ニイマリコ、初のソロアルバム『The Parallax View』をリリース! 2020年にHOMMヨの活動休止後、コロナ禍を自身の思考を深める時間とし、そしてソロとして音楽と向き合っていく。インプットするならアウトプットで羽ばたかせる。Bandcampで定期的に曲を発表。集まった9曲がザワザワと動き始め、『The Parallax View』が完成。
プロデューサー/アレンジャーに剤電、ゲストボーカルに川本真琴、さらに冷牟田敬(ex-paradise、昆虫キッズ、どついたるねん)、tomoya Ino(NEHANN)など多数のミュージシャンが参加。スッと凛々しかったり、風通し良い空間が広がっていたり、ヒリヒリとミニマムだったり、濃密にしてエモーショナルだったり。表情の違う曲たちが、静かに連なり、終わらない、終わりにしたくない、終わりにしてはならない物語を作っていく。
ニイさんへのインタビュー。ジェンダーの話も、カート・コバーンやボビー・ギレスピーの話も、ホイットニー・ヒューストンの話も、広島の話も、もちろんニイさんの生き方や思うことも、すべて『The Parallax View』に繋がっていくのだ。(interview:遠藤妙子 / artist photo:星野佑奈)
ドロッドロに絶望的なものを作ってみようと思った
──ソロアルバム『The Parallax View』がリリースされました! 前回インタビューさせていただいたのはHOMMヨの『No Past To Love』のときでした(2018年12月)。そのときニイさんは「虚無だけど大いなる“YES”がある作品」、「自分に嘘をつかなければ孤独にはならない」って言っていて、まさにソロである今作に繋がってるなって。
ニイ:繋がって…るんだとしたら嬉しいです。でもHOMMヨではやらなかったことをやろうと。初のソロなので。
──HOMMヨが活動休止して、どんなふうにソロに向かっていったのですか?
ニイ:2019年の末ぐらいに休止しようって決まって、2020年の1月ぐらいに発表して。その直後にコロナが出てきたんですけど。まず私、2019年の時点で来年は酷い年になりそうだってザワザワした気持ちがあって。アメリカでは2020年の大統領選の前まで、4年間のトランプ政権で、やはり影響力の強い国なのでどんどん世界的にイヤ~な感じになっていく気がしていて。差別や格差がますます酷くなり、新自由主義的な方向に、どんどんおかしくなっていくぞって。ただ流れを見ているだけでなく、ちょっと落ち着いて本を読んだり知識をインプットしたいって思った。HOMMヨの『No Past To Love』はそれまでやってきたことが綺麗にまとまった作品でしたし、収録曲は5曲だけどフルアルバムを作ってるぐらいの気持ちだった。ロックバンドとして一番いい感じの作品だと思う。
──いい作品でしたもん。ロックバンドとして一つ区切りがついて。
ニイ:バンドでないなら音楽なんかやるのか? と疑いながらソロに向かうんですけど。ただその前に、いろいろ勉強したい、本ばかり読んでいました。コロナ禍でさらにいろいろ出てきたぞーってなり。2011年の東日本大震災から、いやその前から大変なことは起きてるのに格差社会は露骨になってきているし、格差を作ってる政権が続いても選挙の投票率は低い。もう何が起きてもそのまんまなんだろうなっていう絶望、そういうヴィジョンから始まったんです、今回の楽曲は。絶望的なものを作ってみようって。もう、ドロッドロな(笑)。
──いわゆる社会的なことへの意識は、どういうきっかけで持つようになりました?
