重豊がナレーションを務めている。笑顔でロックを続けた日本で最も愛されたロックンロール・ギタリストの素顔と、最後までステージに立ち続けたいという情熱、そして生涯見続けた夢とは──。

【出演著名人(50音順)】
浅井健一、石橋凌、大江慎也、川嶋一秀(シーナ&ロケッツ)、甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズ)、土屋昌巳、友部正人、奈良敏博(シーナ&ロケッツ)、花田裕之、松重豊、松本康、百々和宏(MO'SOME TONEBENER)、森純太(JUN SKY WALKEWR(S) )、山口洋(HEATWAVE)

LIVE INFOライブ情報

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映画『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ~ロックと家族の絆~』公開前夜祭「『死ぬまでロック』を語る」
【日時】2023年8月24日(木)イベント / 19:00~20:30
【場所】REDSHOES(東京都港区南青山6-7-14 チガー南青山B1)
【登壇者】増子直純(怒髪天)、ちわきまゆみ【MC】平野雄大
【会場チケット】¥4,000(ワンドリンク付き)
 ▶お申込み:https://t.livepocket.jp/e/aoown
【配信チケット】¥1,650
 ▶お申込み:https://x.gd/6ByoS

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