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INTERVIEW

トップインタビューニイマリコ - 初のソロアルバムで魅せるダークでポップな音楽性、確固たる意志と冷徹な視座

初のソロアルバムで魅せるダークでポップな音楽性、確固たる意志と冷徹な視座

2021.12.07

ソロでは「自分のため」ってことから逃げない

──ああ、確かに。

ニイ:でね、本当は自分のためにやってるのに、HOMMヨの頃は、なんていうか、そこを蔑ろにしてしまったというか。メンバーと音を出すことがバンドの楽しさなんですけど、それを広げていこうとなったときに「バンドのため」にやっていて「自分のため」って感情を蔑ろにしていた。「HOMMヨのため」っていう大義名分を作ってた。それはそれでいいところもあるけど、悪いとこもある。

──ああ、逃げられるもんね。

ニイ:そうなんです。HOMMヨのためだからって言い訳ができる。言い訳ができるようじゃダメなんですよね。自分のためなら言い訳はできない。だから、ソロでは「自分のため」ってことから逃げないようにしようって。今回、剤電君にプロデュースを頼んで、剤電君がこんなに頑張ってやってくれてるのが申し訳ないな、彼にも旨味がなければいけないんじゃないかとつい思ってしまって。でも剤電君のためにやってるわけじゃないぞ! と自らを奮い立たせる、の連続。ある意味一番大変な作業だったかも、これが(笑)。

──ニイマリコの音楽を作るってことで一緒にやってるんだから。遠慮は必要ない。

ニイ:「申し訳ない」って思うことこそ剤電君に失礼だ! って。…いやホント、結局各曲のほとんどの楽器を弾いていたり、いろいろなミュージシャンに声をかけてくれたり、その上制作時間の拘束も長かったしで、頭は上がらないのですが。

──「すみません」じゃなく「ありがとう」ですよね。なんか私、スゴイ道徳的なこと言ってるけど(笑)。

ニイ:でもホントそうです。私は自分のために自分の音楽を作ってるってことをちゃんと自覚して。

──剤電さんとはどういう経緯で?

ニイ:ダークで絶望的なものをカッコイイ感じに仕上げられる人って誰かいるかな? ってなったら、もう剤電君以外あり得ない! って(笑)。それまで彼とは挨拶する程度でどんな人かまでは知らなかったんですが、SoundCloudに上げていた自作音源は素晴らしかったし、剤電君もHOMMヨをずっと好きだって言ってくれていて。『No Past To Love』のコメントも頼んだことがあって、そこに「ロックンロール」って書いてくれてたのが凄い嬉しかったんです。多岐にわたって音楽を聴いていて、それに映画やゲームなんかも凄く詳しい人なんですよ。

──絶望的な音といっても、新しい音との出会いの幸せを実感してるのが伝わります。ニイさんって好奇心が強いんだと思う。自分に対しても好奇心があるよね。自分を知りたいっていう。知識を得たい、インプットしていきたいっていうのもそういうことだと思うし。

ニイ:そういうことなのかなー。このアルバムを作るスタートが、2020年はイヤなことになる予感があったとこから始まって。コロナが出てきてオリンピックがあって、どうやって動けないほど落ち込み過ぎずで切り抜けてこられたかというと、本を読んだりインプットできたからだと思うし。でも知れば知るほど辛いことがあるっていう。

──本を読む、勉強するってことは、イヤなことを知ってしまうことでもありますよね。

ニイ:そうなんですよね。知らなければ楽だったってことがいっぱいある。でも知らないことの怖さもあるじゃないですか。そういう思いも曲にしました。で、インプットしたらアウトプットしていかないとホントに爆発するみたいな気持ちになるんだなと(笑)。だから曲作りはセラピー的な感じもあって。音楽を作ることで、頭や心の中を整理してるんだなって。だから支えなんですよね、音楽を作ることは。本当に必死なんですけど、でも支えになってる。

