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INTERVIEW

トップインタビューニイマリコ - 初のソロアルバムで魅せるダークでポップな音楽性、確固たる意志と冷徹な視座

初のソロアルバムで魅せるダークでポップな音楽性、確固たる意志と冷徹な視座

2021.12.07

川本真琴、ホイットニー、蜘蛛の糸

──絶望的な音楽を作りたいっていうのは、そこから見えるものを知りたいからなんですね。やっぱりニイさんは好奇心が強い。最後の曲で「LILITH」の開かれていくような、光が射すような。まるで蜘蛛の糸を掴んだような…。

ニイ:なんと! 蜘蛛の糸っておっしゃいましたね! この言葉は川本真琴さんが一緒に歌ってくれた「A.N.G.E.L.」のPV撮影の話に繋がるんですけど…、

──あ、川本真琴さんとのデュエットの話を聞かなきゃ。凄くいいですよね。で、どういう話なんですか?

ニイ:私、一番最初に好きになったアーティストがマイケル・ジャクソンとホイットニー・ヒューストンなんですよ。特にホイットニーを初めて見たときの衝撃、なんてキレイな人なんだろう! 歌も素晴らしい! って子どもの頃に思った。それでまな板にホイットニーのサインの練習をしてたみたいで(笑)。覚えてないんですけど。大人になってから、なんか同じような文字がグチャグチャたくさん書いてるまな板を見つけて、親に何コレ? って聞いたら、あんたが描いたホイットニーのサインだって(笑)。そのぐらい好きで。でも彼女はドラッグのせいで、お騒がせセレブみたいなイメージで亡くなった。ドキュメンタリー映画(『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー』を観たんですけど、実績を称える映画じゃなく、ボロボロになっていく人生を、関わった人たちのインタビューで構成されたもので。ホイットニーには同性の恋人もいて、彼女がコカインを持ってきていたので、あの女がホイットニーをボロボロにした! 疲弊した娘のもとにドラッグを持って現れたレズビアンだ! って家族の視点も語られてて。ショウビズ界にもまれてボロボロになったホイットニーが彼女を信用しちゃったのは事実だろうけど、でもホイットニーをメチャメチャ働かせて金儲けさせてたのは、被害者ぶってる家族でもある。血縁者の横暴も出てくるドキュメンタリー。ずっと一緒だったシッターが、彼女が幼少期にとある人に受けていた虐待まで告白してて、もうほんと涙も出ないくらいでした。

──辛すぎる…。

ニイ:もう、こんなの出してもいいの? って映画だったんです。で、私はホイットニーをモチーフにした曲をいつか作りたいって思っていて。ソロなんだから作るぞ! って。川本さんは凄い好きだったアニメの主題歌「1/2」っていう曲が出会いです。“おとこの子になりたかった”ってフレーズがあるんですよ。子どもの頃それを聴いて、なんだか切ないというか、心に残って。ずっと大事な曲なんです。

──「1/2」を初めて聴いたのが…?

ニイ:中学1年ぐらいかな。まだジェンダーについての知識もないし、頭で整理ができるわけもなく。でもグイッと掴まれた。いろんなことが想像できる曲ですよね。そんな川本さんと、今回まさか自分で作った曲を一緒に歌えて、もう夢みたいなんです。「A.N.G.E.L.」に“あいつら うらやましいの?”って歌詞があって、川本さんは「“あいつら”って誰なの?」って具体的に質問してくれて。「どういうイメージなのか、どういうイメージをもって歌えばいいのか知りたいです」「ニイさんがどういう気持ちで書いたのか知りたいです」って、そんなことまで聞いてくださるの!? ってすっかり舞い上がってしまい、もう何だこいつ、と思われてもいい! と思って、ホイットニーの話をして(笑)。たぶん、ホイットニーは普通になりたい、普通の家庭で普通に幸せになりたいって思ってたと思うんです。でも普通の生活、普通の幸せってものがいいって、あなた自身が思ってるんじゃなく、思うしかなかったんじゃないですか? あなたは才能があって美しくて、でもボロボロになった。悪いのはあなたじゃなく、天使のようなあなたに群がった周りですよ。あなたはずっと素晴らしい声で歌ってきた。ほんの小さな頃でも、あなたの歌を大好きになった、こっちを信じてください! っていう…、ただある意味では、DIVAへの狂信的なファン心理でもある、という。はぁ、長い話ですね(笑)。“あいつら”っていうのは“普通の幸せ、普通の生活”っていう、世間が決めたことでもあるんです。いろんな含みを持たせたつもりではありますが。

──話を聞くとさらに曲の世界が広がるなあ…。

ニイ:で、「A.N.G.E.L.」で川本さんとMVを作った撮ったスタジオが、川本さんがファーストアルバムを作ったスタジオだったんですって。偶然にも。当時、曲ができなくて長いこと缶詰にされて、けっこう辛い思い出の場所だったらしく。そこは窓から高速道路や海が見えるんですけど、「この風景が凄くイヤなものだったけど、今日、同じ風景をとてもいい気分で見ることができました、どうもありがとう」って。