ニイ:10代の頃、小泉政権からなんかおかしいぞと思ったんですけど。その頃、プライマル・スクリームをメチャメチャ好きになって。1999年、2000年頃、同時多発テロのちょい前ですね。ボビー・ギレスピーのインタビューを読むと政治色の強い左翼って感じの人で。自分のバンドの話は全然してなくて(笑)。イギリス政権や王室批判にとどまらず世界情勢や社会状況に言及してて。学校で教わらないぞ、かっこいいなという単純な気持ちと、私自身、自分の置かれている立場を考えなきゃと思ったんです。ずっとボビーは憧れの存在なので、憧れてる人の意見に影響を受けているだけ、偏った思想に洗脳されてるんじゃ? って言う人もいるかもしれないけど(笑)、権力を批判的に見るっていうのは間違ってないと思う。
──全く間違ってないと思います。ロックから音楽以外のことも教わってきたんですね。
ニイ:そうです。
──ジェンダーに関しては? ニイさんはオルタナと言われるバンド/ミュージシャンが好きだと思うけど、たとえばパンクロックやハードコアにはある肉体性やマッチョな部分をオルタナはほとんど感じさせないですよね。
ニイ:自分が好きな男性のミュージシャンっていわゆるマッチョな人がいないんですよ。非マッチョなとこにいる人。私は、自分自身が女なのか男なのか分からない感じがあるんです。どっちでもあるし、どっちでもない感じがして、自分の中でまだ混乱している。それを踏まえて、私は非マッチョの男性に共感しているのかな。非マッチョの男性になりたいと思っているんだと思います。たとえば、さっきのボビーやカート・コバーンが好きだから、ああいうのが好みの異性である、というわけではなく。
自分にはできないという認識が自分らしさの始まり
──好きなミュージシャンの恋人になりたいではなく、その人のようになりたい。
ニイ:いや、その人のようにじゃなく、その人自体になりたいんです。まったく現実的ではないので、自動的に諦めがついている感じでしょうか(笑)。最近、高校生を中心としたバンドやZINEを発表するイベントにゲストで呼ばれて、弾き語りとMCをやったんですね。で、自分も高校生の頃に初めてコピーした「Smells Like Teen Spirit」をやりまーすってなって、歌詞を改めて読む機会があったんです。そしたらメチャメチャ理解できた、凄いストンと腑に落ちた。あの歌詞は、いわゆるボーイズクラブ的なところに入れない男の子の歌だったんだ! って。「Smells Like Teen Spirit」は男性のムラムラ的な気持ちや、わざと悪ぶってしまう体質を否定的というか、傍観者的に見ている感じがします。でもいつか自分の中の何かが毒牙になって誰かを傷つけてしまうかもしれない、そんなのイヤだっていう歌だと、今になって感じました。少年ナイフやレインコーツに入りたいって言ったのも、音楽的な興味はもちろんあったはずですが、自分の男性の肉体が監獄のようで苦しかったんじゃないかと。想像でしかないですが、自制を通り越して自罰的な性格を感じます。
—–ニイさんの歌詞で一人称を「俺」ってしてるのもある。それは曲の世界観に合う言葉として? 自分がその人になってる感じ? 自分の中にもともとあるものとして?
ニイ:自分の中に一人称が「俺」な人がいるって感じです。だから、Limited Express (has gone?) でYUKARIさんに、いろいろな女性の表現者が出演する「フォーメーション」のMVに呼ばれて凄く嬉しかったんですけど、でも自分は女性嫌悪みたいなものがあって男になりたいって思ってるところだって全くないわけではないかも、そんな自分がフェミニズム的な曲に参加していいのかと、一抹の不安はありました。でも曲や歌のメッセージはそういうものではないですよね。YUKARIさんの考えは「自分は自分らしく」ってことだと思うし。私もそう思う。
──多様性こそフェミニズムだと思うし。でもそうやって一度立ち止まって考えるってなかなかできない、素晴らしいと思います。
ニイ:自己反省はします。自分の癖というか、すぐ自分が悪かったって思っちゃうことがあって。どこか自己否定的な。だからナイーヴさを内包した表現に惹かれるのかも。ただ、どんなにネガティブな歌でも、作る行為自体はとてもポジティブだし。そこを信じてやってる感じはあるんです。実際に着手する前の気持ちがドロッドロに絶望的でも、ポジティブだぞと(笑)。
──それこそ音楽の力ですよ。実際今作、絶望的でも強い光が射すようだし、一人でシュッと立ってると同時にいろんな音やいろんな人と出会えた喜びがあるし、ドロッドロでも清廉だし。多面性があるアルバム。
ニイ:嬉しいです。あの、今年(2021年)の1月の頭にDEATHROさんのインストアライブを観に行ったんです。凄くいいなって思った。DEATHROさんはバンドを長くやって、その後ソロとして歌い始めて、自分の好きなことに溢れた音楽をやってる方ですよね。それが伝わるし、その上で凄くエンターテイナーだなって。多くの人を笑顔にできる、楽しませる、っていうのが一番凄いアーティストだと、どこか思ってるんでしょうね。私にそういうものは作れない。でもそこに負い目を感じずにやろうって決めたんです。
──自分にはできないってことを知るのが、オリジナリティのスタートですもんね。
ニイ:そうですね、自分の担当じゃない、と思うことが自分らしさの始まりなんだ。自分には無理だ、自分にはできないって素直に思えるのは、自分の性格の良いところだと気づきました(笑)。もともと私は周囲の人に変に気を使ってしまう性格で。HOMMヨの頃も曲を作りながら、みちゃんやマホさんはこんな曲は嫌かなあ、って考えすぎてモジモジしたり。普段から基本的に「なんかすいません」って気持ちになってしまうんです。
──全然そうは見えない。
ニイ:意外だってよく言われます。ただ嫉妬はしないんですよ。人に対して羨ましいって気持ちが全然ない。自分はダメだ~とは思うんですけど、他人が羨ましいとかズルいとか、そういうのは全然ないんです。偽善的で嫌だなとずっと思ってるところで、今回それについてもよく考えたんですが、たぶん自分のためにいろいろやってるからだと。自分のためにやってるから「すいません」って気持ちになるんだろうし。