“嫌われたくないと思ってるのはなんで?”が大事

──そうやって作り上げた『The Parallax View』。まず1曲目の「解体」は、最初に話してくれた、トランプ政権であったり権力者の末路というか。

ニイ:そうです。

──哀愁もあるんですよね。ちょっとゴジラみたいな哀しさ。

ニイ:あ、そうですよね。最初のとっかかりはトランプだった。好き放題をほったらかしにすると、あんなエゴの塊になっていく。ただし人間は誰でもそうなっていく可能性がある、そういう怖さをトランプを見てて感じて。もちろん日本の政治家や権力者にもいますよね、そういう人。で、最初、Bandcampで発表したときはもっとこう、硬質的なイメージだったんですけど、それを剤電君がドラマティックで流麗なアレンジで返してくれました。歌詞はほとんど変えてないんですけど、だからこそ違いを感じてもらえればなと。私は、歌詞は両義的な意味を持たせるように作っているつもりで。同じ歌詞でも人によって、聴いた時間や場所によって、その人に心情によって違って聴こえるように。同じ歌詞のまま、曲調によって意味やニュアンスがなんなら180度変わってくる。そういうのが音楽につく言葉の魅力だと思う。例えば、アイドルのヤなことそっとミュートさんに歌詞を書いているのですが、彼女たちが歌うと、私が想定していた意味とは真逆に聴こえてきたんです。歌詞の可能性をそのとき凄い感じたし、もっとやりたいって思ってます。

──ニイさんの歌い方も曲によって別の表情がある。

ニイ:歌でも表現することを集中的にやってみたいなって思ったので、楽器も弾きませんでした。

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──歌詞で言うと、3曲目の「心臓抜き」の“臆病になれたことが 嬉しいなんて”が大好きです。

ニイ:ええ! 嬉しい! 妄想の、完璧なシュッとしたマンのラブソングに挑戦しました(笑)。完全に好きな人に魂抜かれちゃった、そのときに、あ、俺はコレが体験したかったんだ! って気づくという。

──完璧なマンは、実は自分の弱いとこを見せられる人に出会いたくて、それが恋なんだっていう。

ニイ:そうなんですけど、いえ、ちょっと違って。えっと、見せられるじゃなくて、この人に見せたくないってマジに思っちゃったみたいな。そっちのほうが衝撃だった、っていう。これが恋ってやつなのか? と、…ジッと手を見る(笑)。

──ああ、恋をしたではなく、“恋をしたようだ”って歌詞だもんね。

ニイ:そうそう。身を持ち崩したかった、変わってみたかった。そうなるかもしれない。その快感。だけどまだちょっと恥ずかしい、まだまだっていう。微妙~(笑)。

──微妙だ~(笑)。この一節はニイさん自身の感情だよね?

ニイ:そうです、私は臆病なので。

──その臆病な自分を肯定するっていう、肯定する覚悟というか…。

ニイ:そうですね。私自身は臆病なのはしょっちゅうで。自分が好きな人、たとえば今回ずっとサポートしてくれてるシマダさん(TRASH UP!! RECORDS)に嫌われたくないって思う、シマダさんから信頼を得たいって思ってる。そういう感覚になれたのは、凄く嬉しいことなんだなって。

──ああ、なるほど。嫌われたくないっていうのは、嫌われたくないからいい人ぶるっていう、あまりいい意味ではない感情でもあると思うけど、でも、そう思えるほど好きな人に出会えたのは凄い喜びだもんね。

ニイ:そうそう。だから「嫌われたくないなんて思わないで、あなたらしく向かっていきましょう!」ってだけの歌は嫌いなんです(笑)。その手前の機微! 嫌われたくないって思ってるのはなんで? ってとこが大事だと思うので。だから、いわゆるネガティブな感情って大事だと思うんですよ。否定することではないだろうって。そこから見えるものが絶対にあるから。

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The Parallax View

2021年12月1日(水)発売
Amp-mutation TUR049
価格:¥2,750(税込)

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【収録曲】
1. 解体
2. アーリーサマー
3. 心臓抜き
4. A.N.G.E.L feat.川本真琴
5. まるい窓
6. 呪詛
7. ワンダーウォール(album ver.)
8. 大人はわかってくれない
9. LILITH

ワンダーウォール(new single ver.)

各種ストリーミング/ダウンロード・サービスで配信

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LIVE INFOライブ情報

12月9日(木)タワーレコード池袋店(インストアライブ)
12月12日(日)B'z cover event『Be There Anytime, Don't Leave Me Vol.1』(FPBN YouTube channelにて生配信)
12月25日(土)梅田ハードレイン(大阪)
12月26日(日)the Modern Lovers(名古屋)
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