今年の“ROUTE 17”は音楽的にハードルが高い
──つまり池畑さんとセッション経験のある強者が随時引き寄せられているわけですよね。2015年の“ROUTE 17”で吉川晃司さんがエルヴィス・プレスリーの「Hound Dog」を披露したときは、池畑さんがサポートを務めたCOMPLEXでの経験が活きているんだなと思いましたし。
池畑:自分が一緒にやってきた関係性もあるし、あとは「吉川がプレスリーを唄ったら面白いだろうな」という発想、直感みたいなものが俺の中でずっとあった。あのときはプレスリーの「Hound Dog」とキャロルの「ファンキー・モンキー・ベイビー」を唄ってもらったんだけど、吉川は意外にもどちらもあまり詳しくないって言う。でも絶対に合うからという俺の意向を汲んでくれてやってみたら上手くハマったんだよね。
▲八代亜紀をゲストボーカルに迎えた2016年の“ROUTE 17”
──八代亜紀さん(2016年)や加山雄三さん(2017年、2019年)といったビッグネームをお招きするという采配、慧眼も凄いですね。
池畑:八代さんや加山さんはたまたまご一緒させていただく機会があって、そういういろんな縁を辿ってオファーさせてもらった。“ROUTE 17”は誰でも簡単に出られるわけじゃない、ハードルの高いステージにしたかったし、八代さんや加山さんに出ていただいたことである種の風格を出せるようにもなったと思う。まあ、いろんなタイミングやつながりもあるんだけどね。八代さんに関して言えば、その前年に『哀歌 -aiuta-』というブルース・アルバムを出していて、そこに梅津さんや(藤井)一彦が参加していたから。
──今年で“ROUTE 17”も9回目で、毎年同じ演目をやるにもいかないし、選曲も人選もハードルが上がる一方だと思うのですが。
池畑:最初は自分たちの好きなブルースやロックンロールを勢いに任せてやれば良かったところもあったけど、だんだんそういうわけにもいかなくなり、たとえば3日間のグリーンステージ全体の中の一つとしてどんなテーマにするかというバランスも考える必要が出てくる。今年の“ROUTE 17”は全体の流れの中のどのポジションなのかっていう。当初の目論見だった朝イチに出てきてただ盛り上げればいいってわけにいかないし、進化した“ROUTE 17”も見せたいからね。
──今年はUAさん、EGO-WRAPPIN'の中納良恵さん、ウルフルズのトータス松本さんをボーカリストと迎えることが発表されていますが、どんな内容になるのでしょう?
池畑:例年とはちょっと違う形で女性ボーカルをフィーチュアするのはどうかという提案を受けて、それで考えてみようと。やっと曲目も決まって、バンドの連中はみんないまバタバタの状態(笑)。今年は音楽的にわりとハードルが高いのかもしれない。これまでは一人のゲスト・ボーカルに対して数曲しかできなかったし、全体の構成を考えるとそのほうが良かった。でも今回は、一人の持ち歌が多めになりそうだね。ソロもあり合唱もありで見せ場を増やしつつ、バンド的にもある程度成熟した部分を魅せられると思う。本当はあまり成熟した感じにしたくないというか、バンドとしてもっと自由な部分を残したほうがいいのかなと考えていたんだけど、百戦錬磨の面子なので自由な部分はいくらでも出せるだろうと思って。
▲2019年の“ROUTE 17”
Ⓒ Masanori Naruse
──リハーサルはどれくらい時間を割けられるものなんですか。
池畑:バンドは4日間で仕上げる。ゲストは2日間のゲネプロで仕上げるんだけど、そこに来れる人もいれば来れない人もいる。
──フジロックには海外のバンドも数多く出演するし、彼らに負けてはいられないという姿勢もあるでしょうし、彼らが聴いて育ったクラシックスを演奏する手前、生半可なものは聴かせられないという思いも当然あるでしょうし、リハーサルは自ずと気合いの入ったものになるんでしょうね。
池畑:それは凄いあるね。さっきも言ったけど、“ROUTE 17”は誰でも出られるものじゃないから。それに比べて“苗場音楽突撃隊”はもっとラフな感じ。“突撃隊”というだけあって、その場でやれる人と「何やる?」と決めて、こっちは一貫して向こうがどう出ても応えられるハコバン態勢。その緊張感もあるけどね。
──演者としてスタッフとしてフジロックに参加してきた四半世紀の中で、とりわけ印象深かった出来事とはどんなことですか。
池畑:どういうわけか、俺はミュージシャンの送り迎えをすることがたまにあってさ。あるときホテルの前にいたら、向こうから女性がやってきて「レッドマーキーまで乗せてって」って言うわけ。それがビョークだったりね(笑)。別に送迎車を頼んでいたはずなんだけど、これも何かの縁だから車の後ろに乗せて送ったよ(笑)。あと、車に乗せたミュージシャンが偶然にも全員ドラマーだったりとか。スペシャルズのジョン・ブラッドベリー、エルヴィス・コステロのバンド(ジ・アトラクションズ)のピート・トーマス、グレン・マトロックのバンドのクリス・ムストーというドラマーばかりが乗り込んできてね。運転する俺もドラマーだし(笑)。やっぱり面白いのはバックステージかな。グリーンステージに行く手前にロンドンチームがやっているワークショップがあって、そこにいると本番を控えたミュージシャンが通り過ぎるわけ。ジョン・フォガティやロキシー・ミュージックの面々が目の前を通っていくのは壮観だったな。