俺たちのやりたいロックンロールを堂々とやれば俺たちらしくなる
──「空にキッスを」は巧者揃いのセッションなのにあっさり終わるのがいいし、そのさりげなさに熟練者の余裕を感じるんですよね。それは今回のアルバム全体の作りにも言えて、どの曲もパンチはあれどトゥーマッチではないし、程良くあっさりで小気味良さがあるからこそ何度も繰り返し聴けるのだと思います。もっと他の曲も聴いてみたいと感じるところで終わるのが功を奏しているというか。
JOE:結果的にこの長さで今回は良かったと思ってる。もうちょっと聴きたいと思ってもらえるのは物足りないわけじゃなく、むしろこの6曲でちゃんと成り立ったアルバムだからというか、1曲ごとの個性がしっかり届いているからだと思う。これ以上曲を増やしていろいろやるととっ散らかるだろうし、このサイズでちょうど良かったよ。
──ミュージックビデオを「桃色の雲に」にしたのはJOEさんの判断だったんですか。
JOE:そういうわけでもなくて、映像を撮ったのが3月くらいでね。その時点ではまだレコーディングをしてなくて、詞と曲が90%以上出来上がってるのが「桃色の雲に」しかなかったんだよ。先方からミュージックビデオを撮らせてくれと言われたときに形として一番まとまっていたのが「桃色の雲に」だったってだけで。だから撮影したときはスタジオで録った練習の音に合わせて動いて、その後のレコーディングでもテンポとアレンジを一切変えなかったわけ。まあ、実はギターソロは違ってるんだけどね。映像では分からないようになってるけど。
──歌詞を大胆にフィーチャーした作りは髙原秀和監督の意向だったんですか。
JOE:あれは俺がそうしたくてね。Adoの「うっせぇわ」とか昨今はリリックビデオが増えてきたし、見ていて面白いじゃない? それで後から歌詞を足してくれと監督にお願いしてみた。
──ミュージックビデオでも歌詞に重きを置いているのが象徴的ですが、近年は平易な言葉で深みのある歌詞を作るJOEさんの作風が以前に増して強まってきたように感じますね。
JOE:否が応でも歳を重ねるわけだから、前より大人っぽい歌詞を書きたい気持ちはあるよね。今回はステイホームで時間が多少あったし、出来上がった歌詞を何度も推敲することができたのが良かった。「スパイ大作戦」なんて自分としてはこれで完成と思った後でもまたどんどん変えていったし。いざ唄ってみたら変えたくなるところがあったりしたので。
──たとえば「空にキッスを」の「この時間は俺たちを試してる」「この時間は無駄じゃない」という至言に辿り着くまでに何度も言葉を書いては捨て、研鑽を積む作業を繰り返してきたと思うんです。極限まで引き算したがゆえにシンプルで力強い言葉だけが残ったように感じるのですが。
JOE:パッと思いついたことをそのまま書いただけではないよね。今回は特に緻密に歌詞を組み立てたつもりだし。まあそれはさておきで、最後に「空にキッスを」を聴いてくれた人には前向きになってもらえたらいいなと思うね。あれは俺なりに「上を向いて歩こう」を意識して書いた曲だから。この1年半、みんながみんな以前とは違う生活スタイルを余儀なくされて、どんな職種の人でも仕方なく国や行政機関の言うことに従わなくちゃいけないことがいっぱいあったと思うんだ。個々人の自由も奪われて、最初の緊急事態宣言のときは特に街からすっかり人が消えてさ。そうやって世界中を脅かすウイルスが蔓延したとしても、空だけはずっと変わらずそこにあるんだよ。太陽や月は等しく俺たちを照らすし、空や自然はタフだなとつくづく思う。だから俺たちも下を向くより上を向いていたほうがいい。そんなことを歌詞にしたいと考えていた頃、ショッピングモールをたまたま歩いていたら“KISS the SKY”と書いてあるTシャツを見つけてね。シンプルだけど格好いい言葉だなと思ってさ。そこから広げて歌詞を書こうと思って完成させたのが「空にキッスを」だった。
──バンドや店を持続させるのもこのご時世では大変な苦労が伴うはずですが、そんな状況でも「この時間は俺たちを試してる」と唄えるJOEさんもだいぶタフですよね。
JOE:俺は昔からタフだよ。悩まないし、迷わないし。ちょっと能天気なのがいいんじゃないの?(笑) 歌詞に関して言えば、文句タラタラみたいな不満だけを唄う歌は昔に比べて減ったと思うし(笑)、今は聴いてくれる人が少しでも共感してくれる歌を作りたいんだよ。もちろん所々に見えない棘や毒をまぶせてはいるけどね。
──本作で言えば「スパイ大作戦」みたいな歌には刺激的なスパイスが随所にまぶされていますね。
JOE:「スパイ大作戦」で俺の言いたいことは別にあるんだけど、正体を晒さない騙し合いを決して否定もしてないわけ。そこに良いも悪いもなくて、あまり夢中になってると痛い目に遭うかもよ? くらいの話なの。
──なるほど。今の創作意欲と作業ペースを維持していただきつつ、三部作の完結編を早く聴きたいものです。
JOE:個人的には次もミニがいいかなと思ってるんだよね。すぐに取り掛かりたいし、なるべく早く出したいから。メンバーの誰かがくたばる前にね(笑)。三部作を無事作り終えたら、いつまでできるか分からないけどじっくり吟味したフルアルバムを1枚出せたらいいなと思う。今はワクチン接種率が上がってコロナの新規感染者数が急激に減ってきてるし、できれば早めにミニアルバムを出して、それを持っていろんな街のライブハウスへ行きたいね。もちろんまだ予断を許さない状況だけど、もしコロナがこのまま落ち着くようであればさ。今はまた原君がどんどん曲を書いてるし、俺もまだ歌詞を書いて唄いたいし、周りの誤解や偏見も減ってきたのでバンドがやりやすくなったしね。
──誤解や偏見が未だあるものですか。
JOE:何も知らない人はヴィジュアル系だったんでしょ? とか言うし、聴いたこともない人にはハードロックでしょ? とかヘヴィメタだったんでしょ? とかよく言われたよ。でもこれだけ長くバンドをやっていれば、分かってくれてる人たちに分かってもらえれば俺はそれで良くて、みんなG.D.のことをロックンロールバンドだと認識してくれてるし、特にここ10年くらいでやっと安心してバンドができるようになった。周りの誤解が減った分だけね。だから俺たちのやりたいロックンロールを堂々とやれば俺たちらしくなるし、気負うことなく俺たちのロックンロールをやれるのが今は楽しい。その楽しさやこだわりを伝えるのが俺たちの存在価値なんだろうね。