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──わー。素敵だ。

ニイ:もう、「エンダーーーー!!!」ですよ(笑)。川本さん、イヤな思い出だから記憶に蓋をしてるとこもあるのかなって。でも「心が違うだけで見えるものが変わるんですね。今日は凄く楽しかった。アルバムの完成を楽しみにしてます」って。で、そのスタジオで「A.N.G.E.L.」のMVを撮ってくれた監督さんが「芥川龍之介の『蜘蛛の糸』をイメージして撮りました」って言ってたんです。やっと辿り着いたー(笑)。

全ては過程で、結末はない

──やっと辿り着いたー(笑)。川本さんの話も、「解体」の同じ歌詞でも違って聴こえるっていうのも、まさに今作のテーマですよね。

ニイ:そうなんですよ! タイトルの『The Parallax View』は“視差”って意味で、様々な見え方があって、繋がったり、離れたり。偶然の積み重ねというか。実際、本当にいろんな視点の違いの積み重ねでできているアルバムって実感していて。

──本作はヨーロッパのイメージだったりアジア的なものも感じさせるけど、日本の童謡も浮かんできました。

ニイ:凄い嬉しいです。デヴィッド・ボウイが自分の曲にイギリスのわらべ歌を入れてたって本に書いてあって。そういう心を忘れなかった人なんだなあって。童謡はけっこう意識している、自分の音楽に入れているものです。簡単に口ずさめるフレーズというか。どちらかというとおじいちゃん、おばあちゃんっ子で、一緒に歌った記憶がありますね。出身が広島なんですが、特に祖母がいろんな話をしてくれていて。

──それこそ同じ場所にいて、まったく違う体験をしてきた人がそばにいたんですね。

ニイ:そうです。子どもの頃から原爆や戦争の話を聞いてたし。個人の視点だから余計に劇的なんですよ。「黒い雨が降ってきて、とにかく喉が渇いたから飲んだけど、瞬間で吐いて、変に鮮やかな黄色い色をしていた。あれを吐かなかったら絶対に死んでた」とか、学術的・医学的な言葉を知らないからか、視覚的でシンプルな表現なんです。おばあちゃんの性格もあるのかもしれないけど、「マリちゃん、飴あげるよ~」ってのと同じテンションで原爆の話をする人で。一緒にお風呂入ってたから被曝痕も見てるし。おばあちゃんは「道端に人がたくさん並んで死んでた」「川にどんどん入っていって死体が流れてた」って言ってなあ、どんな感じだろうと、想像しながら川や街を歩いていましたね。

──ああ。もちろん、おばあちゃんの話は戦争反対の気持ちを強く持てる話、持たねばいけない話だけど、今生きてる同じ場所で、多くの人が亡くなって、その時そこにいた人がここに一緒にいて…。その不思議さというか。

ニイ:はい。いま話していて、広島でおばあちゃんと暮らしていたことは、自分の一つの大きなルーツなんだなって気づきました。

──ニイさん自身も聴き手も、聴くたびに気づかなかった自分、気づかなかった世界を見られるような、そんなアルバムだと思う。

ニイ:嬉しいです。

──なんかね、一曲一曲にも結末がなくて、アルバムを通しても終わりはないんだよね。こう、瞬間が連鎖していくアルバム。人生ってそういうものだ! って思った(笑)。

ニイ:そうなんですよね! たとえば言葉遊びみたいですけど、ロックンロールって、ロックしたものが転がっていくからロックンロール…、ロックはロックするってことかもしれないし、石かもしれないし、石は転がって砂になっていく、その砂が散らばっていく、でもまたどこかで砂が集まって石になっていくのかもしれない。形は変わっていっても終わりじゃないですもんね。常に過程。そう思えば変化も受け入れやすくなるんじゃないかなって。ジェンダーに対しても、男だからとか女だからとかっていう定義なんか必要ないし、男と女っていう、割り振る名前がついちゃっただけ、ならいいな。恋とか愛とかも単なる名前で、足りないことを補い合ってる間柄を、ただ好きだっていう間柄を、愛とか恋っていう名前に収めることもないと思うんです。逆を言えば全部が愛だし、全部が恋だっていいわけで。なんで何か形に収めなきゃなきゃいけないの? もっとフワッとしたものでいいんじゃないの? って思います。全ては過程で、結末はないんですから。

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The Parallax View

2021年12月1日(水)発売
Amp-mutation TUR049
価格:¥2,750(税込)

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【収録曲】
1. 解体
2. アーリーサマー
3. 心臓抜き
4. A.N.G.E.L feat.川本真琴
5. まるい窓
6. 呪詛
7. ワンダーウォール(album ver.)
8. 大人はわかってくれない
9. LILITH

ワンダーウォール(new single ver.)

各種ストリーミング/ダウンロード・サービスで配信

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LIVE INFOライブ情報

12月9日(木)タワーレコード池袋店(インストアライブ)
12月12日(日)B'z cover event『Be There Anytime, Don't Leave Me Vol.1』(FPBN YouTube channelにて生配信)
12月25日(土)梅田ハードレイン(大阪)
12月26日(日)the Modern Lovers(名古屋)
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